昨日の読売新聞群馬版に群馬県の森林の水源涵養機能について詳しく解説した記事が掲載されていました。
林野庁では、洪水を軽減し、渇水を緩和するという森林の働きを「水源涵養機能」と呼んでいます。この機能は「緑のダム」とも呼ばれますが、この言葉も林野庁によって考え出されたようです。
治水を目的に掲げるダム建設を検討する場合、科学的に見れば「緑のダム効果」を考慮する必要がありますが、わが国の河川行政において「緑のダム効果」は考慮されていません。森と川、海はつながりあっているものですが、省庁の縦割り構造の中で、それぞれが切り離されて管理されているのが現状です。
かつては都市用水の急増に対応して必要性が叫ばれたダム建設も、水余りが年々顕著になっていることから、「治水」に重点が置かれるようになってきましたが、国は「森林の状態の変化は洪水の規模とは無関係」と主張し続けています。
(参考図書:「緑のダム 森林・河川・水循環・防災」http://www.amazon.co.jp/%E7%B7%91%E3%81%AE%E3%83%80%E3%83%A0%E2%80%95%E6%A3%AE%E6%9E%97%E3%83%BB%E6%B2%B3%E5%B7%9D%E3%83%BB%E6%B0%B4%E5%BE%AA%E7%92%B0%E3%83%BB%E9%98%B2%E7%81%BD-%E8%94%B5%E6%B2%BB-%E5%85%89%E4%B8%80%E9%83%8E/dp/4806713007)
昨年から今年にかけて利根川の河川整備計画を策定するために開催された有識者会議では、「緑のダム」の問題がクローズアップされました。これは民主党内で八ッ場ダムに反対した議員らが推薦した有識者らが、森林をの保水力を考慮に入れずに八ッ場ダム事業の必要性を主張する関東地方整備局の問題を指摘したからです。しかし関東地方整備局は、「利根川の河川整備計画は関東地方整備局が策定します。」という言葉を繰り返すのみで、「緑のダム効果」について真摯な説明をすることなく、一方的に有識者会議を打ち切り、八ッ場ダム事業を組み込んだ河川整備計画を策定してしまいました。
今朝の新聞記事によれば、群馬県内の森林の全保水容量は、現在11億8000万トンと、利根川上流の8つの巨大ダムと遊水地の合計貯水量の約2倍に達するということです。
これまで国と群馬県は、ダム事業によって犠牲となる水没住民の犠牲の見返りとして予算付けされる地域振興事業やダム湖観光が過疎化する群馬県の山村を活性化させると言ってきましたが、ダム完成後、地域の衰退が一層進んでいることは、今年国交省が公表した水資源白書でも取り上げられています。
https://yamba-net.org/wp/?p=5333
かけがえのない土地を水に沈め、地域再生の可能性を奪うダム事業ではなく、森の保水力を高めるために森林整備に税金を投入することが治水の上でも、地域活性化の上でも必要な施策ではないでしょうか。
読売群馬版の記事を転載します。
◆2013年8月29日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/feature/maebashi1377703087618_02/news/20130829-OYT8T00065.htm
ー創る森林 42.5万ヘクタール「緑のダム」ー
11.8億トン貯水に匹敵 県推計
県内の森林は約42万5000ヘクタールあり、関東地方7都県で最大だ。首都圏に水を供給する利根川や渡良瀬川の水源であり、その公益的機能は極めて高い。よく耳にする「森林の水源かん養機能」の具体的な姿とは何だろうか。水源として望ましいのはどのような森林だろうか。
■主要8ダム・遊水池の倍
「森はいろいろなことを語ってくれる」という中島さん。このサワグルミの森は林野庁の「林木遺伝資源保存林」に指定されている(みなかみ町で)
「あそこを見てください」
谷川岳の一ノ倉沢(みなかみ町)に通じる国道291号で、みなかみ町藤原の森林インストラクター中島武さん(55)が指し示した斜面には、サワグルミが無数に生えていた。
サワグルミは渓流沿いに生える落葉広葉樹だが、ここに沢は見当たらない。しかも通常の生え方と明らかに異なり、斜面の上まで広範囲に生えている。中島さんの解釈はこうだ。
「地下水位が高いため、ある時、斜面が一気に崩れたのだろう。そこにサワグルミの種が飛んできて林になった。トチノキが交じっているのも、地下水位が高いことを示している」
森林は降った雨をためる“緑のダム”とも言われる。直接見るのは難しいが、地面や植生を観察することで、水の存在を感じ取ることができる。
水が一時的にたまる場所は、スポンジに例えられる土壌中の隙間だ。隙間が大きいと水は速く移動し、小さいとゆっくりと動く。土壌中の隙間にしみ込んだ水は、河川に徐々に流出してゆく。これが水源かん養機能だ。水源かん養保安林は、県内の森林面積の4割を占める。
県林業試験場は1983年から86年にかけ、県内の民有林で水源かん養機能の計量化調査を行った。672地点を対象に地面の状況、植生、土壌などを調べ、347地点では、隙間のうち保水に大きく関係する「粗孔隙(そこうげき)」を自然の状態で測定し、残りの地点については計算式で推定した。その結果、県内の民有林全体の保水容量は6億2570万立方メートルと推計された。森林1平方メートル当たりでは、ドラム缶約1・4本分に上る。県はその後、国有林についても推計を行い、県内の森林の全保水容量は現在11億8000万トンと、主要8ダム・遊水池の合計貯水量の約2倍に達するとみている。
■放置で失われる力
森林が全て保水力が高いとは限らない。
県内の森林面積の4割はスギやヒノキなどの人工林だ。利根沼田森林組合専務理事の鈴木敏雄さんによると、植林後に放置されたスギやヒノキは、木の成長につれて太陽光が枝葉に遮られて林床に届かなくなり、下草も生えず、表土がむき出しになっていく。その状態では、雨滴が地面を削り、急傾斜地では土壌流出を招くこともある。これでは保水力は失われる。
利根川源流の町・みなかみ町に2008年10月、官民合同の「利根川源流森林整備隊」(隊長=岸良昌みなかみ町長)が誕生した。副隊長を務める鈴木さんによると、利根沼田地域でも戦後、スギやヒノキ、カラマツ、アカマツが植林されたが、今では手入れ不足が目立つという。
整備隊には、同組合の組合員やボランティアら約180人が登録。町外は前橋市や高崎市が多く、過去には都内の会社員もいた。発足当初からのメンバーで前橋市の相沢興三さん(70)は「若い頃から山歩きをしていたので、山が少しでもきれいになればと恩返しのつもりで応募した。人工林も手入れをすれば、天然林と同じように良い水が出ると思う」と話す。
森林の土壌を移動した水はやがて川の水となって流れ下る
活動は毎月末の土日、チェーンソーなどに習熟した隊員20~30人が、手入れ不足の森林の刈り払いなどを行う。その後、森林組合などが間伐や搬出を行う。
整備対象は約4000ヘクタールの民有林で、毎年約100ヘクタール前後で作業している。鈴木さんは「10年後、20年後を想定し、成長の悪い木を間伐して、残した木を立派に育てる」と語る。
間伐や枝打ちは、立派な木材を育てると同時に森林の保水力を回復させる取り組みでもある。「間伐を行ったスギやヒノキの森は、時間がかかっても、やがて下草や広葉樹が生える」と鈴木さん。そうなれば、枯れ葉が分解されるなどして土壌が豊かになり、隙間も増えていく。
利根川源流森林整備隊によって間伐された森。間伐によって下層植生が復活している
県に登録している森林ボランティア団体は現在、約50団体。県緑化推進課によると、活動はほとんどが森林整備という。(2013年8月29日 読売新聞)