石木ダム行政代執行めぐる長崎県知事の姿勢

 半世紀前から続く長崎県の石木ダム事業は、事業用地に13世帯の住民が暮らしていますが、強制収用手続きが完了して年数がたっています。県と住民との断絶が続く中、半年後に知事選を控える中村知事が行政代執行の指示を出すかどうかが焦点となっています。
 ダム建設に反対する声が多い中、中村知事は世論の反発を招くことが必至な行政代執行を先送りしているようですが、それは「無責任」な態度だと、西日本新聞の記者が批判しています。

◆2021年10月13日 NHK長崎放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20211013/5030013018.html
ー石木ダム建設めぐる行政代執行 中村知事「最後の最後の手段」ー

 長崎県の中村知事は定例の記者会見で、石木ダム建設をめぐる強制的な家屋の撤去などを伴う行政代執行について「最後の最後の手段であり、ほかに取り得る方法がないという段階で検討を進めていく選択肢だ」と述べました。

川棚町で建設が進む石木ダムをめぐって長崎県は、中村知事と建設に反対する地元住民との直接の話し合いを模索してきましたが、期間として設定していた8月末までには実現せず、先月8日、本体工事に着手しました。

中村知事は13日開かれた定例の記者会見で、焦点となっている強制的な家屋の撤去などを伴う行政代執行について「最後の最後の手段であり、ほかに取り得る方法がないという段階で検討を進めていく選択肢だ」と述べたうえで、工事の進捗状況などを踏まえて総合的に判断したいという考えを改めて示しました。

また、地元住民との直接の話し合いについては「反対住民の皆様にご理解、ご協力を頂いて事業を進めていくことが最善の方法であると考えており、条件が整えば今後とも話し合いの機会を頂いて参りたい」と述べました。

一方、中村知事は、来年2月20日に投票が行われる知事選挙への対応について「もう少し時間を頂いて検討させてほしいという話をしていたが、現時点でもそうした状況に変わりはない。これまでの選挙への対応は11月前後に発表してきたので、いましばらく時間を頂きたい」と述べました。

◆2021年10月15日 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/816189/
ー石木ダム工事現場から思う「無責任」ー

 稲穂が垂れる秋になっても、テントの座り込みは変わらず続いていた。

 10月上旬、長崎県川棚町川原(こうばる)地区の石木ダム工事現場。交代で座り込むのは水没予定地の13世帯約40人と支援者たち。1975年に国が事業を採択してから46年の月日が経過した。「もうここまで来たら絶対に負けるわけにはいかんやろ」。住民の岩本宏之さん(76)は苦笑いする。

 静かな山あいに「ダム絶対反対」の看板が並び、県職員の動きを監視する小屋ややぐらが立つ。その光景に驚き、昨夏から現場に通い続けている。今年6月からは本紙のニュースサイト「西日本新聞me」に「石木ダム・リポート」を随時配信し、にらみ合いが続く現場の様子を伝えた。

 県と佐世保市が、川棚川流域の治水と市の水源確保を目的に計画する石木ダムは、立ち退きに応じなかった住民たちの反対運動で長く膠着(こうちゃく)してきた。

 住民側の心に深く刻まれているのは行政への不信感だ。かつて、事前に住民の同意を得るという「覚書」をほごにして始まった建設手続き。県警機動隊を投入し、座り込む住民を排除して強行した測量調査。そもそもダムは本当に必要なのか。事業開始から約半世紀。社会環境も大きく変わったのに、県は「喫緊に必要不可欠」と同じ説明を繰り返すばかりじゃないか―。

 13世帯が暮らす家屋は、強制収用を可能とする土地収用法の手続きが取られた。事業着手から4人目の知事で、来年春に3期目の任期を終える中村法道氏は強制収用を「最後の手段」としつつ、対話による「円満解決」を強調する。だが実は、どちらも進める気がないように思える。

 今夏、県は2年ぶりとなる知事との話し合いを住民側に提案。その条件を巡って両者の文書のやりとりが続いたが、県は住民が求めた工事中断などで折り合う気配を見せず、決裂した。残ったのは、合意形成に向けて努力したがかなわなかった、という県の「実績」。直後に着手した本体工事では、山の斜面の掘削や木の伐採がほそぼそと続く。

 「重すぎる決断は先送りするしかない。少なくとも手近な工事に着手すれば実績には見える」。ある県議は知事の狙いをそう推し量る。その間も、週6日の住民の座り込みは続く。

 当初は1979年度だった完成予定は延期を繰り返し、現在は「2025年度中」。反対運動の中心は高齢者で、持病のある人も少なくない。一体誰がこの現状にけじめをつけるのだろう。尻拭いさえできない為政者に「無責任」という言葉しか浮かばない。

 いわさ・りょうすけ 名古屋市出身、2016年入社。北九州本社を経て20年8月から佐世保支局で石木ダム問題などを担当。29歳。