さる12月12日、八ッ場ダムが抱える問題について、会員対象にzoomによる報告会を行いました。
テーマの一つは「八ッ場ダム周辺の地盤」に関するもので、地質の専門家からなる当会の技術顧問団による分析の報告でした。
八ッ場ダムは複雑な地質からなる地域に建設されました。ダムの貯水池は多くの地すべり地と、大規模に盛り土造成された水没住民の移転代替地に囲まれています。このため、当会ではかねてより、八ッ場ダムによる災害の危険性の問題に取り組んできました。
報告会で映写したスライドは、以下の画像をクリックすると全ページが表示されます。
スライドの一部を以下に紹介します。
1.国土交通省の3つの報告書(情報開示資料)を分析し、現地調査と照合した結果についての報告
2.八ッ場ダム周辺の地盤で私たちが気になってきた主なものは、
〇ダム湖周辺に地すべり地多数。林層の変質、応桑岩屑なだれ堆積物が水を含み地すべりの危険性。
〇ダム湖畔の水没住民の移転代替地が場所によって深さ50メートルもの谷埋め盛り土であること。
その他、以下の問題もあるため、ダム堤周辺も継続して見ている。
〇ダム堤体近傍に地盤が変質している所が広範囲にみつかっていること。
〇ダムが建設された岩盤に亀裂が多数ある(ルジオン値が高い)。実施された薬液注入工法の効果。
3.ダム堤の左岸側(川原畑地区)に建設された付け替え国道の法面は、地盤の変状(地山にある黄鉄鉱が水や空気に触れて硫酸を出すなどして地盤が柔らかくなり、崩れる)により斜面崩壊の惧れがあるため、ロックボルトによる地山岩盤の締め付けが行われ、さらに昨年、落石防護も兼ねた鋼管杭によるすべり抑止対策が行われた。赤茶けた地下水が流れ、風化変質は依然として進行している。
4.ダム堤の脇のコンクリートの法枠も酸性の地下水により変色している。3の国道部分の下流側にあたり、ここも酸性熱水変質帯による影響と考えられる。
5.岩盤の割れ目を通してわずかだが漏水が発生していることが報告書からもわかる。ダム本体工事の際、薬液注入工を行ったが、すべての漏水を防ぐことはできなかった。
6.ダム堤下流右岸側(川原湯地区)の斜面も、小規模だが表層崩壊、落石崩壊を確認。漏水の影響か。
7.ダム湖周辺で国交省が観測している地点は多数あり、孔内傾斜計、地下水位計など様々な計測器が設置されている。中には、水位が上がると水没する地点もある。そのうちの一部を確認する。
8.川原畑地区の地すべり地、二社平(じしゃだいら)では、尾根の上部をカットすることで地すべりを抑止する排土工を実施し、観測機器をいくつも設置。孔内傾斜計の観測データではわずかな動きが認められるが、報告書では「変位は見られない。」としている。隣接する穴山沢は大規模な谷埋め盛り土で宅地造成。
9.林地区の勝沼では、地すべり地を「八ッ場林ふるさと公園」として整備。ここにも大量の計器設置。
報告書のデータを見ると地盤が僅かに変位しているようだが、「管理基準値内」「明瞭な変位は見られない」としている。「管理基準値」とは、国交省砂防部と(独)土木研究所が作成した「地すべり防止技術指針同解説書」(平成20年)で定義づけられた値。はたして、この判断でよいのか?
10.林地区・勝沼のすぐ脇(西側)の「管理用道路」周辺に、今年になって計測器と共に警報灯が新たに設置された。地盤に何らかの変状があったため、警報灯をつけて管理していると推測される。この地点を地盤伸縮計で計測した報告書のデータは、地盤が僅かに動いていることを示している。
11.次に水没住民の移転代替地における盛り土造成地を見ていく。写真は、ダム堤に隣接する川原湯地区の盛り土造成地(川原湯①)。観測データを見ると、明らかに地盤が動いており、報告書でも「沈下と考えられる変位が認められる」としているが、地すべりは起きていないとまとめている。
川原湯②は、道路をつくる時に崩れて擁壁を作り直した場所。変位杭で観測を行っている。川原湯③では道路にわずかに亀裂が入っているのが認められたが顕著な地すべりには見えない。川原湯②、③ともに報告書のデータではわずかな変位が認められるが、「明瞭な変位は見られない」と結論づけている。
12.川原湯の対岸にある川原畑地区の盛り土造成地(穴山沢)。ここも今年になって新たな計測器が設置された場所。盛り土部分につくられた道路には、亀裂が幾つも発達。車道と歩道の間が数センチ空いて、動いているのがわかる。亀裂の周囲には測量用の鋲が打ってある。測量しているはずだが、報告書にはこの変状についての記述はない。ここでも孔内傾斜計では変位を捉えているが、「明瞭な変位は見られない」としている。しかし、住宅のある道路面に明瞭な変位が起きているので、注視していかなければならない。
13.国交省は八ッ場ダム周辺で観測を行っているが、「管理基準値内」であれば「変状なし」としているが、予兆の可能性について詳細に検討する必要があると考える。全体のすべりを抑える地点で観測が行われているのかという問題もある。今後、累積して変状が明らかになることも考えられるので、ひき続き国交省が今後出す観測の報告書を情報公開手続きで入手し、地盤変状の検討と現地調査を行っていく。