八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダムの堆砂問題(zoom報告会その1)

 昨日、総会を行い、総会後に八ッ場ダムが抱える二つのテーマについての報告会を行いました。いずれもコロナ禍により、昨年に続き今年もzoom開催となりました。

 報告会で取り上げたテーマの一つは、八ッ場ダムの堆砂問題です。
 ダム計画ではダムに流入して堆積する土砂が100年でたまる量を見込んで、堆砂容量を確保します。多目的ダムである八ッ場ダムでは、総貯水容量から堆砂容量を引いた体積が利水容量、治水容量とされます。
 当会運営委員の嶋津暉之さん(元東京都環境科学研究所研究員)は八ッ場ダムの堆砂容量について、国土交通省の想定が甘く、堆砂容量が少なすぎることをかねてより指摘してきました。堆砂が進むとダムに期待される機能を発揮できないだけでなく、ダム上流端周辺で水害の危険性が高まり、浚渫に多額の費用を要し、想定の100年より早い時期に寿命を迎えます。
 ダム完成前の2019年秋の東日本台風では、八ッ場ダムの貯水池に上流から大量の土砂が流れ込みました。

 国土交通省の情報開示資料をもとに嶋津暉之さんが報告会で解説したスライドを紹介します。
 下の画像をクリックすると、スライドのデータが開きます。 
 八ッ場ダムの堆砂問題20211212集会 3版PDFのサムネイル

 なお、上記の分析に使用した国土交通省の開示資料は、以下の文字列をクリックすると表示されます。

 ★八ッ場ダム貯水池三次元計測業務報告書 令和3年2月   
  計画機関 国土交通省関東地方整備局 利根川ダム統合管理事務所  
  作業機関 朝日航洋株式会社
 

 報告会で映写されたスライドの一部を以下に表示します。

〇利根川上流の既設ダムにおける堆砂容量と現状について

〇利根川支流・神流川の下久保ダム(1968年完成、群馬県藤岡市)は当初計画の想定よりはるかに速く堆砂が進行している。

〇利根川支流・渡良瀬川の草木ダム(1976年完成、群馬県みどり市)は下久保ダムほどではないが、やはり想定より堆砂量は多い。

〇下久保ダム、草木ダムのほかに、利根川最上流の群馬県みなかみ町には藤原ダム(1957年)、相俣ダム(1959年)、薗原ダム(1965年)、矢木沢ダム(1967年)、奈良俣ダム(1990年)があるが、利根川支流・吾妻川中流部に建設された八ッ場ダムの流域面積(711.4㎢)はこれら7ダムよりはるかに広い。上流部の地質を考えても、八ッ場ダムの堆砂見込みは甘いと考えざるをえない。八ツ場ダムは土砂堆積により、50年で夏期利水容量が半減するのではないか。

〇八ッ場ダムの総貯水容量は1億750万㎥、計画堆砂容量は1750万㎥。洪水期(7月~10月5日)には洪水に備えて水位を下げる。利水容量と治水容量は洪水期と非洪水期で異なる。

〇ダムの堆砂状況は水深が深いところは測量船で、水深が浅いところは無人ボートにより観測している。堆砂は深い所では約11メートル。(情報開示資料より)

〇八ッ場ダムの堤体は2019年にコンクリート打設が完了し、放流設備の設置工事などを経て10月に試験湛水開始。10月12日に東日本台風が襲来し、大量の土砂が流れ込み、ダム完成の2020年3月より前の段階で、総貯水容量が減少。ダム湖の場所によっては、堆砂容量の配分図のラインより堆砂が深い所もある。
以下の表では、配分図のラインで見た容量の変化を示した開示資料の数字を使用。

〇東日本台風襲来前の2019年8月から襲来後の同年12月に堆積した土砂量は251万㎥、翌年11月までにさらに23万㎥増加。この時点における堆砂量274万㎥は想定の15.7倍であった。計算では、昨年11月の時点で100年のダムの寿命の15年分余の体積が埋まってしまったことになる。

〇ダム湖に流入する土砂は、ダムで川の流れを遮られることによって流速が急に落ちるダム湖の上流端周辺が最もたまりやすい。堆砂が進行している各地のダムでは、ダム湖の上流端周辺で水害が発生しやすくなるという問題が起きている。
 八ッ場ダム貯水池の上流端は、長野原町庁舎、JR長野原草津口駅など公共施設が集積しており、河床の上昇を放置するわけにはいかない場所である。

 利根川ダム統合管理事務所の担当者に問い合わせたところ、
 「(2019年の台風19号で八ツ場ダム湖の河床が上昇し、2021年2月時点の調査結果では上昇しているが、)その後のダム湖の浚渫で現在は河床が低下しているので、問題はない」ということであった。
 浚渫土砂については、「原石山の穴(八ツ場ダムの堤体工事の骨材の採取のために掘った穴)に運んだ。」「原石山の穴にこれからもそのような空き容量があるかどうか分からない。」ということであった。

 八ツ場ダム湖の土砂堆積状況については、今後も情報公開請求で新たな情報を得て検討することにしたい。

写真=東日本台風襲来直後のダム湖上流端。右岸側に長野原町庁舎と住民センター、左岸側にJR「長野原草津口駅」がある。2019年11月12日、長野原駅前大橋より撮影。

写真=ダム湖の上流端周辺では、水位が下がる洪水期に堆積した土砂の浚渫作業が行われていた。ダム湖の中には、他にも土砂が大量に堆積している場所があるが、水位が下がる時期であっても水深が深いため、たとえ浚渫作業を行うとしても容易ではない。2021年8月27日、下流側から撮影。