八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「設楽ダム」構想から約50年 遠い完成…ダム建設に翻弄された住民の誰もいないふるさと思い

 愛知県で国土交通省が建設を進めている「設楽ダム」予定地のこれまでを、予定地から立ち退いた元住民の視点から振り返ったニュース記事を紹介します。
 
 設楽ダム計画が公表されたのは、今から半世紀も前のことです。
 事業用地の住民の移転はすでに終わりましたが、ダムに不適な建設地での事業は難航が予想され、さる5月17日には国土交通省中部地方整備局が工期を8年延長し、事業費を800億円増額する計画変更案を発表しました。ダム行政では計画変更案は事業者の意向通りに了承されますので、設楽ダムの完成予定は12年後の2034年度、事業費は約3200億円となります。高齢となった住民の中には、これほどダム事業が遅れるのであれば、ふるさとにもっと長く住み続けられたのにという思いを抱く方もいるでしょう。
 少しでも長く故郷に住み続けたい、住み続けたかったと仰った八ッ場ダムに沈んだ土地から立ち退いた住民の声を思い出します。

〈参考記事〉「設楽ダム建設事業、工期8年延長 事業費800億円増へ」

◆2022年5月24日 中京テレビ
ー「設楽ダム」構想から約50年 遠い完成…ダム建設に翻弄された住民の“誰もいないふるさと”への思い 愛知・設楽町ー

 多目的ダムとして建設が進められている愛知県設楽町の「設楽ダム」。17日、国土交通省は、工期の延長、完成を2034年と公表しました。建設事業の停止、再開、工期の延長…。ダム建設にふりまわされて約50年。ふるさとを離れた住民の思いはー。

通行止めの看板の前で、奥を見つめているのは、金田利幸さん。

「向こう側が僕の住んでいた所なんですけども。もう8年前ですね」(金田利幸さん)

この場所を離れた理由。それは、ダム建設に伴い、家屋が水の中へ沈んでしまうからでした。

愛知県の北東部に広がる三河山間地域。その中央に位置する人口約4400人の設楽町。

この町に、国が治水、利水のための多目的ダムとして建設を進めているのが「設楽ダム」。

ダム建設が公になったのは、今から約50年も前のこと。

最初は、30代から40代の働き盛りの町民の大部分が、ダム建設に反対していました。

ところが、町の主産業の林業が徐々に衰退し、若者は次々と町を出ていったのです。

今から20年前、ダムを建設する国土交通省と、水没する地区の住民が、建設に向けて、用地測量の調査を行うことで合意。

その8年後、町と国、県の間で建設に同意する調印式が行われ、巨大ダムは建設に向け、ようやく動き出したのです。

ところが、調印式からわずか7か月で、政権交代により、「コンクリートから人へ」という理念のもと、数々の公共事業が廃止、凍結とされ、設楽ダムの建設も事実上ストップ。

先行きは不透明でも、ダムによる水没予定地では、住民の移転が急速に進んでいました。

124世帯が移転するうち、最も水没する家が多いのは、金田さんが区長を務めていた八橋地区。

手元には、地区の電話一覧表がありました。

かつて57世帯が名を連ねていましたが、住民が転出するたびに黒インクで消していくと、真っ黒になってしまいました。

「やっぱり生まれた土地がなくなる、地図の上から、この八橋っていう所が消えるっていうことは、言葉で言い表せない。その胸の中のつかえっていうものが、やっぱりあるんだよね」(当時の金田さん)

8年前に開かれた八橋の歴史に幕をおろす「閉区式」。

地図から、ふるさとが消えてしまうのです。

住民は、長く住み慣れた地に思いをはせながら、静かに別れを告げました。

4年後のダム完成を目指し、工事は順調に進んでいたと誰もが思っていた矢先―。

国土交通省は5月17日、工期を8年延長し、2034年度に完成。さらに、建設費も約800億円増え、総事業費は3200億円になる見通しだと公表したのです。

変更の理由として、新たに地滑り対策や、働き方改革による作業員の労働時間の短縮。さらに、近年の資材高も、総事業費増加に影響したといいます。

ダム完成まで12年。2034年に90歳になる金田さん。

「ほんとはこの八橋で、このきれいな空気で老後を楽しみたいなというような方が、たくさんいたんじゃないかなと思いますけどね。もうやりきれないっていうよりも、もう、あきらめちゃってるほうが、みなさん多いんじゃないですかね」(金田さん)

ダム建設が公になってから約50年。金田さんの住んでいた八橋地区は、今は、もう誰もいないのです。