球磨川の市房ダム(熊本県営)、緊急放流に備え、流域住民に早めの避難促す運用開始

 熊本県は球磨川上流の県営市房ダムについて、降雨によってダムの貯水容量が半分ほどになった段階で新たに警戒情報を出し、緊急放流せざるを得ない事態に備えて、流域住民に早めの避難行動を促す運用を6月から始めると発表しました。2020年7月の熊本豪雨の際、市房ダムは球磨川水害の最中に緊急放流を行うと情報発信、最終的にギリギリの段階で緊急放流を回避したものの、実際に緊急放流が行われれば、水害被害はさらに甚大であったと考えられます。

 ダムは流域住民を水害から守るために建設されるのですが、ダム計画の想定を超える大雨が短時間に集中すると、流域住民はダムからの緊急放流に備えて避難行動をしなければなりません。ダムがなければ、ダムの治水効果を前提としない河川改修が行われてきたはずですが、ダムがあるためにそれが行われず、流域住民は危険にさらされるのです。

 市房ダムは球磨川の環境にも大きな影響を与えています。右の写真は15年以上前の写真ですが、市房ダム下流の球磨川の河床を撮影したものです。市房ダムによっ
て土砂の供給が遮られたため、市房ダム下流の河床は侵食が進んで、軟岩が露出しており、河川環境が悪化しています。

 現在、国土交通省は球磨川の具体的な治水対策を決定する球磨川河川整備計画を策定しようとしており、その原案では市房ダムは再開発することになっていますが、緊急放流問題と環境問題から考えれば、市房ダムはむしろ撤去を検討すべきものです。

 関連記事を転載します。

◆2022年5月24日 熊本日日新聞
ー市房ダム、早めに警戒情報 緊急放流に備え避難促す 6月からー

 熊本県は24日、球磨川上流の県営市房ダム(水上村)について、降雨によってダムの貯水容量が半分ほどになった段階で新たに警戒情報を出す運用を、6月1日に始めると発表した。2020年7月豪雨の教訓を踏まえ、緊急放流せざるを得なくなる事態に備えて、下流域の住民に早めの避難行動を促したい考えだ。

 市房ダムは20年7月4日に発生した豪雨災害で、未明の午前2時10分に「水をためる洪水調節を始めた」と関係市町村などに通知。その後も水位の上昇で満杯に近づいたが、午前6時半に河川からの流入量をそのまま下流に流す緊急放流(異常洪水時防災操作)の予告情報を出すまで、約4時間にわたって新たな情報発信がなかった。

 緊急放流は寸前に回避されたものの、予告情報が出た時点で下流の人吉市などでは既に球磨川の氾濫で浸水被害が発生しており、住民から「(さらに水かさが増える)緊急放流に恐怖を感じた」との声が相次いだ。

 県によると、新たな運用では20年豪雨と同規模の流入量になった場合、緊急放流の予告情報の約1時間前に警戒情報を出す。県河川課は「河川の水位や土砂災害などの情報と合わせて避難に役立ててほしい」と呼びかけている。

 市房ダムは1960年に完成。これまでに梅雨や台風などの大雨に伴い71年、82年、95年の3回、緊急放流をしている。(髙宗亮輔)

◆2022年5月25日 西日本新聞
ー市房ダム、放流前に早めの発信 熊本豪雨教訓、「貯留能力の半分」もー

 熊本県は6月1日から、球磨川上流の県営市房ダム(水上村)の防災情報を拡充し、緊急放流予告に至る前に、避難判断のきっかけにしてもらおうと「貯留能力の半分情報」の発信を新たに始める。2020年の熊本豪雨時は、緊急放流の予告の段階で既に浸水が始まっており、逃げ遅れた人たちが恐怖を感じたことを教訓とした。県によると、全国でも珍しい試み。

 市房ダムの防災情報の提供は主に(1)予備放流開始(2)洪水調節開始(3)緊急放流2時間前(4)同1時間前-の4段階。県は「熊本豪雨で避難行動を支援する役割を十分に果たせなかった」との反省を踏まえ、貯留能力の半分に達した時点で住民に伝え、避難の準備や開始の判断材料としてもらう考え。

 20年7月4日の豪雨時、市房ダムは午前2時10分に洪水調節開始を通知。緊急放流2時間前通知は午前6時半、1時間前通知は同7時20分だった。同8時45分に緊急放流の「見合わせ」、同10時半に「行わない」と通知。最終的に緊急放流は回避した。

 一方、球磨川の氾濫発生情報が出された時刻は、球磨村渡地区で同5時55分、人吉市で同7時50分。先行して支流が氾濫し、地元消防の記録では同6時40分以降、人吉市では「逃げ遅れ」「車両水没」「床上浸水」の119番が増えた。

 県河川課によると、市房ダムはこれまでに豪雨や台風で3回緊急放流している。熊本豪雨時に「半分情報」があれば発信は同5時半ごろ。過去99回の洪水の3割が「半分情報」を出す基準に達しているという。 (古川努)

◆2022年5月24日 RKK熊本放送
ー早期避難につなげる 熊本県の市房ダムで新たな情報発信 2020年豪雨を教訓にー

 球磨川(くまがわ)の上流にある市房(いちふさ)ダム。2020年7月の豪雨で緊急放流の予告が出された際、川は既に一部で氾濫していました。
 そこで、今後住民の早期避難につなげられるよう、今回新たな情報発信の基準が設けられました。
 その基準は「貯留能力の半分まで水がたまった」というもので 2020年7月の豪雨で言えば、球磨川が氾濫する30分ほど前のタイミングで出されます。

市房ダム
 当時 市房ダムの管理事務所は、氾濫の4時間ほど前、ダムへの水の流入が一気に増えだした時に流域の自治体に通知を出しました。

熊本県市房ダム管理所 塚本 貴光 所長(当時)
「異常洪水時防水操作(緊急放流)に入る可能性がある。時間はまだ未定」

 ただ、次の通知は基準がなかったため、球磨川が氾濫した30分後に「緊急放流の予告」というタイミングでした。

 これでは流域住民の早期避難につながらないと、今回ダムを管理する県が新たな基準を設けました。

 また、当時 球磨川が氾濫した後に「緊急放流」という言葉が出てきたため、恐怖を感じた住民がいたことも基準を設けた背景とされています。
 この情報発信は6月から始まります。

—転載終わり—

 熊本放送の記事に登場する、市房ダム管理所の塚本貴光 所長(当時)が記した当時のメモは熊本県の歴史公文書になっています。

 「寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に」(2021年6月29日付 読売新聞)
 https://yamba-net.org/55341/