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川辺川ダムを観光資源に、蒲島熊本県知事が五木村民に説明会

 熊本県の蒲島知事は、新たな川辺川ダム計画について水没地を抱える五木村民の理解を得るために説明会を開きました。
 八ッ場ダムでは国と群馬県が「ダム湖観光」による地域振興を水没地域にアピールし続けてきましたが、熊本県も川辺川ダムを観光資源にして地域振興を図るという説明をしたようです。新たな川辺川ダムは、洪水時だけ水を貯める「流水型」(穴あき)であるため、「ダム湖観光」はありません。通常は水がない広大な水没地域は、利活用できず、洪水が襲うたびに土石や土砂が堆積していくことになります。

 半世紀以上にわたるダム計画によって人口減少、高齢化が進む五木村。元村長の西村久徳村議(86)は説明会で「半世紀にわたってつらい思いをし、村は空っぽになってしまった。人材育成と言われても、人がいなくてはしようがない」と訴えたということです。ダム完成時(現在の予定は2035年度)には一体どうなっているのでしょうか。

◆2022年6月6日 熊本日日新聞
ー「ダム 振り回されたくない」  五木村説明会 知事に疑問、不満ぶつけるー

 「振り回されるのは、もうまっぴらだ」。ダム計画の白紙撤回を自ら表明した後、2020年の熊本豪雨を機に流水型ダムの建設要請へ方針転換した蒲島郁夫知事が5日、水没予定地を抱える五木村の村民と対面した。村の将来像が再び揺らぎだした村民は、疑問や不満の声を直接ぶつけた。

 「これ以上振り回されたくない。ダムを造るかどうかは村民だけに決めさせてほしい」。住民説明会に参加した男性(68)は、知事ら県幹部を見据えるように言い切った。

 1966年発表の旧川辺川ダム計画では五木村の中心部が水没するとされ、約500世帯が村内外に移転。2008年、蒲島知事は当時の「民意」を背景に白紙撤回を表明したが、熊本豪雨で考えを改めた。

 方針転換をわびる知事に村議の田山淳士さん(70)は、「村議会は旧川辺川ダムには同意したが、流水型ダムは認めていない。一方的に進めてほしくない」と要望。元村長で村議の西村久徳さん(86)も「下流域のため犠牲を払った苦しみは村民にしか分からない」と語気を強めた。

 県は流水型ダム建設を進める一方、上流で村民が求めてきた県営五木ダムは建設しない方針。農業の黒木一秀さん(65)は「知事は民意を理由に流水型ダムを造るなら、五木ダムを望む民意も検討すべきではないか」と問いただした。村の振興を巡っては「知事の任期中に財源を確保してほしい。知事が交代して方針が変わると絵に描いた餅になる」と注文を付けた。

 県が振興策の説明に使った資料は40ページ以上。ダムを生かした観光活性化策など多くのメニューを他県の事例と共に示した。だが、説明を聞いた元郵便局員の豊原袈年さん(76)は「村民を納得させたいのだろうが、地域で事情は異なる。五木にどれだけ当てはまるのか」と首をひねった。

 住民説明会では、ダム建設を求める声も出た。人吉市にも自宅があり、豪雨で甚大な被害を目の当たりにした元建設業の椎葉政奈さん(67)は「知事の意見に賛成。災害のない地域をつくり、企業を誘致して人口を増やしてほしい」と訴えた。(元村彩、川野千尋)

■「清流の村づくり覆る」振興に尽力してきた樅木さん

 「穴あき(流水型)ダムが本当に観光振興につながるのでしょうか」。五木村であった住民説明会で、上平瀬地区の樅木晴美さん(65)は蒲島郁夫知事に率直な疑問を投げかけた。

 3歳で八代市に転居し、結婚を機に30代で五木村へ帰郷。その8年後の1996年、村は旧川辺川ダムの着工に同意した。非水没地区に住む樅木さんは「このまま進むのだろう」と受け止めていたが、2008年に蒲島知事が白紙撤回を表明。水没予定地から移転した村民を思うと複雑な気持ちになる一方、「これで清流が守られる」と希望も感じた。

 その後、水没予定地を活用するため宿泊施設や公園が整備され、「村づくりはいい方向に進んでいた」という。自らもシイタケや葉ワサビを生産し、村物産館出荷協議会の会長として村振興に関わってきた。

 しかし、蒲島知事は再びダム建設へとかじを切る。「ダムで清流と生命を同時に守るのは難しい。村づくりがまたひっくり返される。できればダムは造ってほしくない」

 県から五木振興のアイデアを示されても、樅木さんの気持ちは晴れない。「なぜダムとセットなのか。ダムがなくても振興に取り組むべきだ。どこまで実現できるのか、もっと掘り下げて尋ねたかった」(中村勝洋)

◆2022年6月6日 朝日新聞
ー「ダム計画で2度の困惑、申し訳ない」熊本知事が一部水没の五木村でー

 川辺川への流水型ダム建設をめぐり、蒲島郁夫・熊本県知事が5日、五木村を訪れ、今後の振興計画を住民に直接説明した。村民から「振興策の財源は?」「ダムの可否は住民投票で決めさせてほしい」など、質問や要望が相次いだ。

 ダム建設計画で、村の一部が水没予定地となっている。2会場で開かれた説明会に計約130人の村民が参加した。

 川辺川へのダム建設計画は、蒲島知事が2008年に白紙撤回していったん中止されたが、20年の球磨川流域の豪雨災害を受け、球磨川水系の治水対策のため、国に建設を要望した経緯がある。

 会の冒頭、蒲島知事は「2度にわたり困惑させることになってしまい申し訳ない」と謝罪。清流と住民の命を守るため「ダムという選択肢は外せなかった」と流水型ダム建設にかじを切った理由を説明した。

 その後、県の担当者がダム見学ツアーやプロジェクションマッピングなど流水型ダムを生かした観光振興策や、ドローンを使った買い物支援、ICT(情報通信技術)による林業人材の確保など、ダムを受け入れた場合に実施される振興計画の概要を説明した。計画は国、県と村による協議を経て今秋にも策定予定だ。

 かつて村長を務めた西村久徳(ひさのり)村議(86)は「半世紀にわたってつらい思いをし、村は空っぽになってしまった。人材育成と言われても、人がいなくてはしようがない」「なぜ我々だけが流域の犠牲になるのか」と訴えた。(大貫聡子)

◆2022年6月6日 西日本新聞
ーバラ色の振興策、冷める五木村 初の新ダム説明会、熊本知事まず謝罪ー

 蒲島郁夫知事は5日、流水型ダムの貯水で旧中心部が水没する熊本県五木村民に対し、川辺川ダム計画の「白紙撤回」からダム容認へと方針転換した経緯を初めて直接説明した。「深くおわび申し上げます」。率直に謝罪し、新たな振興策を「不退転の決意で進める」と誓う蒲島氏に、半世紀にわたってダムに翻弄(ほんろう)されてきた村民は厳しい目を向けた。

 説明会は謝罪で始まった。蒲島氏は方針転換と、村民への説明の機会が遅れたことをわびた。「私は14年前、旧川辺川ダム計画の白紙撤回を表明した。そして今回、新たな流水型ダムの建設を表明した。五木村の皆さまを二度にわたり困惑させることになった」

 翻弄の歴史は1966年に始まった。国が発表したダム建設計画に、村では激しい反対運動が起きた。最終的に下流域の安全を考慮して苦渋の決断で集落移転に応じたが、次は下流域で反対運動が激化した。

 住民の対立と分断が深まる中、2008年4月に就任した蒲島氏は「民意」を根拠に同年9月、ダム計画の「白紙撤回」を表明した。だが、ダムなしの治水は進まず、20年7月の熊本豪雨が発生し、蒲島氏は同年11月、流水型ダム整備を容認する考えを表明した。

 説明会で村民からは「ダムを造っておけば災害はなかったかもしれない」「白紙撤回から10年以上、何をしていたのか」との指摘もあり、蒲島氏が「考えが及ばなかった。自分の決断が誤っていた」と率直に認める場面もあった。

 村の旧中心部の水没予定地は現在、宿泊やレジャー施設が整備され、振興の拠点となっている。「非ダム」前提の振興策を進めてきた村には戸惑いや不満が充満し、説明を求める声が上がったが、方針転換の表明から説明会開催まで1年半以上もかかった。

 「事前に説明がなかった。五木村は無視か。一方的に話を進めないでほしい」「いつまで振り回されるのか」「苦しみは五木村民でなければ分からない」

 この日、県はダム前提の新たな振興計画の方向性を示し、蒲島氏は「責任と覚悟を持って進める」と強調した。提示したイメージは、巨大公共工事の経済効果やデジタル技術を活用した未来的な村づくり、雇用を生み出す産業創出など「バラ色」だった。

 村民の反応は冷めていた。「旧計画でも見事な振興策があった。その結果はどうか」「五木村は(人口が)千人切った。人材育成と言うが、人がいないとどうにもならん」。説明会終了時の拍手はまばらだった。

 「(ダムの賛否は)振興策が固まった段階で判断することになるだろう」と木下丈二村長。蒲島氏は少し疲れた表情で「何度も努力して説明し続けなければならない」と報道陣に語った。(古川努、中村太郎)

ー川辺川の新ダム、「流水型」前提の振興策を初めて提示 熊本県、水没予定地の五木村にー

 2020年の熊本豪雨で氾濫した球磨川流域の治水対策として、支流の川辺川に国が整備する流水型ダムを巡り、熊本県は5日、貯水時に旧中心部が水没する同県五木村に対する新たな振興計画の方向性を初めて示した。ダムの経済効果で活性化を図るとともに、デジタル技術を駆使した「未来型」の村づくりを目指すとしている。国や村との協議を経て、今秋をめどに計画を策定し、財源の確保を進める。

 蒲島郁夫知事らが村民説明会で公表した。計画の方向性に、清流と流水型ダムを生かした振興▽医療、福祉、教育の推進▽産業、雇用の創出▽生活基盤の整備-の4項目を列挙。具体的なイメージとして、ダム建設作業員の飲食や宿泊で生まれる経済効果の活用や、ダム見学ツアーの開催、周辺へのレジャー施設整備といった村おこし策を例示した。 オンライン診療やドローンを使った買い物支援、自動運転バスの運行といった住民サービスの構想も掲げた。

 五木村は、旧川辺川ダム計画で旧中心部の集落が移転したが、蒲島氏は08年に計画を「白紙撤回」。その後、20年の熊本豪雨後に流水型ダムの整備容認に転換した経緯がある。

 説明会では、村民から「ダムを観光に生かせるのか疑問」「村はダム整備を了承していない」などの厳しい意見も多く上がった。蒲島氏は「不退転の決意で振興を進める」と述べた。 (古川努、中村太郎)

◆2022年6月5日 熊本日日新聞
ーダム活用の村づくり「不退転の決意」 熊本県の蒲島知事、五木村民に説明 豪雨被災で方針転換ー

 球磨川支流の川辺川に国が計画している流水型ダムを巡り、熊本県は5日、水没予定地を抱える五木村で新たな振興策に関する住民説明会を開催。蒲島郁夫知事が「ダムを最大限活用し、村の振興に不退転の決意で臨むことを固く誓う」と表明し、ダム計画への住民の理解を求めた。

 2020年7月の球磨川水害を経て、蒲島知事が同年11月に治水を目的とした流水型ダム建設を国に要請して以降、住民に直接説明する機会は初めて。08年に旧川辺川ダム計画の白紙撤回を表明した知事は、方針転換について「困惑させた上、結果として説明がきょうになり、深くおわびする」と住民に陳謝した。

 県が説明会で示した新たな村振興計画の概要案は、「清流川辺川と流水型ダムを生かした新たな振興」「医療・福祉・教育の推進」など四つの方向性を明示。具体策のイメージとして、工事中を含めたダムの見学ツアーや自然を生かしたイルミネーション、ドローンを使った買い物支援などを盛り込んだ。

 蒲島知事は、普段は水をためない流水型ダムについて「清流が残り、美しい自然を活用できる」とメリットを強調。増水時にたまった水が引いた後、村内の川底に土砂や流木などが残る懸念については「河川管理者の国と連携し、県として主体的に(対策に)取り組む」と述べた。

 一方、参加者からは「村の意見を聞かず、一方的にダム建設を進められても困る」「(ダム湖のない)流水型ダムが本当に観光振興につながるのか」など疑問の声が相次いだ。木下丈二村長は「村民が安心して未来に向かっていけると確信できた時に、村としてダム計画の是非を判断したい」と述べ、引き続き丁寧な説明を県に求めた。

 住民説明会は同村の五木東小と宮園体育館の2カ所であり、計124人が参加した。県は今後、国や村と協議して今秋をめどに新たな振興計画を策定する。(内田裕之)

◆2022年6月5日 毎日新聞熊本版
ー川辺川の流水型ダム「観光資源に」 熊本知事 九州豪雨で治水対策ー

 2020年7月の九州豪雨で氾濫した球磨川流域の治水対策として支流・川辺川に計画されている流水型ダムについて、熊本県の蒲島郁夫知事は5日、貯水時に中心地が水没する同県五木村を訪れ、村民向けの説明会を初めて開催した。蒲島知事はダム計画に翻弄(ほんろう)され続けた村民に謝罪したうえで、ダム完成後は見学ツアーなどを計画していると説明し、ダムを観光資源とする地域振興策を示した。

 五木村では1966年にダム計画が持ち上がり、下流域を巻き込んで賛成派と反対派に二分された過去がある。2008年に就任した蒲島知事はダム計画の白紙撤回を表明したが、20年7月に甚大な被害をもたらした九州豪雨を受け一転、川辺川に流水型ダムを建設することを発表した。

 説明会の冒頭、蒲島知事は「五木村の皆様を2度にわたり困惑させてしまい、まず深くおわびを申し上げる」と謝罪し、流水型ダムの建設を決断した経緯を説明。ダム完成後は、見学ツアーやダム壁に映像を映し出すプロジェクションマッピングなど観光資源として活用する振興策をはじめ、雇用創出や宅地造成、道路改良など生活基盤整備に取り組む意向を示した。

 蒲島知事は「2度の決断をした私だからこそ不退転の決意で取り組むことをここに誓う」と強調した。

 出席者からは「穴あきダムで観光振興につながるのか疑問」「五木の意見が無視され一方的に進められている」との意見も出た。

 説明会を傍聴した木下丈二村長は「過去の歴史も踏まえ将来にわたって五木で安心して暮らしていけると確信した時に、ダムの賛否は村として判断していきたい。今後も丁寧な説明を求めたい」と述べた。【野呂賢治、西貴晴】

◆2022年6月5日 共同通信
ーダム水没の村振興方針示す、熊本ー

 観光や福祉充実、豪雨受け川辺川

 熊本県は5日、2020年7月の豪雨で氾濫した球磨川支流の川辺川でのダム建設に関し、水没予定地を抱える五木村の振興方針を公表した。ダム見学など観光振興や福祉の充実を柱とした。

 同日、住民説明会が開かれ、出席した蒲島郁夫知事は「村を(ダム計画で)翻弄させたことをあらためておわびする。安心して暮らせる、持続可能な村を目指したい」と話した。

 県は振興策の例として、ダム工事の一般公開や、アウトドア施設の設置を提示。オンライン診療や小型無人機ドローンによる宅配など、先端技術を取り入れた福祉の充実も盛り込んだ。国と県、村で協議し、今秋にも村振興計画を策定するとした。

◆2022年6月5日 テレビ熊本
ー川辺川の流水型ダムについて五木村で住民説明会、蒲島知事が振興策を示すー

 国が建設を計画している川辺川の流水型ダムについて熊本県は貯水時に水没が想定される五木村で住民説明会を開き、蒲島知事が4つの振興策を示しました。

冒頭、蒲島知事がダム問題で住民を困惑させたことや住民への説明が遅くなったことを陳謝し、自然や清流を生かした振興計画の案を示しました。

案ではダムや川辺川を生かした経済振興やスマート林業など持続可能な産業の創出の4つの柱を説明。
一方で、貯水時に水没が想定される場所にある施設などへの対応は検討が必要としています。
【住民】
「私たちはいつまで振り回されなければならないのかまっぴらごめんです」

説明会に参加した住民からは「ダム前提で話が進んでいる」や「災害に強い人吉球磨にしてほしい」など様々な意見が挙がりました。

これらの意見に蒲島知事は「流水型ダムを含めた緑の流域治水について信念をもってぶれることなく取り組みたい」と話しました。