ダムの堆砂に関する質問主意書と内閣答弁

 川の流れは自然の循環の中で、山から海へ水とともに土砂を流す働きがあります。
 ダムができた川では、本来は海にもたらされる土砂がダムに堆積し、ダム上流の洪水リスクを高めたり、海岸線が後退するという問題が起きています。土砂はダムがある限り貯まり続け、歳月と共にダムの貯水容量(機能)を減少させていきます。

 それらのダムの中には、火山性のもろい地質や急流という地理的特性から、想定よりはるかに速いスピードで堆砂が進んでいるダムが少なくありません。このダムの堆砂の問題について、阿部知子衆議院議員が先月提出した質問主意書と、これに対する内閣答弁が衆議院のホームページに掲載されています。

★衆議院ホームページより

 計画を超えるダムの堆砂に関する質問主意書
 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a208095.htm

 この質問主意書では、全国の数あるダムの中から、八ッ場ダムと雨畑ダム、山鳥坂ダムが取り上げられています。
 八ッ場ダムはダム完成前に襲来した東日本台風の影響で、ダム完成後一年(2021年3月末)時点で299.5万㎥もの土砂が堆積していることが明らかになっています。堆砂が進行しているダムの上流端付近では早くも浚渫作業が行われていますが、内閣答弁によれば浚渫量は2万900㎥と、堆砂量に比べるとごくわずかです。

 富士川水系の雨畑ダム(1967年完成、山梨県)は、富士川の河口まで含めた環境汚染をきっかけにクローズアップされた(株)日本軽金属の発電専用ダムです。雨畑ダムの堆砂は全国のダムの中でもとりわけ深刻な状態で、ダム上流の集落はたびたび水害に見舞われています。

 山鳥坂ダムは愛媛県を流れる肱川水系で国土交通省が建設中のダムです。肱川水系では、2018年の西日本豪雨のさなか、国が建設・管理している既設の二つのダムが短時間に満杯となってしまい、緊急放流を行った直後に大水害となりました。国の三番目のダムとして事業が進められている山鳥坂ダムは、建設予定地付近で大規模な地すべりが発生する恐れがあるとして、ダム建設地を400メートル上流に移動させることになりました。(完成予定は6年遅れの32年度、総事業費は約470億円増の約1320億円となる見込み。)

 質問主意書で取り上げられているのは、いずれも重要な問題ですが、内閣の答弁を見ると、堆砂対策に要する具体的な額を把握していないという答弁(一の1)にも表れているように、堆砂という年々深刻になっていく問題にその場その場で対処療法的な対策(浚渫など)をとっているだけであるようです。
 

(以下の質問主意書と内閣答弁は、衆議院のホームページから転載する際、見やすいようにタイトルを太字にしてあります。)
 

令和四年六月八日提出
質問第九五号

計画を超えるダムの堆砂に関する質問主意書 提出者 阿部知子
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a208095.htm

 国土交通省は毎年度、全国のダム堆砂状況をまとめている。これは、百年間で堆積すると見込まれる計画堆砂量と実績(以後、堆砂量)をまとめたものだが、ウェブサイトに掲載している「国土交通省所管ダムの堆砂状況について」(以後、サイト掲載情報)で分かるのは概要だけで、個別ダムの堆砂状況や深刻度は分からない。そこで、資料請求を行い、「全国のダム堆砂状況について(二〇二〇年度末時点)」(以後、入手資料)を手にしたが、いくつかの疑問が浮かぶので、以下質問する。

一 堆砂対策費と費用便益比について
 サイト掲載情報によれば、二〇二〇年度末時点で、国土交通省所管のダム五百七十一基のうち一割以上にのぼる六十二ダムで計画堆砂量を超過しており、四十八ダムで堆砂対策を実施中である。
 1 国が支出している堆砂対策費は四十八ダムで年間合計どの程度か、把握できているのであれば、明らかにされたい。
 2 堆砂対策費は、ダム建設前に公表している費用便益比に算定されているのか。していないとすればなぜか。
 3 堆砂量が計画堆砂量を超過する要因、または計画堆砂量の過小評価が起きる原因にはどのようなものがあるか。

二 利根川水系の八ッ場ダムについて
 入手資料によれば、八ッ場ダムは二〇二〇年三月に竣工したが、二〇二一年三月末時点で既に十七年分に相当する土砂がたまっている。つまり、総貯水容量一億七百五十万立方メートルのうち、計画堆砂量は千七百五十万立方メートルと見込まれていたところ、堆砂量は二百九十九万五千立方メートルである。
 1 竣工後一年で十七年分相当の堆砂がダム湖に流入した要因をどのように考えているか。完成前の試験湛水中に襲来した二〇一九年十月の台風十九号はその要因の一つだと考えているか。また、その他の要因をどのように考えているか。
 2 国土交通省は二〇一一年十二月一日に開催した「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(以後、有識者会議)に提出した「八ッ場ダム建設事業の検証に関わる検討『堆砂計画』」で行った推定の何が間違っていたかを検証するつもりはあるか。
 3 八ッ場ダムの堆砂対策は既に始まっているか。始めているとしたらどのようなものか。
 4 有識者会議に提出された「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討『費用便益比算定』」には、堆砂対策にかかる費用が含まれていないように見えるが、間違いないか。含まれていないとすれば、費用便益比の「費用」は過小評価だったと言えるのではないか。堆砂量は、洪水調節容量や利水容量にも影響を与えるため、費用便益計算をやり直すべきではないか。

三 富士川水系の雨畑ダムについて
 一九六七年竣工の雨畑ダムについては、二〇二一年五月二十日衆議院災害対策特別委員会の質問で、堆砂量は二〇一九年度末時点で約千二百五十七万立方メートルであること、これは計画堆砂量六百万立方メートルの倍以上であり、総貯水容量約千三百六十五万立方メートルの九割強であることが確認できた。
 また、この堆砂量は、ダムの常時満水位の下に位置する土砂量であり、満水位より上に積み上がった土砂を含めれば、二〇二〇年十一月時点で千六百三十一万四千立方メートルと、総貯水容量の一・二倍を超えていることも確認できた。
 この雨畑ダム湖の上流端の地域では二〇一九年の台風十九号による崩壊土砂で浸水被害が起きたため、ダム管理者である日本軽金属株式会社(以後、日軽金)が、二〇二〇年度に「雨畑ダム堆砂対策基本計画」を立て、同年度に計画の百五十万立方メートルを上回る百六十五万立方メートルの土砂移動と搬出を行った旨を国土交通大臣政務官が答弁した。
 しかし、今回の入手資料によれば、二〇二〇年度末時点の満水位以下の堆砂量は千二百六十六万五千立方メートルと増えている。
 1 常時満水位より上の土砂も含めた堆砂量も増えたと考えられるが、どの程度増えたのか、政府の把握するところを答えられたい。
 2 先述の委員会で私は、雨畑ダムでの取水は不可能となり、既に水利権許可の四条件(公共の福祉の増進、水利使用の実行の確実性、安定的に取水を行える、治水上その他公益上の支障を生じさせるおそれがない)のどれも満たしていないので、日軽金に与えた水利権許可は取り消すべきではないかと尋ねた。これに対し、大臣政務官は日軽金の「堆砂対策の計画に基づく対策によりまして治水上の課題の改善が見込まれるため(略)、現時点においては許可を取り消すべきとは考えておりませんが、必要と認められる場合には、工作物の除去も含め、指導、技術的助言等の措置を行う」と答弁を行った。その後、一年が経過したが、政府は今でも治水上の課題の改善が見込まれると考えているのか。
 3 発電目的の「水利使用の実行の確実性」も「安定的に取水を行える」見込みもないのであれば、大臣政務官が答弁したように、工作物の除去、すなわち雨畑ダムの撤去も含めた措置が必要ではないか、政府の見解を答えられたい。

四 肱川水系の山鳥坂ダムについて

 二〇二一年十二月二十日の「山鳥坂ダム工事事務所ダム事業費等監理委員会」資料によれば、国土交通省は、ボーリング調査で地すべり地が新たに判明したため、地すべり対策等で事業費八百五十億円を千三百二十億円に増大、工期を二〇二六年度から二〇三二年度に延長するため、河川法に基づく河川整備計画の変更を進めようとしている。
 1 ダムサイトを上流に移すことでダムの総貯水容量が減るとしているが、現計画で百七十万立方メートルとしている計画堆砂量はどうなるのか。
 2 計画変更で事業費や維持管理費は増大する一方、総貯水容量が減れば、費用便益比は減じると考えられるが、計画変更前と後でどのような算出結果となっているのか。

五 計画堆砂量と堆砂量の情報公開について
 雨畑ダムのような上流端での浸水被害の他、異常豪雨に伴う緊急放流なども鑑みれば、地域住民にとっては、個別ダムの堆砂状況は生命・財産を守るための重要な情報になり得る。サイト掲載情報のような概要にとどまらず、個々のダムの計画堆砂量や堆砂量についても公表すべきではないか。

 右質問する。

 衆議院議員阿部知子君提出計画を超えるダムの堆砂に関する質問に対する答弁書
 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b208095.htm

 令和四年六月十七日受領
答弁第九五号

  内閣衆質二〇八第九五号
  令和四年六月十七日
内閣総理大臣 岸田文雄

       衆議院議長 細田博之 殿
衆議院議員阿部知子君提出計画を超えるダムの堆砂に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

一の1について
 国土交通省が所管するダムのうち、堆砂容量を超過しており、堆砂対策を実施しているものに係る当該対策に要する費用については、基本的には当該ダムに係る維持管理費用に含まれているが、現在、その具体的な額については把握していない。

一の2について
 ダム事業の新規事業採択時評価等における費用対効果分析の算定基礎として、ダムの建設及び維持管理に要する費用を計上しており、当該費用には、当該ダムに係る堆砂対策に要する費用が含まれている。

一の3について

 御指摘の「計画堆砂量」は、新設するダムの貯水池に百年間に堆積する土砂量について、当該貯水池と地質等が類似する地域に存在する既設ダムの貯水池の堆砂量等から推定したものである。
 お尋ねの「堆砂量が計画堆砂量を超過する要因、または計画堆砂量の過小評価が起きる原因」の一つとしては、「計画堆砂量」を推定したダムの貯水池と当該推定に活用したダムの貯水池の存する地域の地質等が同一ではないことが考えられる。

二の1について
 御指摘の「竣工後一年で十七年分相当の堆砂がダム湖に流入した」の意味するところが必ずしも明らかではなく、また、八ッ場ダムの貯水池の堆砂の原因について詳細に把握しているものではないが、令和三年三月末時点における当該ダムの貯水池の堆砂は、令和元年台風第十九号によるダムへの流入水の作用も原因と考えられる。

二の2について
 お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、八ッ場ダムの堆砂容量については、近傍の既設ダムの貯水池の堆砂量等から八ッ場ダムの貯水池に百年間に堆積する土砂量を適切に推定して決定したものである。

二の3について

 八ッ場ダムにおいては、維持管理の一環として、令和三年度に、その貯水池に堆積した土砂のうち約二万五千九百立方メートルを排除したところである。

二の4について

 御指摘の「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討『費用便益比算定』」においては、八ッ場ダムの建設及び維持管理に要する費用を計上しており、当該費用には、八ッ場ダムに係る堆砂対策に要する費用が含まれている。


三の1について

 雨畑ダムについては、国土交通省において、日本軽金属株式会社に対して定期的に堆砂量の報告を求めているところであり、その結果によれば、常時満水位を超える堆砂量も含めた堆砂量は、令和元年十一月時点で約千六百四十一万六千六百立方メートル、令和二年十一月時点で約千六百三十一万三千六百立方メートルであり、この一年間に約十万三千立方メートル減少していると承知している。

三の2について

 令和二年四月に日本軽金属株式会社において策定された雨畑ダム堆砂対策基本計画に基づき、現在、同社において必要な対策が講じられていることから、政府としては、雨畑ダムにおける治水上の課題については改善が見込まれると考えている。

三の3について
 三の2についてで述べたとおり、政府としては、雨畑ダムにおける治水上の課題については改善が見込まれると考えているため、現時点において、御指摘のような措置を講ずる必要はないと考えている。


四の1について

 山鳥坂ダムの堆砂容量については、現行の肱川水系河川整備計画と変更後の当該計画において同量となる見込みである。

四の2について

 令和四年四月二十二日に開催された「第七回肱川流域学識者会議」で示された現行の肱川水系河川整備計画に基づく山鳥坂ダム建設事業の費用便益比は一・三、同会議で示された当該計画の変更案に基づく当該事業の費用便益比は一・二となっている。


五について

  御指摘の点については、今後、検討してまいりたい。