さる7月14日、国土交通省九州地方整備局は事業評価監視委員会を開き、川辺川ダム、球磨川直轄河川事業などの再評価の結果を報告しました。
川辺川ダム計画には、半世紀以上前に計画され、関連事業が進められながら10年以上前に中止することになった旧計画と、2020年の球磨川水害以降、改めて「流水型(穴あき)」として蘇った新たな計画があります。いずれの計画もダム建設地や水没地域は変わりませんから、旧計画でつくられた道路や橋はそのまま利用されることになっています。水没地域から移転した住民への補償等もすんでいることから、新たな計画は割安であることがアピールされており、今回の報告でも費用対効果(B/C)は1.9、つまり費用の倍近い効果があるとされています。
しかし、実際には旧計画と新計画は連続しているのですから、旧計画で支出された費用を除外した計算は意味がありません。旧計画の支出も含めると、川辺川ダムの費用対効果は0.4、つまり費用の半分以下の効果しか見込めないということになります。
事業評価監視委員会で配布された以下の資料を見ると、川辺川ダム事業の全体事業費におけるB/Cは0.4、残事業費におけるB/Cは1.9と書かれているのがわかります。
報道によれば、事業評価監視委員会では委員らが、「かなり低い数字」だとしながらも、「水害犠牲者を念頭に「命は、お金では計れない」との認識を示した。」とのことです。確かに「命はお金では図れない」のですが、その前提は、ダムができれば犠牲を出さなくて済む、あるいは犠牲をかなり減らせるということのはずです。
国交省は水害犠牲者の死因について調査を行っておらず、被災地で死因の丹念な調査を行った市民団体や有識者らは、川辺川ダムがあったとしても水害犠牲者のほとんどは助からなかったという検証結果をまとめています。2020年の水害はダム建設予定地より下流の大雨によって引き起こされ、山の荒廃や球磨川支流の治水対策の遅れなどが被害を拡大させたからです。
★令和4年度 第1回九州地方整備局事業評価監視委員会
http://www.qsr.mlit.go.jp/s_top/jigyo-hyoka/giji.html
★配付資料より「一括報告案件一覧表(再評価)【河川事業・ダム事業】
http://www.qsr.mlit.go.jp/site_files/file/s_top/jigyo-hyoka/220714/04_ikkatuhoukokuitiranhyou.pdf
下表=上記の一覧表より作成
◆2022年7月15日 熊本日日新聞
ー流水型ダム建設事業、費用対効果に意見も 九地整事業評価委ー
国土交通省九州地方整備局は14日、福岡市で事業評価監視委員会を開き、2020年7月豪雨で氾濫した球磨川水系の河川整備計画案の柱となる支流・川辺川での流水型ダム建設事業について各委員に報告した。委員は費用対効果の低さに触れる場面もあったが、最終的には命を守る視点から理解を示した。
流水型ダムは蒲島郁夫知事らの要望を受け、新たに建設される。事業費は約2680億円で35年度に完成予定。費用対効果を示す「費用便益比」は35年度までで1・9と、国の予算化の目安となる1を上回る。
しかし、旧川辺川ダム計画で実施済みの事業費を加えた総事業費は、約4900億円に上る。この場合の費用便益比が0・4と1を下回る。これに関し、委員らは「かなり低い数字」としながらも、水害犠牲者を念頭に「命は、お金では計れない」との認識を示した。
立野ダム(南阿蘇村、大津町)は工期延長や資材の高騰などの影響で事業費が約110億円増え、約1270億円となることも報告した。(上妻公)