3月28日に亡くなった作曲家の坂本龍一さんは、戦争、環境など様々な社会問題に若い頃から取り組み、近年は明確な意思表示をしてきました。訃報と共に、亡くなる一か月前に小池百合子都知事に宛てた外苑前再開発に反対する手紙が注目されています。
ダム問題で坂本さんが直接かかわったのは長崎県の石木ダム問題です。全国のダムで水没住民がダム行政の力に押し倒されていく中、半世紀前に計画された石木ダムの予定地では、13世帯の住民の抵抗が今日も続いています。坂本さんが現地を訪れて以降、ダム予定地では関連工事が進んでいますが、訃報と共に住民の声を紹介する報道が複数の紙面でありました。
◆2023年4月4日 長崎新聞
https://nordot.app/1015799905488879616
ー石木ダム建設に疑問 亡くなった坂本龍一さん 反対住民「励まされた」ー
3月28日に71歳で死去した音楽家の坂本龍一さんは、環境問題に関心を寄せ、積極的に発信していた。長崎県内では2018年3月、長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダムの建設予定地を訪問し、現地の反対住民と対話。本紙の単独インタビューには「一度決めたことを変えない公共事業の典型例」と疑問を投げかけた。
石木ダム問題の発信に積極的だった米アウトドア衣料品大手「パタゴニア」日本支社の辻井隆行支社長(当時)を通じて、関心を持ったという。同支社は石木ダム問題の公開討論会開催を目指すキャンペーン「#いしきをかえよう」を推進。伊勢谷友介さん、いとうせいこうさんら著名人も現地を訪れ、賛同していた。
坂本さんは住民の案内で、石木川周辺を歩いたり、県が1982年に実施した強制測量の記録写真を見せてもらったりした。「美しい棚田が目を引き、ウグイスの鳴き声が聞けるぜいたくな場所」と感想を語り、公民館にはサインを残した。案内した住民の岩下すみ子さん(74)は「世界的に有名な方が、実際にやってきて、話を聞いてくれたことにとても励まされた。亡くなって本当に残念」としのんだ。
坂本さんの訪問後、住民の宅地を含む全用地は、県と佐世保市が土地収用法に基づき取得した。建設予定地では、今も現地で暮らす13世帯が抗議活動を続けている。石木ダム問題が私たちに投げかけるものは何か。記者の問いに、坂本さんはこう答えた。
「たとえ13世帯だけだとしても、その小さな公共を守れなければ、大きな公共も守れないのではないか」
◆2023年4月3日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230402/k00/00m/040/187000c
ー「坂本さんの言葉に励まされた」 辺野古移設や石木ダム計画の地元ー
死去した音楽家の坂本龍一さんは沖縄県に米軍基地が過剰に集中する現状に疑問を呈し、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への県内移設計画に反対した。2020年1月には、俳優の吉永小百合さんや沖縄出身の歌手、古謝(こじゃ)美佐子さんとともにチャリティーコンサートに出演するために沖縄県を訪れ、埋め立て工事が進む辺野古の海を視察した。グラスボートを出して案内した名護市議の東恩納(ひがしおんな)琢磨さん(61)は「関心を持つ人が多くはない中、辺野古の問題を広く伝えてくれて感謝している。沖縄の基地負担を全国に発信する人がまた一人いなくなり、これから日本がどこに向かうのか不安になる」と惜しんだ。
坂本さんは長崎県などが進める石木ダム(川棚町)の建設地も18年3月に訪れた。現地では住民らが反対運動を続けており、当時案内した「石木ダム建設に反対する川棚町民の会」代表で町議の炭谷(すみや)猛さん(72)は坂本さんの訃報に「考えられない」と言葉を失った。
炭谷さんによると、ダムが建設される石木川の清流を前に「どう思いますか?」と尋ねたところ、坂本さんは「おかしいよね」と応じた。その後のトークイベントでも、坂本さんは「50年近く議論になっている石木ダム事業は、行政が決めたことは変えないという典型例だ。ただ、行政は民意を気にする。関心を高めることが重要だ」と語り、「自然はお金で買えないし、戻せない。現地に行って自分の目で見てダム問題を考えてほしい」と話した。
「現地を見てきちんと評価してくれた。おかしいことはおかしいと言える人だと思った」と炭谷さん。「反対を続けてもうまくいかず苦しいことが多いが、坂本さんの言葉に本当に励まされた」と感謝の思いを語った。【比嘉洋、平川昌範】
◆2023年4月3日 毎日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/c1e3ccc83c56387a721f9d64bd904ae9761c40b3
ー死を前に都知事に手紙 坂本龍一さんが訴えた神宮外苑の再開発見直しー
環境問題にも取り組んでいた音楽家の坂本龍一さん(3月28日死去)は、東京・明治神宮外苑の再開発による自然破壊を懸念し、2月24日付で小池百合子都知事に見直しを求める手紙を送っていた。
坂本さんは手紙で「先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません」とし、再開発の見直しを求めたうえで「あなたのリーダーシップに期待します」と結んだ。
明治神宮や三井不動産などの事業者は、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、高層ビルの建設も予定する。環境影響評価書によると、新たに植樹もするが、既存の樹木743本を伐採する。再開発は3月22日に着工された。
反対運動に取り組んでいる専門誌編集長の西川直子さん(64)は「病気で大変だったはずなのに、一つの希望でした」と振り返る。
坂本さんは森林保全団体「more trees(モア・トゥリーズ)」の代表も務めていた。水谷伸吉事務局長は3日、「歩みを止めずに、森林保全というテーマと向き合っていくことが弔いになると思う」と語った。
一方、小池氏は3月17日の定例記者会見で坂本さんの手紙について問われ「事業者からは緑の量を増やすと聞いている。こうした取り組みを、坂本さんはじめさまざまな方々にも伝わるように情報発信するように改めて指示している」と述べた。
3日午前には入庁時に報道陣から坂本さん死去の感想を問われ、「心からお悔やみ申し上げます」と短く述べた。【柳澤一男、黒川晋史、岩本桜】
坂本龍一さんが東京都知事に送った手紙の主な内容は以下の通り。
◇ ◇
東京都知事
小池百合子様
突然のお手紙、失礼します。
私は音楽家の坂本龍一です。
神宮外苑の再開発について私の考えをお伝えしたく筆をとりました。
どうかご一読ください。
率直に言って、目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々を犠牲にすべきではありません。
これらの樹々はどんな人にも恩恵をもたらしますが、開発によって恩恵を得るのは一握りの富裕層にしか過ぎません。この樹々は一度失ったら二度と取り戻すことができない自然です。
私が住むニューヨークでは、2007年、当時のブルームバーグ市長が市内に100万本の木を植えるというプロジェクトをスタートさせました。環境面や心の健康への配慮、社会正義、そして何より未来のためであるとの目標をかかげてのこと、慧眼(けいがん)です。NY市に追随するように、ボストンやLAなどのアメリカの大都市や中規模都市でも植林キャンペーンが進んでいます。(中略)
いま世界はSDGs(持続可能な開発目標)を推進していますが、神宮外苑の開発はとても持続可能なものとは言えません。持続可能であらんとするなら、これらの樹々を私たちが未来の子供達へと手渡せるよう、現在進められている神宮外苑地区再開発計画を中断し、計画を見直すべきです。
東京を「都市と自然の聖地」と位置づけ、そのゴールに向け政治主導をすることこそ、世界の称賛を得るのではないでしょうか。
そして、神宮外苑を未来永劫(えいごう)守るためにも、むしろこの機会に神宮外苑を日本の名勝として指定していただくことを謹んでお願いしたく存じます。
あなたのリーダーシップに期待します。
2023年2月24日
坂本龍一