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五木村、国・熊本県の振興計画に合意へ、「流水型ダム」の文言削除

 2020年の球磨川水害を機に蘇った川辺川ダム計画は、水没予定地を抱える五木村を飴と鞭で翻弄し続けています。
 国土交通省と共に川辺川ダム事業を推進する熊本県は、昨年10月にダムを前提とした水没予定地域の「地域振興計画」案を五木村に提示しました。熊本県は昨年度中の合意を目指していましたが、五木村の意見を取り入れる交渉を続けた結果、ようやくこのほど同意を得たということです。

 以下の関連記事を読むと、熊本県は「流水型ダム建設を前提に、振興計画案を村側に提示」しましたが、五木村は「ダム建設に伴う環境への影響が明らかになっておらず、住民への理解が得られていないなどとして」(NHK)「流水型ダム」という文言の削除を求め、これが受け入れられたとあります。つまり、ダム事業と地域振興計画は切り離す形となり、五木村はまだダム計画を受け入れたわけではないということです。

 新たなダム計画は洪水の時のみ貯水する流水型(穴あき)ダムです。近年、人口減少や節水型機器の普及などにより、ダムの利水目的が失われ、治水目的のみの「流水型ダム」が全国で計画されるようになりました。しかし、川辺川ダムほど大規模な「流水型」ダムは前例がなく、洪水時のみ水が貯まる「水没地」が通常はどのような状態になるのかわかりません。

◆2023年5月13日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/1042172
ー五木村、国・熊本県の振興計画に合意へ 当初案の「流水型ダム」文言削除 15日に3者協議 20年で100億円支援ー

 熊本県の川辺川に建設予定の流水型ダムの貯水時に一部地区の水没が想定される五木村が、国や県がまとめた村の新たな振興計画案に合意する方針を固めたことが11日、分かった。国と県が示していた当初の案から流水型ダムに関する文言を削除。受け入れは時期尚早としてきた村側も「自分たちの意向が一定程度尊重された」と判断した。15日に村で開かれる国、県、村の3者協議で正式決定する見通し。

 県は昨年10月、流水型ダム建設を前提に、振興計画案を村側に提示。今年1月には財源として、2023年度から約20年間で総額100億円規模の財政支援をする考えも伝えた。

 複数の関係者によると、今回の計画案は村との協議を踏まえ、これまでの案に盛り込んでいた五つの柱のうち「流水型ダムを踏まえた新たな振興への対応」という項目を削除。ダム関連工事に伴う経済効果を最大化する対策についても外した。

 また「清流川辺川と流水型ダムを生かした新たな振興」としていた項目も「豊かな自然やこれまで整備した施設等を生かした新たな振興」との表現に変えた。

 修正案は、流水型ダムに関する文言以外は当初案を踏襲。人口減少を食い止めるため、移住・定住の促進に向けた新たな平場や住まいの確保、子育て環境の充実などを盛り込んでいる。計画のスタートは23年度。27年度までを第1期と位置付け、その後は5年ごとをめどに計画を見直す方針。

 県からの計画案提示後、村議会は木下丈二村長も出席する全員協議会や、川辺川ダム対策調査特別委員会を非公開で複数回開いて対応を協議。県が修正案を示したことで容認する意見が多数を占めるようになったという。

 ただ、一部議員には「計画案には人口減少の対応策に具体性がない」「決定前に村民大会で住民の意見を聞くべきだ」といった反対意見も根強く、決定に向けては流動的な部分も残る。

 3者協議を前に、木下村長は「村の振興は待ったなしの状況。ダム建設とは切り離して、一日でも早くやれるところから振興策を進めたい」と話している。(川野千尋、内田裕之)

 ◆川辺川の流水型ダム 球磨川水系の氾濫対策として国土交通省が建設を目指し、県も容認している。2027年度に本体工事に着手し、35年度の完成を見込む。建設する場所は旧川辺川ダム計画と同じ相良村四浦の峡谷。高さ107・5メートル、総貯水容量約1億3千万トンで、国内最大の治水専用ダムとなる。平常時は水をそのまま流し、洪水時はためて放流量を調節する。

◆2023年5月12日 熊本県民テレビ
https://www.kkt.jp/nnn/news100eryj20og5jfxqixf.html
ーダム」文言削除で五木村同意へ 県の振興策ー

 熊本県五木村は、国や県がまとめた振興計画案について「流水型ダム」という文言を案から削除することで合意する方針を固めたことがわかった。
五木村は流水型ダムが建設されれば村の一部が水没する。
熊本県は五木村に流水型ダムを生かした20年間で100億円規模の振興策などを提示していた。
これに対して五木村はダムへの賛否を判断するのは時期尚早として難色を示し、合意に至っていなかった。
そのため県は村に提示していた振興計画案を見直し「ダム工事による経済効果の最大化」や「ダム見学ツアー」などダムに関連する文言を文書から外してあらためて村に提示したという。
県によると五木村は修正案に合意する意向を示しているということで、今月15日に予定されている村と国、県の3者協議で正式に決定したいとしている。

◆2023年5月12日 NHK熊本放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/kumamoto/20230512/5000019005.html
ーダムで一部水没想定の五木村 国と県の振興計画案に合意の方針ー

 3年前の豪雨で氾濫した球磨川水系の治水対策の柱となる「流水型ダム」の建設をめぐり、貯水時に村の一部が水没すると想定されている五木村の振興策について、村が国や県がまとめた振興計画案に合意する方針を固めたことがわかりました。

 3年前の豪雨で氾濫した球磨川の支流の川辺川に建設される流水型ダムをめぐって、貯水時に一部が水没すると想定されている五木村の振興策について国や県は去年10月、人口減少対策や子育て環境の充実などを盛り込んだ振興計画案を策定し、村に提示しました。

 合わせて県はことし1月、村の振興に充ててもらう財源として今後20年間でおよそ100億円規模の財政支援を行う方針を伝えています。

 県や五木村によりますと、計画案に盛り込まれた5つの柱のうち「流水型ダムを踏まえた新たな振興への対応」の項目について村は、ダム建設に伴う環境への影響が明らかになっておらず、住民への理解が得られていないなどとして計画案から削除したということです。

 修正された計画案について、今月15日に五木村で開かれる確認式で国や県、村で決定することになっています。

 県は「新たなスタートの場として、五木村の振興を進めていきたい」と話しています。

◆2023年5月15日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/articles/1045356?utm_term=Autofeed&utm_medium=Social&utm_source=Twitter#Echobox=1684121031
ー五木村の振興計画 国、熊本県、村が最終合意 「流水型ダム」に関する文言削除ー

 熊本県の川辺川に建設予定の流水型ダムの貯水時に一部地区の水没が想定される五木村の新たな振興計画が決まった。ダム建設と振興を切り離すことを求めた村の意向をくみ、熊本県と国が流水型ダムに関する文言を削除することで15日、国、県、村で最終合意した。

 五木村役場であった3者の確認式で、木下丈二村長は「人口減少が進み、村は危機的状況にある。国や県は一日でも早く実現するようスピード感を持って取り組んでほしい」と求めた。

 蒲島郁夫知事は「これまで以上の責任と覚悟で臨む」と応じ、計画の具体化に向けて県職員の村への派遣を増やす考えも表明。国土交通省九州地方整備局の藤巻浩之局長は「流水型ダムの構造や環境に与える影響の検討を進め、村民に説明したい」と述べた。

 新たに策定した計画では、ダム建設の賛否を決めていない村側に配慮し、ダムに関する記述はすべて削除。「誰もが安全・安心に住み続けられ、若者が集まる〝ひかり輝く〟新たな五木村」を基本理念に掲げた。

 具体策として、移住・定住の促進に向けた新たな平場の確保や、グループホームといった住宅・福祉施設の整備、オンライン診療も見据えた全世帯へのタブレット端末の配布などを盛り込んでいる。

 計画は2023年度に開始。27年度までを第1期と位置付け、その後は5年ごとをめどに見直す。県は計画を実現するため、約20年間で総額100億円規模の財政支援をする考えだ。

 国や県は当初、22年度中に計画を策定する方針だったが、ダム建設を前提とする内容だったため、村が合意を見送っていた。(内田裕之)