NBC長崎放送が県内の石木ダムの問題を取り上げた記事がTBSのサイトで公開されています。動画もあり、現場の状況がよく伝わってきます。
半世紀以上前に長崎県が計画した石木ダム事業は、今も13世帯の住民がダムに反対して事業用地での暮らしを続けています。強制収用によって事業用地のすべてはすでに住民の所有ではなくなっていますが、利権で強引に進められる不要なダム事業に抗い、里山を守る住民らの反対運動は、今や全国に知られ、多くの支持を集めるようになりました。住民らは田んぼで作った米を全国に販売して生活の糧にしてきました。しかし長崎県は、今年の田植えの時期を前に、田んぼの水路を重機で壊し始めました。
わが国では、ダム行政に都合の良い法整備が進められてきました。どれほど事業に「公共性」がなく、反対住民の意見が真っ当であっても、法律が起業者を守り、住民の人権をないがしろにします。これまで全国の水没予定地で、孤立した住民はあきらめによってダムによる立ち退きを受け入れざるをえませんでした。反対住民の味方は、ダム行政を糾弾する世論しかありません。
◆2023年6月9日 NBC長崎放送
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/535885?display=1
ー強制収用地で進む工事で生活の糧 “米作り”ができず『石木ダム』事業認定から10年目に新局面【長崎・川棚】ー
長崎県と佐世保市が川棚町に計画している「石木ダム」
国からの事業認定を受け10年目となった今年、反対地権者から“強制収用”した土地での工事が始まるなど、現地では新たな局面を迎えています。
「県のやることはいつも不意打ち」反対住民は重機の前に座り込み
里山の豊かな自然が残る川棚町 川原地区
澄んだ水と生き物たちに囲まれながら、13世帯50人あまりが、今も生活を続けているこの地に、石木ダムは “半世紀以上”をかけて造られようとしています。
ダム反対住民 石丸 勇さん:
「全国的にも例がない、すべての土地を強制収用するような、そういうことをやってでも造らんといかんような、そんなダムじゃないですよね」
工事が進む石木ダム予定地。
反対地権者の土地は、2019年までに全て『強制収用』されました。
そして県はことし3月、強制収用した土地で、初めて重機を使った工事を行い、住民らは激しく反発。
重機の前に座り込むなどして、工事を阻止しました。
ダム反対住民 岩下 すみ子さん:
「“不意打ち”ですよ、いつでも(県が)やることは。
自分達ができることは、現場に入って“抗議”をするしかできないですもんね」
「法律が適用できるとは言え…」田植えを前に用水路を埋められ
工事は、住民たちの暮らしに“直接的な影響”をもたらし始めています。
石丸さんの田んぼの上流には“巨大な構造物”が建てられ、川から田んぼに水を引く“用水路”が破壊されました。
石丸 勇さん:
「(写真を見せながら)これが前の状態。今、あそこに電柱が残って見えていますけど、あの電柱のちょっと手前から、ずーっとここまで、(用水路だったところが)埋まっているんです」
川から田んぼまで約500mありますが、何か所も寸断されていて、復旧はできません。
生活の糧となる“米作り”。田植えを間近に控えた時期の出来事でした。
石丸 勇さん:「“土地収用法”が適用できると言いながら…あんまりですね」
高裁が有効とした“県との覚書”「同意を得たあと工事に着手」
0年前、石木ダム計画は 土地収用法に基づく『事業』として、国に認定されました。
これによって県は、反対住民の土地を“強制的”に収用できるようになりました。
住民らは “事業認定の取り消し”と“工事の中止”を求めて、2つの裁判を起こしましたが、いずれも敗訴。
ただ福岡高裁の判決では、ある”覚書”を有効とする『付帯意見』がありました。
(1979年 地元への説明会)久保 勘一 長崎県知事(当時):
「なぜ、私共が“石木ダム”をお願いするのか──」
今から51年前の1972年、当時の久保知事がダムの予備調査を行うにあたり、川原・岩屋・木場、地元3地区の代表者と“覚書”を結びました。
岩下 すみ子さん:「これが “覚書”です」
“覚書”では「調査の結果、ダムを建設する場合には、書面による“同意”を得たあと着手する」とされています。
これについて、福岡高裁は「3地区の代表は県知事を信頼し、“覚書”に調印したが、未だ “地元関係者の理解”が得られるに至っていない」と指摘しました。
知事就任当初は “話し合いでの解決”を目指すも…
こうした裁判を経て、去年就任した大石 賢吾知事は当初「話し合いによるダム問題の解決を目指す」として、現地を訪れていました。
しかし、話し合いはとん挫。去年9月以降、途絶えています。
大石 賢吾 長崎県知事:
「石木ダムと言うものは “治水” “利水”の面、両方ですけれども、県民の安全・安心を守るために、必要なものだと思っております。
行政の責務だと思いますので、そこはしっかりと完成を目指してやっていく必要がある」
田んぼに土砂残され 100年以上続いた米作りを断念
ことし3月の工事では、強制収用された田んぼに、重機による土砂の搬入も行われました。
その後、工事はストップしていますが、土砂は残されたままで田んぼは使えない状態となっています。
水田に土砂を搬入された川原 房江さん:
「“田んぼ”っていうのは“家”と一緒ですよね、私たち、農家にしてみれば。
そこで米を作って、その米をいただいて生活していくんだから」
先祖代々、100年以上にわたって米を作りを続けてきた川原さん。
今年は『米作り』を断念せざるを得ませんでした。
受け継いできた生活の糧が奪われていく現実を目の当たりにしています。
川原さん:「耕作はするな。もう出て行け、出て行けですからね」
こうした県側の対応について、住民を支援する市民団体は今月6日、“覚書”の趣旨を守り、まずは住民と話し合うよう 県に申し入れました。
市民団体(石木川まもり隊)松本 美智恵代表:
「住民と協議の上、書面による同意を受けたのち着手するものとする──これが“覚書”なんですよね。つまり約束が守られないまま、工事が始まっているという状況なんです」
昔から変らない “ホタル舞う” 石木川の風景
5月下旬。石木川にホタルの季節がやってきました。
女性達の声:
「あっ見えた!」「あそこ、ほらほら」「上の方に見えた」「上も下もおるよ」
川原地区にダム計画が持ち上がってから50年以上。
数千匹のホタルが舞うこの光景は、今も昔も変わらないといいます。
岩下 すみ子さん:
「私たちは “この自然を守りたい”という一心で、ここに住んでますのでね。
何とかダムが “中止”になればと思って」
土地の強制収用を可能にした事業認定から、まもなく10年──
“覚書”が求めている“住民の理解”は得られないまま、現地では本格的な工事に向けた動きが続いています。