八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

富山県の白岩川ダム、緊急放流後に下流の堤防決壊

 今年も梅雨末期の大雨の季節を迎え、各地から水害の報道が相次いでいます。
 富山県が管理する白岩川ダムでは、さる6月28日、ダムに流入する水量をそのまま貯めるとダムが決壊する恐れがあるとして緊急放流を行ったところ、白岩川が氾濫し、下流の堤防が決壊して広い地域が浸水被害を受けたということです。

 緊急放流によって水害が拡大すると、ダムの管理者からはしばしば、ダムが貯水して氾濫を食い止めている間に避難してほしいという説明がありますが、豪雨は夜中に襲うことがしばしばあり、避難指示が間にあわないことも少なくありません。上流のダムからの大量放流はただでさえ氾濫している川の水位を一気に上昇させますので、流域住民が対応できないのは当然のことです。

 ダム事業を進める時は、費用対効果をアピールするために、80年、100年、200年に一度の洪水に対応するという説明がされますが、そのような稀な洪水が頻繁に起こるようになっている今、ダムの治水機能は起業者のPRよりはるかに限られていること、大雨がやまない中で行われる「緊急放流」はダム直下の流域に危険をもたらす可能性があるという事実がもっと衆知される必要があります。
 菅元首相をはじめ、自民党の一部政治家は、大雨に備えてダムを事前に放流しておくことで緊急放流の危険を回避できるとし、「事前放流」のルール作りに取り組んだことを大きな実績としてアピールしてきましたが、治水と利水を兼ねた多目的ダムでは、利水のために一定程度の貯水が必要であり、天候の予測も不確実要素をはらんでいます。限界のある「事前放流」で緊急放流を回避できるわけではありません。

◆2023年6月29日 NHK富山放送局
https://www3.nhk.or.jp/lnews/toyama/20230629/3060013646.html
ー28日夕方 立山町の白岩川ダムで緊急放流ー

 ところで、住宅や水田の浸水被害が相次いだ立山町白岩地区から約600メートル上流にある白岩川ダムでは、28日夕方、流入する水を貯めずにそのまま下流に放水する緊急放流を実施していました。

 県の河川課によりますと、立山町の白岩川ダムでは28日午後4時10分に、水位が緊急放流の判断基準のひとつとなる「緊急放流判断水位」に達し、その後もさらに水位が上がりダムが決壊する危険性があったことから県は午後4時20分から緊急放流を実施しました。
 国土交通省のデータでも白岩川ダムに流れ込む水の量は、きのう午後2時の時点で毎秒6.86立方メートルでしたが、2時間後の午後4時には毎秒356.41立方メートルと約50倍にまで急増したということです。
 その一方で、県が立山町に緊急放流の実施を通知したのは、直前の午後4時15分ごろでした。
 そして、放流開始から約20分後の午後4時43分には、立山町消防本部に「白岩地区の堤防が崩れそうだ」といった通報が入り、消防が現地に向かったところ、すでに白岩川の水があふれ白岩地区に流れ込んでいたということです。

 この緊急放流について県河川課は「今回の大雨は極端な降り方でダムの貯水スピードが速かったことから短時間で緊急放流の判断をしなければならなかった。規則に従って緊急放流を実施したという認識だが、自治体への連絡などについては今後事実関係を確認していく」と話しています。

◆2023年6月29日 富山テレビ
https://www.fnn.jp/articles/-/549937
ーダム緊急放流後に下流で堤防決壊…白岩川の氾濫は防げなかったのか ハードルの高い雨量予測と事前放流ー

 28日の富山県東部を中心とした大雨で堤防が決壊し氾濫した白岩川。
 その25分前には上流のダムで緊急放流が行われました。
 氾濫は防げなかったのか、検証しました。

 白岩川ダムからおよそ600メートル下流にある、立山町の白岩地区です。
 道が壊れ、白岩川の堤防が決壊した様子が確認できます。

*リポート
「白岩川の堤防が決壊した場所です。こちらから水が流れ込み、田んぼだった場所には大きな石や木が流れ着いています」

*白岩地区の住民
「農作物がいっぱいなっていた。大事に育てていたのに」

 この地区でも床下浸水した住宅があり、住民は朝から片付けに追われていました。

*白岩地区の住民
「だんだん河川の水位があがった」
「津波を見ているようだった。ダムの放流にちょっと問題があったのでは」

*リポート
「白岩川ダムです。平常の水位には戻っておらず、きょうも放水されています。きのうダムの完成以降初めて行われた緊急放流、下流では浸水などの被害が出ましたが、その対応は問題はなかったのでしょうか」

 こちらは、ダムに設置されているカメラの映像です。
 ダムの流域で本格的な雨が降り始めたのは、28日の午後1時。
 その頃ダムはほとんど平常に近い水位でした。
 しかし、その1時間後からは激しい雨が降り出し、流域の雨量計(上市町小又)では午後2時までの1時間で40ミリ、午後3時までに88ミリ、午後4時までに69ミリを観測しました。

*県白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
「3時間に200ミリくらい降った」

 午後1時から4時までのわずか3時間で降ったおよそ200ミリの雨。
 午後4時頃のダムはほとんど満水で、午後4時20分、ダムが完成して49年で初めて「緊急放流」に踏み切りました。

*県白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
「(下流の被害は)緊急放流の影響があると認識している。ダムの決壊をする大きなリスクと水を多く流すのをどちらかをとるか。苦渋の決断」

ただ下流に住む住民によると、堤防が決壊したのは、緊急放流が行われた25分後だったといいます。

*白岩地区の住民
「流れすぎ。目の前で堤防が壊れた。放流したから水が増えた。ダムの責任だ」

 これに対して河川災害が専門で、県内のハザードマップの作成にも携わった手計教授は。

*河川災害が専門・中央大学 手計太一教授
「集中的に雨が降っている。もともと対応できるようなダムの貯水能力でない。今回のように空間、時間的に超集中型で降った場合は、流入量の予測よりも、気象側の雨の予測の高度化を図らないと」

 では、今回のような被害を防ぐ手立てはなかったでしょうか。

*県白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
「県としても事前放流に取り組んでいる。それは気象庁から出る雨量予測で判断しているが、今回の雨は予想をはるかの上回る雨。(事前放流を)する予想ではなかった。だから通常の洪水対応で進めた」

 白岩川ダムでは増水時に備え、降雨量が24時間で210ミリの予報がでれば、貯水している水を事前に放流し貯水量を調整する決まりでしたが、28日朝の時点では、24時間で100ミリにも満たない予報が出ていました。

 しかし結果的にはわずか3時間で200ミリの雨が降り、24時間で250ミリ以上の雨が降ったのです。

*河川災害が専門・中央大学 手計太一教授
「利水、治水の両方の役割を果たさないといけないダム貯水池は、事前放流はそんなに容易く了解を得られることはない」

 近年、異常気象が頻発するなか、防災のあり方を今一度考えていく必要があります。

 今回、緊急放流が行われた白岩川ダムの役割は2つ、下流域を洪水から守る「治水目的」それに農業用水などに利用する「利水目的」です。

 そもそも今回は想定外の短時間の雨で事前放流はできませんでしたが、今は農作物を育てる時期、水不足の解消のためにも、事前放流のハードルが高いという側面もありました。

◆2023年6月29日 北日本放送
https://news.yahoo.co.jp/articles/e6e070608b7ee692f410341818ea95e9a31b7667
ー住民に実施伝わらず 白岩川ダムの緊急放流 課題浮き彫りー

 28日の大雨で、立山町などを流れる白岩川では水が堤防を越え、周囲に浸水被害が発生しました。

 上流にある白岩川ダムでは、決壊を防ぐための緊急放流が行われていました。

 緊急放流は事前に地元住民には伝わっていませんでした。

 白岩川では28日夕方、増水した水が堤防を越えて住宅や田んぼに押し寄せました。

 奥野香子記者
 「28日、立山町の白岩川ダムでは満水に近づいたため、緊急放流を行いました」

 28日午後4時20分に緊急放流を開始した白岩川ダム。

 緊急放流はダムが満水に近づき、決壊のおそれがある時に行われる緊急的な措置です。

 このダムを管理しているのは富山県です。

 白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
 「ここにあるのが操作卓。上昇下降ボタンあるので操作します」

 記者
 「白岩川ダムでの緊急放流は?」

 白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
 「初めてです。建設から50年以上経っているが、初めてのゲート操作だった。とにかく上流の雨がすごくて、みるみるうちに流入してきた」

 ダムの水位の変化と、緊急放流までの判断を時間を追って検証します。

 28日午後3時のダムの水位は131.84m。

 ここから流入量と水位が急激に増えます。

 3時14分、まずは洪水調整放流を実施して放水量を増やし、下流域で増水することを防災行政無線のアナウンスとサイレンで伝えました。

 しかし流入量はさらに増え、ダムの管理事務所は3時49分に緊急放流を午後5時頃から開始する予定だと県に報告。

 県は、4時13分に承認しました。

 しかし、承認までのわずか20分の間に流入量は1.7倍に増えて緊急放流の判断水位を超えました。

 このため、緊急放流は予定より40分早い4時20分から始まりました。

 ダムの水位はその直後の4時30分に最大となる137.72mを記録。

 緊急放流は5時3分まで、43分間にわたって実施されました。

 白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
 「ダムが壊れると、それ以上の被害がございますので、全てが下流の財産がなくなってしまう。その前の緊急措置を取らせてもらったと。緊急放流があったので下流への影響は大きかったと認識しております」

 下流域への影響が大きい緊急放流。

 河川法では、事前に市町村や住民に伝達することが定められていますが。

 住民
 「サイレンが聞こえないんで、ずっと水が増えているような状態だったんで、あれ?なんでサイレン鳴らないのかなと思っていた」

 住民
 「これだけの雨で、こんな災害出るはずはなかったんだけどね。水のね、放水の仕方がね、どうもいっぺんに水少なくしようと思って、いっぺんに出したんでないかなと。出した人に聞かないとわからないけど」

 放水量は1時間で13倍に増えていました。

 白岩川ダム管理事務所 水野豊彦所長
 「緊急放流する1時間前にサイレンを鳴らさなきゃいけないんですけど、水が出てものすごい短い時間で来たというのもあって、緊急放流を開始するタイミングのサイレンと、事前に緊急放流するサイレンが同じタイミングになってしまったというのがある」

 下流域に緊急放流を知らせる事前の伝達はありませんでした。

 また流域では、防災行政無線のスピーカーが浸水被害で倒壊したとみられるところもありました。

 さらに、白岩川の流域にあたる立山町、上市町、舟橋村、富山市への連絡も緊急放流が始まると同時に行ったとしていて、住民が避難する時間が確保できないという課題が浮き彫りになりました。

 記者
 「どう対処していくか?」

 県河川課 小倉宜幸班長
 「今回の時間のない中での急激な水位上昇、流入量の増加を含めまして、これを参考にして少しでも早く市町村さんの方にご連絡をできるように検討してまいりたいと考えております」

 近年、災害が発生した際に行政から「予想を超えていた」という言葉を耳にします。

 確かに異常気象ですが、各地で繰り返されていることを踏まえ、住民の命と財産を守るために、想定外に備えることも必要になってきています。

◆2023年6月29日 チューリップテレビ
https://news.yahoo.co.jp/articles/76d2fd1997d2101f6649edac9ec81e237f0d15c7?page=2
ーなぜより早く放流できなかったのか?白岩川ダムの緊急放流を考えるー

 28日に記録的な大雨で被害を受けた富山県立山町の住民からは「白岩川ダムの緊急放流が被害を拡大させたのでは」という疑問の声が数多く聞かれました。緊急放流は適切だったのか取材しました。

 28日、貯水量を上回る大量の雨が流れ込み緊急放流に踏み切った白岩川ダム。29日、被害が出た川の周辺地域を取材すると…。

立山町の住民:「ダムが一気に吐き出したからこんなんになったんや。少しずつ出してくれればよかったのに、一気に吐き出さんと…」

上市町の住民:「結局、ダムの放流、ダムの放流の是非を取材してほしいわ。もうちょっと少しずつ事前に放流できんかったんかとかさ」

立山町の住民:「自然災害と言えばいいか、人為的ミスと言えばいいかわからん…。今までこんな水の出し方せなんだと思うよ」

 富山県は立山町の白岩川ダムが越水する恐れがあるとして、28日午後4時20分から午後5時3分まで緊急放流を実施しました。
 緊急放流のあと白岩川ダムの下流立山町の白岩橋付近では水が住宅地や田んぼへと流れ込んでいる様子がみてとれます。

 緊急放流とは、大量の雨がダムに流入し続け水位が限界に達する見通しになった場合さらなる水位の上昇を避けるため流入量とほぼ同じ量の放流を行う操作のことです。

 富山県によりますと県内のダムで緊急放流を行ったのは2017年の室牧ダムに次いで2回目。白岩川ダムでは1973年の竣工以来初めてでした。今回、なぜ緊急放水に踏み切ったのか?判断は適切だったのか?白岩川ダムの管理責任者を取材しました。

所長「通常はこれですね、これが通常ですね…」「(きのうの)16時30分の段階でここからこぼれている」「ここの高さがダムの洪水時の最高水位の高さになるんです。ここを超える流入量だったと」

 赤線で示した場所がダムの限界水位です。3時間後の午後4時には限界水位に迫っているのがわかります。

所長:「計画規模の1.5倍以上のもの想定しているものよりも大きい非常に大きい洪水の量だった」「緊急放水しなかったら水位がどんどん上がっていってオーバーフローする懸念がある」

 その緊急放流を避けるためにも行うのが事前放流です。これは水位が限界に達すると想定される場合、あらかじめダムの水位を下げる措置です。
 白岩川ダムでも気象庁の降雨予測をもとに事前放流を実施するかどうか判断しています。

所長:「今回、(気象庁の)データをみていますと、それほど降らないデータでもあったということもあって事前放流という形での対応は取っていなかった」「それだけ今回、強烈に短時間に強い非常に強い雨がもたらされたと」

所長:「これみていただいたらわかるんですけど」「この3つが色が変わっていますけど、強烈な雨、3時間で200ミリくらい降っているわけです」

 事前放流をしていない中で短時間に予想を超える大量の雨がふったためダムが崩壊し人命への被害が出るのを避けるためにも緊急放流に踏み切らざるをえなかったとしています。

所長:「やむを得ず緊急放流の対応をさせていただいた」「ダムも水を貯めて持ちこたえるもの。耐えている間に逃げてもらうものだと理解していただければと思う」

 もっと早く放流していれば、という声に対して県も「事前の予測を上回る雨が降って緊急放流せざるを得なかった」としていますが、住民に対しては丁寧な説明が必要だと思います。