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八ッ場ダムモニタリング委員会(第4回)の資料

 八ッ場ダムを管理する利根川ダム統合管理事務所が今年2月13日に開催した八ッ場ダムモニタリング委員会(第4回)の資料をホームページに公開しました。

 〇国土交通省利根川ダム統合管理事務所ホームページより「八ッ場ダムモニタリング委員会」
  https://www.ktr.mlit.go.jp/tonedamu/tonedamu00563.html

 八ッ場ダムモニタリング委員会はダム事業による環境影響の調査について専門家から意見を聴取する目的で設置されています。第一回の委員会開催は、八ッ場ダムの試験湛水が開始される直前の2019年9月でした。

 このたび公開されたのは、「議事概要」という題がついた一枚のごく簡単な箇条書きと147ページの「委員会資料」です。
 モニタリング委員会の資料は、委員会開催時に準備されていた筈ですが、前回も今回も公開に半年近くかかりました。委員から出された意見を要約して載せるだけならそれほど時間はかからない筈です。公開された委員会資料はこれを作成した国交省の意向に沿った内容となっていると考えられます。

★ 「委員会資料」https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000860441.pdf

八ッ場ダムモニタリング委員会第四回資料のサムネイル

 「委員会資料」の一部のページを掲載します。

ダム貯水池運用(7ページ)
 昨年(令和4年)度ダム湖が満水だったのは4月下旬から5月20日までと、12月~1月にかけてであった。八ッ場ダム事業では「ダム湖観光」がダムを抱える地域の振興策とされるが、ダム湖の水位低下は「ダム湖観光」の障害となる。

土砂とヒ素の堆積(22ページ、86ページ)
 八ッ場ダムの貯水池はダム完成の半年前(2019年10月)に東日本台風が襲来し、上流から大量の土砂が流入。その後も火山性のもろい地質を抱える上流から土砂が流れ込み続け、ダム計画の想定を大幅に超える土砂がダム湖に堆積している。
 ダム計画では年間堆砂量を想定し、100年分の計画堆砂量を「堆砂容量」としてダム貯水池に確保することになっているが、2022年1月の調査結果によれば、八ッ場ダム貯水池の堆砂量は311.5万m3であり、年間計画堆砂量の18年分に当たる。
 最も堆砂が進行しているのは、ダム湖が屈曲している丸岩大橋の周辺。資料22ページによれば、この地点はダム湖の他の場所より沈降しているヒ素の量も多い。ヒ素はダム上流にある草津白根山の万代鉱源泉由来。
 

 2022年1月の調査結果は前年の堆砂量が12万m3と、これまでの年間堆砂量より大幅に減少している。86ページの説明には「堆砂量の大半は、令和元年台風19号による洪水を貯留したことによるものと考えられる。」とあり、東日本台風級の洪水がなければ今後の堆砂量は想定内に収まるようにも見える。しかし国土交通省は2021年に八ッ場ダム貯水池に堆積した大量の土砂を浚渫・運搬する工事を夏の長期間にわたって行っていた。浚渫は堆砂量減少に影響したはずであり、浚渫作業なしで年間堆砂量が想定内に収まったかどうかは不明。
写真右=2021年8月27日、ダム湖に架かるめがね橋付近で撮影。

動物(25ページ、41ページ)
 イヌワシ、クマタカは鳥類の生態系ピラミッドの頂点にあり、八ッ場ダム事業では指標種として調査が行われてきた。ダム建設地周辺の岩場は、全国的にも急激に減少しているイヌワシの格好の棲息地であったが、ダム関連工事が進む中で飛翔する姿がほとんど見られなくなった。第一回委員会資料(32ページ)によれば、「人工代替巣」も実施されたようだが、その後の資料では触れられておらず、効果はなかったようである。
 資料には湛水前と湛水後にそれぞれ確認された外来侵入種が表にまとめられているが、現地では湛水よりかなり前の大規模なダム関連工事が始まって以降、ガビチョウなどの外来種が目立つようになっている。
 湿地及び草地環境モニタリング調査では、15種の保全対象種が確認されていない。確認されている種でも個体数が減少している可能性があるが、資料では言及されていない。

原石山(47ページ)
 川原湯温泉の裏手の山は、ダム堤を建設する際に使用する骨材を採取するために深くえぐられ、山そのものの景観が一変するとともに、自然環境が大きなダメージを受けた。これを修復するために昨年度、3061本の植樹が行われたということである。説明資料に「令和元年度にも植栽を実施」と書かれているが、どのような樹種を何本植えたのか、結果はどうだったのか書かれていない。

植物の移植・播種
 ダム湛水に伴い、保全対象となっている植物37種の移植・播種を行ったという。このうち生育が確認されているのは計14種、未確認が23種。確認されている種の生育状況は不明。
 個体監視とした重要な植物27種のうち、湛水後14種が未確認。
 

外来種の侵入
 66ページ、74ページー「渓畔林モニタリング調査については、ダム周辺の渓畔林に大きな変化はみられなかったが、下流河川の渓畔林で湛水後に新たな国外外来種(セイタカアワダチソウ、アレチウリ)の侵入が確認された。」
 77ページー「令和2年に1回、令和3年に1回、令和4年に3回、八ッ場ダム周辺に生育するハリエンジュの伐採を実施した。」「今後も、学識経験者の指導・助言を踏まえて、外来種の駆除対策を継続実施していく。」
 78ページー「吾妻峡の植生については、大きな変化はみられなかったものの、外来種であるフサフジウツギ群落、ハリエンジュ群落が新たに確認されているが、現時点で拡大傾向はみられていない。」

流木
 84ページー「流木処理量は、令和4年度(令和4年12月31日現在)は185m3であり、これまでの合計は18,374 m3 であった。令和元年度の台風19号による流木が大半を占めている。」

◆モニタリング委員会の今後のスケジュール
 「委員会資料」の末尾(146ページ~)にモニタリング委員会の今後のスケジュール案が示されています。委員会は当初の予定通り、来年度に最終報告書を作成して終わりとなるようです。その後はフォローアップ委員会が引き継ぐことになっていますが、調査態勢はこれまでより手薄になりそうです。

★ 「議事概要」https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000860442.pdf