さる2月15日、水問題研究家の嶋津暉之さんが逝去されました。
嶋津さんは長年、全国各地のダム反対運動を技術的な解析でサポートする活動を行ってきました。いわゆる”御用学者”と呼ばれる人々に対抗する研究者は、活動の多くが手弁当です。各地の市民運動から協力を依頼されるものの、民主主義が機能していないダム行政にあっては、正論が受け入れられることはめったにありません。しかし、国土交通省の資料をもとにした嶋津さんの分析結果は、科学的な論理によって組み立てられており、時間がたっても古びることはありません。
嶋津さんは一年以上前から闘病生活を送っていましたが、入退院の合間に河川行政における「洪水対策」の問題についての解説をまとめ、5つのテーマに分けて公開していました。その都度、当会ホームページでもお知らせしましたが、ご逝去の報を受けて改めて掲載ページと報告スライド、各解説の目次を以下にまとめました。
気候変動の時代、予期されなかった豪雨に襲われることが増えていますが、わが国の河川行政は硬直した旧態依然のままです。そのことが一般には殆ど知られていないことを憂えた嶋津さんが、多くの方々に知ってほしいと平易な言葉で説明しておられます。論理的な分析という地道な活動で河川行政と闘い続けてきた嶋津さんの遺言ともいえます。
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①「耐越水堤防の経過と現状」(封印が解かれつつある耐越水堤防工法) (2022年12月13日)
➡報告スライド
Ⅰ 比較的低コストの耐越水堤防工法
Ⅱ 耐越水堤防の始まり
Ⅲ ダム推進のために消えた耐越水堤防工法(1)川辺川ダム住民討論集会(2001年12月)の直後
Ⅳ ダム推進のために消えた耐越水堤防工法(2)土木学会からの報告(2008年10月27日)
Ⅴ 耐越水堤防の一部凍結解除(1)2019年10月に大氾濫した千曲川で実施 北陸地方整備局
Ⅵ 耐越水堤防の一部凍結解除(2)国交省が耐越水堤防を一部河川で実施し始めた
Ⅶ 耐越水堤防工法の実施を河川管理者に働きかけよう
② 「スーパー堤防事業の虚構」(2022年12月16日)
➡報告スライド
Ⅰ スーパー堤防事業の創設と2011年の見直し
Ⅱ スーパー堤防整備の現状(あまりにも遅い進捗状況)
Ⅲ スーパー堤防の整備が遅々として進まない理由
Ⅳ 現在のスーパー堤防は避難場所にもならない
③「ダムの治水効果の幻想」(2022年12月19日)
➡報告スライド
Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果は減衰していた
Ⅱ 2019年10月の台風19号で八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話は本当か?
Ⅲ ダム緊急放流の下流への影響は? 2022年9月の市房ダム(球磨川)緊急放流の下流への影響を検証する
④「最も基本となる治水対策「河道整備」」(2022年12月20日)
➡報告スライド
Ⅰ 破堤・溢水の危険性のある箇所を早急に改善
Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施
Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入
⑤「国の”流域治水”の何が問題なのか」(2023年1月24日)
➡報告スライド 脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし
Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省
Ⅱ 球磨川水系の「流域治水」の現実(流水型川辺川ダム等の推進の隠れ蓑)
Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムの理念から生まれた)
Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法