八ッ場ダム事業で建設された付替国道145号線が一部変形しており、地すべりの兆候があることから、昨年10月、当会では国交省関東地方整備局に公開質問書を提出しました。
4カ月後の2月27日にようやく国交省八ッ場ダム工事事務所より回答がファックスで送られてきました。
本日、八ッ場ダム工事事務所の回答と当会の見解を記者発表しましたので、その資料を掲載します。
*地すべりが発生している付替国道と法面。手前の地面にも、熱水変質帯が広がっている。(2015年2月3日撮影)
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八ッ場あしたの会からの公開質問書の提出 2014年10月27日
国土交通省八ッ場ダム工事事務所からの回答 2015年 2月27日
◆ 国交省の回答についてのコメント
〇 昨年10月27日に提出した公開質問書に対して2月27日になってようやく回答がありました。早く回答を出すように、関東地方整備局の担当者に何度も催促の電話をした結果として送られてきた回答です。
〇 公開質問書では、付替国道145号線の茂四郎トンネル西側の付替国道の縁石で数センチメートル幅の亀裂が生じ、路肩の表面は熱水変質帯から浸出した水が覆って赤茶色になっており、その原因として、山側斜面の熱水変質帯の地すべりが始まっていることを指摘しました。このことは昨年10月初めに地質の専門家が現地調査をした結果、明らかになったことです。
〇 これに対して、国交省は「法面とその前面の路肩の一部に亀裂や赤茶色化が生じていること及び法面前面の車道の一部に凹凸が生じていること」は認めましたが、その原因については「熱水変質化した地盤中の黄鉄鉱の酸化により生成される石膏による体積変化が主な原因と考えてい」るとし、地すべりが進行中であることは認めませんでした。
〇 そして、付替国道の管理は、「工事完成後の平成22年12月17日に道路管理者である群馬県に引き渡し」ており、今後は「道路管理者である群馬県が現地の状況を踏まえ必要に応じて適切に対応する」として、管理責任を群馬県に押しつけてしまいました。
〇 茂四郎トンネル西側の付替国道の変形は、国交省が述べている「黄鉄鉱の酸化により生成される石膏による体積変化」で説明できるような生易しいものではありません。
〇 国交省の説明は、岩石中の黄鉄鉱から生成された硫酸イオンと、岩石から遊離したカルシウムイオンが反応して、不溶性の石膏(硫酸カルシウム)が生成され、体積が膨張したというものですが、専門家の見解では、それだけで岩盤全体を膨張させることは困難であり,変形の形態も地すべりの進行を示唆しているということです。
〇 付替国道の縁石の亀裂は大きくなって変形がさらに進んできており、地すべりが起きつつあると考える方が合理的です。昨年10月初めに調査した時の亀裂は幅が3cm、長さ50m程度でしたが、時間の経過とともに大きくなり、今は幅が4cmに広がり、長さも伸びて50mを超えています。
そして、法面上段にも70数mの亀裂が走り、モルタル詰めの応急処置がとられています(写真上・右)。
〇 これは地すべりが起きる前兆と考えるべきであり、山側斜面の熱水変質帯のすべりに対して早急に防止策を講じないと、近い将来に一挙に崩れる危険性があります。
〇 また、国交省は「川原畑地区三平における付替国道の法面から法面沿いの水路に滲み出した水の水質が異様な水質(強酸性で、電気伝導度が異常に高い)になっていること」は認めましたが、「必要に応じて適切な対応をする」として問題を先送りしています。しかし、酸性の水はコンクリートや金属を劣化させ,建造物に被害を及ぼすので,浸出水の水質と水量のモニタリングをした上で、早急に対策を進めることが必要です
〇 公開質問書で指摘したように、川原畑地区では熱水変質帯が広く分布している山を開削して付替国道をつくったため、山側斜面の熱水変質帯が地上に露出して酸化し、脆弱化が進行しています。この熱水変質帯の露出による脆弱化は、川原畑地区の付替国道と代替地の安全性に関わる重大な問題ですが、国交省は管理責任を群馬県に押し付けて、自ら調査と対策に取り組もうとしません。
*地すべりの発生箇所と本体工事の発破作業現場との位置関係
*縁石と道路の亀裂は、公開質問書を提出した昨年10月より広がっている。(2015年2月3日撮影)
*付替国道の法面。(2/22撮影)
*法面のモルタルにも、いたるところに亀裂が走っている。(2/22撮影)
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◆質問と回答
川原畑地区の茂四郎トンネル西側の付替国道で変形が生じていることに関する質問
1 茂四郎トンネル西側での付替国道の変形について
上述のとおり、付替国道145号線の茂四郎トンネル西側では国道の縁石に数センチメートル幅の亀裂が生じ、路肩の表面は熱水変質帯から浸出した水が覆い、赤茶色になっています。貴局はこの事実を把握しているのでしょうか。把握しているか否かを明らかにしてください。
2 茂四郎トンネル西側での付替国道の変形の原因について
茂四郎トンネル西側の国道の縁石に数センチメートル幅の亀裂が発生し、この付近の車道の表面に凹凸が生じた原因は、山側斜面の熱水変質帯が地すべりを起こし始めたことにあると推測されますが、貴局は、これらの変形はどのような原因によるものと考えますか,貴局の見解を明らかにしてください。
3 茂四郎トンネル西側での地すべり対策工の有効性について
茂四郎トンネル西側では山側斜面の地すべりを防止するため、写真2に示すとおり、法枠工とアンカー工が採用され、施工されています。しかし、これらの対策工が有効に機能しなかったからこそ、上述のとおり、付替国道の変形が生じてきているのではないでしょうか。この場所で採用された法枠工とアンカー工が有効な地すべり対策工であったか否かについて貴局の見解を明らかにしてください。
4 熱水変質帯を含む斜面で採用すべき地すべり工法について
茂四郎トンネル西側の山側斜面は粘土化した熱水変質帯を多く含んでおり、地すべりを抑止することは容易ではありません。斜面の表面だけを抑える法枠工が有効な対策工にならないのは言うまでもありませんが、アンカー工にしても、アンカーを打ちつけた岩盤そのものが熱水変質していれば、糠に釘を打つようなものです。また、熱水変質帯は酸性化しており、アンカーは防錆措置がとられているとはいえ、何十年の歳月を経ても強酸性水に対して防錆が機能するかどうかは保証の限りではありません。茂四郎トンネル西側の熱水変質帯を含む斜面で採用すべき地すべり工法について貴局の見解を明らかにしてください。
5 茂四郎トンネル西側での付替国道の変形を防止する対策について
茂四郎トンネル西側での付替国道の変形を放置すれば、今後、熱水変質帯を含む斜面が崩落することが予想されます。その場合は交通量が多い幹線道路であり、また、周辺に宅地がありますので、影響は甚大です。崩落防止の対策を早急に講じなければなりません。貴局は茂四郎トンネル西側での付替国道の変形を防止するため、どのような対策を実施する考えでいるのか、貴局の見解を明らかにしてください。また、対策の実施予定時期も明らかにしてください。
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◆ 国交省の回答(問1~5に対する回答)
付替国道145号の長野原町区間(茂四郎トンネル川原畑地区側から県道長野原草津口停車場線交差部までの区間)は、当事務所が施工しましたが、工事完成後の平成22年12月17日に道路管理者である群馬県に引き渡しました。
ご指摘の川原畑地区の茂四郎トンネル西側の付替国道の法面に施工した地山補強土工法は、表層崩壊の防止を目的として法枠工及び鉄筋挿入工を採用していますが、熱水変質化した一部の地盤を含め、当時有していた地質情報と「道路土工―切土工・斜面安定工指針」等に基づき設計、施工を実施しました。
この法面とその前面の路肩の一部に亀裂や赤茶色化が生じていること及び法面前面の車道の一部に凹凸が生じていることについては承知しています。これらについては、当該個所の一部に含まれる熱水変質化した地盤中の黄鉄鉱の酸化により生成される石膏による体積変化が主な原因と考えています。現在、道路管理者である群馬県により現地調査、定期的な道路パトロールを行い当該個所の安全を確認しており、今後も現地の状況を踏まえ必要に応じて適切に対応すると聞いています。その対応に関しては当事務所としても協力してまいります。
付替国道については、道路管理者による道路パトロール等が継続され、付替道路の供用に支障が生じると予想される場合には、今後とも、道路管理者と連携して調査検討を行い、必要に応じて適切な対応をしてまいります。
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川原畑地区三平における付替国道脇の水路の水が異常な水質になっていることに関する質問
6 川原畑地区三平における付替国道の脇の水路の異常水質について
写真3は川原畑地区の三平にある付替国道の脇の水路を撮ったものです。場所は3頁の地形図の②で、長さ100メートル程度の水路です。この水路の水は写真で明らかなように、橙色の異様な色を呈しています。水質を測ってみると、pHは3程度で、強い酸性です。また、電気伝導度は4,700μS/cmもありました。付近の沢水は200μS/cm程度ですから、異常に高い値です。
水路の水が異常な水質になっているのは、山側斜面等のカオリナイトや黄鉄鉱を多く含む酸性熱水変質帯から酸性成分や金属元素、粘土コロイド物質などを含む水が浸出しているからであり、それは広範囲の山側斜面に熱水変質帯が分布していることを示唆します。そのことは、今後、山側斜面が安定を維持できるかどうかに関わる重要な問題です。
貴局は上記の事実を把握しているのでしょうか。把握しているか否かを明らかにしてください。把握しているならば、その対策を考えているのか否かを、そして、考えているならば、対策の内容を明らかにしてください。
7 川原畑地区における熱水変質帯に起因する問題について
川原畑地区の付替国道は山を切り開いて造られました。しかし、その山には熱水変質帯が広く分布していたため、開削により、熱水変質帯が地上に露出して空気に触れて酸化し、一層脆弱化してきました。この質問書で指摘した茂四郎トンネル西側での付替国道の変形、および三平における付替国道の脇の水路の異常水質はそのことによるものであり、川原畑地区ではほかの場所でも熱水変質帯に起因する問題が生じることが十分に予想されます。
このことについて貴局の見解を明らかにしてください。
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◆ 国交省の回答(問6~7に対する回答)
川原畑地区三平における付替国道の法面から法面沿いの水路に滲み出した水が、pH(水素イオン濃度)が低く電気伝導度が比較的高い場合があることは承知しています。
また、川原畑地区の一部の地盤が熱水変質化していることは承知していますが、ご指摘の付替国道については、当時有していた地質情報と「道路土工―切土工・斜面安定工指針」等に基づき設計、施工を実施しました。
これらの地区に限らず、付替道路の供用に支障が生じると予想される場合には、今後とも、道路管理者と連携して調査検討を行い、必要に応じて適切な対応をしてまいります。
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*公開質問6で取り上げた川原畑代替地・三平(さんだいら)における付替え国道のり面下の水路