「豪雨対策 あふれる川を前提に」(朝日新聞)

2006年7月17日 朝日新聞社説より転載

「豪雨対策 あふれる川を前提に 」

 300年に1度と言われる豪雨に見舞われた新潟水害から先週で2年たった。
 信濃川の支流の刈谷田(かりやた)川と五十嵐(いからし)川の堤防が決壊した。1万棟を超える家屋が水につかり、12人が水死した。水の勢いはすさまじく、創建400年の寺まで押し流した。
 豪雨の日には、新潟県内の5カ所のアメダス観測所で、史上最大の1日雨量を記録していた。

 最近、日本各地で雨の降り方が激しくなり、今年も局地的に大雨が降っている。地球の温暖化が影響しているのだろう。この30年間で1日に200ミリ以上の大雨が降った日数は、20世紀初めの30年間に比べ、1・5倍に増えている。

 刈谷田川では上流に洪水調節のダムができ、堤防も完成していた。100年に1度の洪水に耐えられるはずだった。五十嵐川でも2基のダムが築かれ、洪水対策が進みつつあった。だが、雨の量が想定を超えた。
 このことをどう考えればいいのか。
 戦後、日本の治水は「河道に水を封じ込め、流域を平等に守る」という方針で貫かれてきた。上流にダムを造り、堤防を連ねて、1滴たりとも川の外に水を出さない。そんな考え方だ。
 水害の後、新潟県はそうした方法を改めた。
 刈谷田川では、上流の堤防の一部を低くし、水田約100ヘクタールを遊水池にする計画を進めている。大量の雨が降った時には、あえて水をあふれさせ、人の住んでいないところに誘導しようというのだ。
 五十嵐川では、水につかりそうな400戸の移転が始まった。こちらは早々と逃げる道を選んだ。
 いずれも、洪水をすべて川に封じ込める方法が現実的ではない、と考えた結果だ。この方針転換を高く評価したい。

 実は、ドイツもそんな封じ込め策に見切りをつけた。温暖化が原因とみられる大洪水が頻発するからだ。
 02年夏、500年に1度と言われる洪水が襲い、1兆円を超える被害が出た。これを受けて、昨春、川はあふれるという前提に立つ洪水予防法を施行した。100年に1度の洪水が起きると予想される地域を指定し、建物の新築を厳しく制限するというのが主な内容だ。

 国土交通省にも動きがある。豪雨対策を考えていた審議会が昨春、流域を平等に守る考えを改める提言を出した。途切れなく堤防をつくるのではなく、住宅や農地など洪水から守るべき対象を絞り込もうというのだ。
 場所によっては、反発があるかもしれない。だが、いくらダムを築いても、どれだけ堤防を強固にしても、それで人の命や財産を完全に守れるかどうか。はなはだ疑わしい。

 洪水への有効な手立てとは何か。豪雨の頻発や財政事情を考えると、審議会の提言は現実的な判断と言える。
 川はあふれるもの。その前提に立ち、行政も住民も対策を考えていきたい。