「カスリーン台風再来には効果なし」(朝日新聞)

2008年6月11日 

 八ッ場ダムの必要性に疑問があるとして石関貴史衆院議員が提出していた質問主意書に対する内閣答弁が公表されました。質問主意書、内閣答弁書の全文は下記に掲載しています。↓
https://www.yamba-net.org/modules/news/article.php?storyid=576

 関連記事を転載します。

●朝日新聞 社会面 
「カスリーン台風」備えるはずが八ッ場ダム効果なし    

 群馬県長野原町で計画されている「国営八ッ場ダム」について、「カスリーン台風並みの大雨に備えるために必要」と説明してきた国が、実際には、同台風と同じ降水パターンの際には治水効果がないと試算していることが10日分かった。民主党の石関貴史衆院議員の質問主意書に対する政府答弁書で明らかになった。
 利根川流域の1都5県が事業参加するはずの八ッ場ダムの総事業費は4600億円で過去最大規模。計画は1952年に示された。その後、水没する住宅地や道路の代替地の造成などは進められてきたが、半世紀以上たった現在も本体の工事は始まっていない。主な目的は利水だが、近年は治水面が強調されるようになっている。
 治水の最大の根拠は、利根川のはんらんで約1100人の死者を出した1947年のカスリーン台風による被害とされてきた。しかし、答弁書によると、国土交通省の計算では、再び同規模の台風が襲来したと仮定した時の下流の観測地点のピーク流量は、ダムがある場合もない場合も同じ毎秒2万421㌧だった。
 同省関東地方整備局は「カスリーン台風の時、(八ッ場ダム計画のある)吾妻川流域の降水は少なかった。試算では、吾妻川流域でもっと多くの雨が降った洪水時には効果がある」といっている。

●朝日新聞群馬版
「八ツ場ダム議論再燃も カスリーン再来には治水効果なし」

 利水と治水を目的に建設中の国営八ツ場ダム(長野原町)について10日、計画推進のよりどころを揺るがしかねない事実が明らかになった。カスリーン台風と同じ降水パターンに際して、同ダムには治水効果が事実上ないと政府みずから考えていることが、石関貴史衆院議員の質問に対する答弁書で分かったからだ。くしくもこの日は、1952年に計画が示されてから、初めてダム本体に関連する工事の安全祈願祭が執り行われた当日。今月半ばの着工を前に、計画の是非をめぐる論議が再び活発になることは免れそうにない。

 石関貴史衆院議員の質問に対して政府がカスリーン台風と同じ降水パターンでは八ツ場ダムに治水効果がないと事実上回答したことを受けて、県内の関係者にも波紋が広がった。

 県の特定ダム対策課は「カスリーン台風時、八ツ場ダム予定地の上流にはほとんど雨が降らなかった。政府の回答は当然だ」と話す。ただ、政府はあわせて、カスリーン台風を含む過去31の大雨のうち29については同ダムに調節効果があると回答。同課も「八ツ場ダムに治水効果はある」と説明する。

 一方、八ツ場ダム事業の見直しを求めている市民団体「八ツ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は、すでに国交省の同様のデータを確認していたという。事業に伴い代替地への移転を迫られるなどしている地域住民のためにも、「なるべく早く、政治が見直しを決断すべきだ」と話す。

◆排水トンネルの掘削工事に着手
 安全祈願祭のあいさつで国土交通省関東地方整備局の北橋建治局長は「本体に着手するための準備工事だ。この日を迎えられたのは感慨深い」と述べた。ダム本体の設置場所に流れる吾妻川の流れを変えるための排水トンネルを掘る工事で、6月中旬には着工する。

 完成時期は来年の秋ごろ。その後、ダム本体の設置場所で掘削工事にとりかかり、12年にはコンクリートを流し込む作業を始める予定だ。

 これまで行われてきた工事は、水没する住宅地や道路などの代替地の造成など、周辺整備に限られた。移転住民の生活再建をめぐる補償交渉もなかなかまとまらず、代替地の整備にあたっては地域外へ転出する住民が7割以上に。整備計画も度重なる変更を余儀なくされ、86年に建設省(当時)が00年度までと設定した工期も2度延長された。

 しかし、今回、初めて本体建設に関連する工事にとりかかることで、15年度中の完成を目指すダム建設が、論議をよそに進み始めた。

◆国の試算、見直し必要
 《解説》 カスリーン台風再来時の治水効果はないと事実上認めた政府答弁書がそのまま、治水効果がないと判断する根拠にはならない。だが、国は長らく、多数の命を奪ったこの災害を計画推進のよりどころにしてきた。計画の妥当性を国民があらためて判断するうえでも、治水効果を算出するための様々なデータや前提となる根拠を一つ一つ洗い直す姿勢が求められる。

 治水効果は、伊勢崎市にある八斗島観測地点の流量をどれだけ抑えられるかで判断する。国はカスリーン台風規模の大雨で毎秒2万2千トンの最大流量を想定。このうち1万6500トンは堤防で、残り5500トンをダムで抑える計画だ。今回の答弁書では、カスリーン台風再来の場合、この流量を抑える効果は既設の6ダムだけでも、これに八ツ場ダムを加えた場合でも変わらないことが明らかにされた。

 国交省は八ツ場ダムの治水効果の計算に、カスリーン台風も含む過去31回の洪水のデータを使用。うち29回で、平均で最大毎秒600トン流量を抑える効果があると試算する。

 ただ、これは30年以上前、八ツ場ダムに近い東吾妻町の岩島地点の観測が始まる前に集めたデータに基づく。ダムに流れ込む最大流量を見積もるうえでも、多くの支流が集まった下流部の渋川市の観測データを使ったと答弁しており、石関議員側は「計画は机上のモデルだ」と批判する。

 過去最高額を投じるダム建設には、反対の声がいまだ根強い。毎秒2万2千トンという想定最大流量自体が過大だとする意見も消えていない。本体の準備工事は始まったが、国や県は、こうした疑問に今後も丁寧に答えていくことが求められる。