「諮問委提言無視の国 横暴 ■復活 淀川流域ダム計画 河川行政の逆行」(毎日新聞)

2008年7月22日

 全国の河川行政の最先端は、関西の淀川だといわれます。1997年の河川法改正の趣旨を生かし、国が情報公開に努め、流域住民と議論を重ねて合意をはかるという、今までのわが国では考えられなかった民主的な取り組みが行われてきました。淀川では、ダム事業に3830億円かけても、水位が19センチしか低下しないことが問題となりました。建設事業と関連事業で5000億円以上かかる八ッ場ダムの治水効果は、利根川の基準点でわずか13センチです。
 今朝の毎日新聞のコラム「記者の目」に、大変わかりやすい記事が載っていますので転載します。
 
「諮問委提言無視の国 横暴  ■復活 淀川流域ダム計画 河川行政の逆行」

 近畿の淀川流域で200年に1度の豪雨時の水位を19㌢下げるため、ダムを造るのだという。四つのダムで事業費は3830億円に上る。そんな計画案を6月、国土交通省が公表した。治水・環境の専門家や住民らで作る同省の諮問機関「淀川水系流域委員会」が「治水効果が小さく、建設は不適切」と指摘したにもかかわらずだ。省が自分たちで委嘱した委員会の意向を無視したもので、怒りと同時に残念に思う。国は建設計画を強行せず、改めるべきだ。
 
 国交省が公表したのは、大津市の大戸川ダムなどを建設・再開発する「河川整備計画案」。国は昨年8月、「計画案」の前段の「原案」を提示して淀川流域委に意見を求めた。審議の過程で流域委が水位低下のデータ公開を求めると、12月、同ダムの効果で200年に1度の豪雨時に下流の水位が19㌢下がるとの試算結果を出した。他のダムでの試算もほぼ同じで、国は「水位を1㌢でも下げるのが重要」と理解を求めた。
 だが淀川流域委は「19㌢は水位変動幅や計算誤差の範囲で、治水効果は小さい」と判断。今年4月には「堤防強化などダム以外の代替案の検討も不十分」として、国に原案作り直しを求める中間意見書を出した。

 淀川流域委のようにダム事業について意見を聞く手続きができたのは11年前。きっかけは95年にできた長良川河口堰(三重県)に各地の市民が強く反対したことだった。国は97年に河川法を改正して全国で流域委を設け、淀川流域委も01年に誕生した。

 その後、各地の委員会が計画を認めてきた中で、見直しを求めたのは淀川流域委が初めてだった。背景には淀川流域委だけが、分りやすいデータを基に議論した事実がある。川の流量ではなく、水位に着目したのだ。治水の上で、堤防の高さとの関係で水位こそ重要と見極めたのだ。

 この流れを作ったのが元国交省官僚の宮本博司委員長(55)だ。官僚時代はダム建設に携わり、長良川河口堰などで反対運動に直面した。淀川工事(現河川)事務所長だった01年、発足したばかりの淀川流域委と情報を共有するため、洪水で各地点の水位がどう上昇するかを数値で示し、堤防決壊の危険個所を明示した。
水位のデータは省内では用いられていたが、外部への公開は異例だった。

 宮本さんは「人命を救うには堤防決壊を防ぐのが必須。水位上昇が決壊の主な原因で、流量より大事だ」と説明。このデータを基に流域委は03年、堤防の危険部分の強化を優先し、環境に影響の大きいダムは原則建設しないと提言した。国も05年、大戸川ダムの建設凍結を発表した。徹底した情報公開に基づく議論は「淀川方式」と呼ばれ、全国で高く評価された。ところが国は07年になって一転、ダム建設凍結を解除した。

 一般的に国のダム計画では、一定の大雨を想定し、その際の川の流量「基本高水流量」を算出する。このうち堤防からあふれる水をためられるようにダムを計画してきた。基本高水流量は、過去の大雨で実際に生じた流量より大きいことが多い。このため、ダムに反対する市民団体や専門家から「ダム建設ありきの過大な想定」との指摘が相次いできた。建設の是非が争われている八ッ場ダム(群馬県)や川辺川ダム(熊本県)でもそうだ。国が基本高水流量を見直すことはまずない。加えて算定方法が合理的かどうか素人には分りにくいが、各地の諮問機関はこの流量にとらわれた審議に終始し、結局はダムは必要と結論づけてきたのだ。

 ダムに限らず、投資に見合うかどうかの判断には、客観的に効果が分ることが必要だ。国が示す「19㌢の水位低下」の「効果」に、ダム建設費を一部負担する滋賀や京都などの知事が必要性を真剣に検討し始めた。

 国は、もう勝手に公共事業を進めないと国民に約束し、河川法を改正した。たった11年前のことだ。なのに河川行政を逆戻りさせる今回の強行を見ると、国はあの約束をすっかり忘れてしまったようだ。「淀川方式」による全国の河川のチェックが、何よりも欠かせないと思う。