「故郷の大切さ 川原湯が教えてくれた 」(朝日新聞)

2009年7月30日 朝日新聞群馬版より転載
「故郷の大切さ 川原湯が教えてくれた ダム中止と生活再建 加藤登紀子さん訴え」

 私には生まれ育った故郷がない。でも八ツ場ダムの地元住民は故郷の大切さを教えてくれた―。八ツ場ダム(長野原町)の建設反対を訴えている歌手・加藤登紀子さんが、前橋市内であった市民団体のシンポジウムで講演し、ダムの地元・川原湯温泉への思いを語った。「地元の人が愛する故郷を失ってはならない」。そう説いてダム建設の中止と地元への生活再建支援の必要性を説いた。

 シンポジウムは市民団体「八ツ場あしたの会」が主催。加藤さん自身も、代表世話人の一人として反対活動に参加している。

 加藤さんは旧満州・ハルビン生まれ。戦後の引き揚げ船で帰国したため「故郷らしい故郷がない」という。

 八ツ場問題を通じて温泉地の住民との交流が始まった。快活な表情を絶やさず宿を経営する住民、地元の子どもが描いた大きな川魚の絵……。どれも故郷への愛着心を感じさせた。この日の講演で加藤さんは「細胞の隅々まで故郷が浸透している人たちに触れて、故郷の大切さを感じた」と語り、豊かな自然を壊してまで、ダム建設を進める必要はないと建設中止を訴えた。

 八ツ場ダムは、建設と地元住民への金銭的な「生活再建支援」が一体であることが条件で計画が進行している。地元住民にとって、建設中止は生活保障がなくなることを意味する。地元には「早く建設を進めて」との声も少なくないのが現状だ。

 シンポジウムには、国土交通省近畿地方整備局の諮問機関「淀川水系流域委員会」の前委員長、宮本博司・元国交省防災課長も講演者として参加。「ダム建設ありきの生活再建など本来はあってはならない」「水没地域の住民は国策の犠牲者」とダム行政を批判したうえで、八ツ場ダムについても建設の可否に関係なく、しっかりした生活再建支援をすべきだと話した。