「八ッ場」揺らぐ根拠 利根川・最大流量算出法に疑問(東京新聞)

 ダム計画の根拠とされる数字や計算方法については、科学的根拠がない、数字をごまかしているなどの指摘が以前から数多くありました。八ッ場ダムの目的とされる「治水」についても、科学的な説得力のある説明が国交省からなされていません。今まで伏せられてきた新たな問題が取り上げられた記事を紹介します。

2010年1月12日付 東京新聞「こちら特報部」より転載

「八ッ場」揺らぐ根拠 利根川・最大流量算出法に疑問 保水力54流域とも同一値 前提の堤防工事「仮設定」

 利根川上流域で降った雨水を下流に安全に流せるかの治水基準点が、群馬県伊勢崎市の八斗島(やったじま)。ところが、国土交通省は最大流量を計算する際、上流部の五十四流域の保水力を同一にしたうえ、堤防のかさ上げ工事も計算のための「仮設定」だったことが分かった。治水の算出前提に新たな疑問点が浮上し、八ッ場ダム(同長野原町)の必要性にも影響を与えそうだ。  (篠ケ瀬祐司)

 「八斗島上流域の流域定数表」という国交省の資料に、「0・5」と「48」がともに五十四個並ぶ。前の数字は「一次流出率」、後は「飽和雨量(mm)を表す。
 資料は八ッ場ダムの事業負担金の差し止め訴訟でさいたま地裁に出されたものだ。一次流出率とは、降った雨がすぐに川に流れ出る割合。飽和雨量は、雨が地中に浸透しにくくなり、飽和状態から降った分、川に流れ出る量が急増する雨量をいう。いずれも流域の保水力を示す係数として計算に利用する。
 ところが、国交省は八斗島から約五千平方㌔㍍と広大な上流部の五十四流域すべてで、一次流出率が0・5、飽和雨量は四八㍉としていた。
 保水力は森林、田畑、市街地の土地利用や地形など流域の特性に左右される。「緑のダム」といわれる森林面積が多ければ保水力が高くなる。

 区分の明示 拒む国交省
 特性が違う流域すべて同一の値で計算され、正しい流量は出せるのか。
 国交省関東地方整備局河川計画課は「計算に使った係数は五つあり、二つが同一でもおかしくはない」。また、五十四流域とは具体的にどこなのかについても「洪水調整施設(ダムや遊水地)に関する情報を含んでおり、公にすることで国民に誤解と混乱を生じさせる恐れがある」として、地域の特定を拒んだ。
 こうした対応に大熊孝・新潟大名誉教授(河川工学)は「利根川本川上流域は急峻、支流の吾妻川流域は火山性が卓越しているなど、それぞれ地形や地質が違う。流域すべてが同一の係数とは不自然。流域が非公開では国側の計算を検証することもできない」と話す。
 一方、八斗島上流域の氾濫防止のための堤防かさ上げ改修工事については、現実の計算ではなく、計算のための仮設定であることも判明した。
 同整備局の資料で示された、支流の烏川右岸の「計画堤防高」は六㍍だが、「こちら特報部」が歩いてみると、現況は約三・四㍍と、堤防改修は大半が手付かずだ。(昨年十一月二十七日既報)
 前提工事が行われなければ、最大流量も変わってくるのではないか。
 先の河川計画課は、堤防改修について「(想定工事)ではなく、計算のために断面図を仮設定したもの」と説明する。
 国は一九八〇年に利根川工事実施基本計画を策定。大水害をもたらした四七年九月のカスリーン台風並みの雨(三日間で三一九㍉)で、八斗島に最大毎秒二万二千立方㍍の水が流れると試算。
 さらに二〇〇五年、洪水被害を防ぐためには八斗島で毎秒一万六千五百立法㍍の水を流し、不足分は八ッ場ダムなど上流ダム群での調整が必要とするが、市民団体などは「流量が過大」と疑問を投げかけてきた。