ダム検証基準案に関する各紙の社説

2010年7月20日

 国交省の有識者会議が7月13日に公表した八ッ場ダム等の検証基準案について、新聞各紙が社説で論じています。19日に毎日新聞が掲載した社説は、有識者会議の検証基準案を評価したものでしたが、他紙では具体的な問題点が指摘されています。
 東京新聞は、検証作業がダムを推進してきたダム起業者によって実施されるため客観性に疑問がある、期間を限定していないため、検証作業が長引けばダム予定地住民が中途半端な状況に置かれ、犠牲を強いられる、としています。
 また、朝日新聞では、八ッ場ダムの場合、「事業を進めてきた関東地方整備局が、前原誠司国交相を事業推進の立場から突き上げてきた関係6都県などと行うことになる」ことや、過大だと批判されてきた治水の目標流量がそのまま維持されるのでは中途半端な検証になるとしています。ダム予定地住民の生活再建を具体化し、事業費を負担してきた自治体への費用返還ルールを確立することなど、政権交代後、ダム計画の見直しが進まない現状を打開するための提案も行っています。
 各紙のホームページに掲載されているものを掲載順に転載します。

◆東京新聞社説 2010年7月16日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2010071602000080.html
ー脱ダム治水対策 公正な結論が出せるかー

 国土交通省の有識者会議が、全国の個別ダム事業検証の判断基準案をまとめた。ダム以外の治水に二十五の手法を示し、評価できる点はあるが、検証、検討を事業者に委ねるなど問題も少なくない。

 「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の基準案は、まず遊水地整備、河道掘削、決壊し難い堤防、雨水貯留施設、森林保全、土地利用規制などダム以外の二十五の治水手法を示す。その上で検証対象ダムを含む対策とダム以外の方法による案を作り、比較検討を求める。

 評価は被害軽減の効果、コストと実現性、地域や環境への影響などの視点で行う。ダム以外の具体的な治水対策や、評価の考え方を明示したのは前進である。

 有識者会議の進め方も、討議のテーマや資料作成に委員が積極的にかかわった。この種の会議にありがちな事務局(国交省)任せを避けたのは、評価できる。

 しかし重大な疑問が残る。

 国交省政務三役の最終判断に至るまでの個別ダム検証は、国と水資源機構が施工する三十一事業について国交相が地方整備局および同機構に指示、道府県施工の五十以上の補助ダム事業は同相が道府県に要請する。

 事業者自身に事業の検証を求めることになり、果たして公正、客観的な検証結果が得られるか。とくに補助ダムは、初めから事業の妥当性を主張する首長が多いだけに、危惧(きぐ)の念を覚える。

 検証の過程では、検討の場の公開をはじめ各種情報の公開、主要な段階でのパブリックコメント、学識経験者や関係住民らの意見を聞くよう求めている。それらの手続きを厳守し、出された意見を尊重すべきである。さもないと、事業者の計画を追認する過去の公共事業再評価の茶番の繰り返しになりかねない。

 検証の期間をどうして限定しないのか。昨年秋、検証の対象となった国と機構施工のダムは事業の新しい段階に進めず、中ぶらりんの事態が続いている。たとえば国直轄の八ッ場ダム(群馬県)、設楽ダム(愛知県)は本体工事に入らず、橋の建設や移転住民の生活再建用地調査・取得などを実施しているのみである。

 ダム事業中止にせよ、建設推進にせよ、中途半端な状態が長引けば、影響は水没などで移転すべき住民にしわ寄せされる。検証に手抜きや安易な結論は許されないが、関係住民をいつまでも振り回すべきではない。

◆毎日新聞社説 2010年7月19日
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20100719k0000m070154000c.html
ー「脱ダム」提言 流域一体で治水対策をー

 梅雨前線の影響を受け、各地で水の被害が相次いだ。水害に強いと見られた都市部もゲリラ豪雨で被害が多発し、災害に強い街づくりが急務となっている。そんな中、国土交通省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は、ダム中心のこれまでの治水行政を見直す提言をまとめた。コストと環境面を重視し、ダム頼みだった治水対策を見直す今回の案は大いに歓迎したい。

 提言によれば今後、ダム本体を建設するにはダム以外の治水対策とコスト、安全度、環境への影響などを比較検討し、クリアしなくてはならない。国交相が最終的には判断するが、事業主体が提出する報告書が不十分な場合はやり直しを要請できる。検証の対象になるのは全国84カ所のダム。事業主体の国や水資源機構、さらには53の補助ダムを抱える30道府県は、こうした手続きを経て建設の是非を判断することになる。

 「脱ダム」の治水対策は25の手法を提言では掲げている。住宅地域を囲む輪中堤や道路を兼ねた二線堤や遊水地、放水路の建設。さらに保水容量を増すため現在あるダムや堤防をかさ上げしたり、流下能力を向上させるための河道の掘削や、上流の森林を保全し、保水能力を高めることも手法の一つに加えた。都市部では雨水貯留施設の建設や透水性の舗装、浸水の恐れが高い地域の土地利用の規制なども有効だ。これらを組み合わせて脱ダム治水対策は立案されることになる。

 ダム建設は、水没する地域の住民の反対で、完工時期が予定よりも大幅に遅れるケースも少なくない。建設か中止かで注目されている八ッ場(やんば)ダム(群馬県)も、着工は1970年だった。建設費用も見込みを大きく上回り、コスト意識が鈍すぎると批判されてきた。また、環境面からもダムは問題視されてきた。88年に着工した長良川河口堰(ぜき)の建設では反対運動が一気に全国に広がった。

 ダム建設には大きく分けて四つの段階がある。(1)用地買収(2)住民の生活再建(3)迂回(うかい)水路の建設(4)本体工事--だ。対象となるダムの事業主体は次のステップに移行する前に、「ダムによらない治水対策」を立案し、比較対照した報告書をまとめなくてはならない。その作業は公開され、流域の住民や首長、学者などからも意見を聴取することになった。

 しかし、有識者会議が提案する治水手法では、水路や遊水地の建設で立ち退きを求められる住民も出てくる。冠水地域と冠水しない地域との線引きは極めて難しい。土地利用の規制も所有者の反発を招きかねない。総論賛成、各論反対に終わらせない努力を事業主体だけでなく流域住民にも求めたい。

◆朝日新聞社説 2010年7月20日
http://www.asahi.com/paper/editorial20100720.html
ーダム検証―見直しは市民参加でー

ダム以外の治水方法と比較して、このままダム事業を続けるべきかどうか、検証し直す。国土交通省の有識者会議がそんな提言を発表した。

 できるだけダムに頼らない治水をめざすと宣言。集落を堤で輪のように囲む輪中堤(わじゅうてい)の復活や、川沿いの土地利用規制、堤防の強化など、25もの代替案を例示している。県営ダムを含め、84の事業を対象にする。

 ダムは一時期まで脚光を浴びた。しかし、環境に大きな負荷がかかることが問題視されるようになり、適地も減った。地元の説得に長い時間がかかり、事業費も膨れ上がった。惰性を排して見直す意義は大きい。

 だが、この検証が期待通りの成果を出せるかどうか、懸念がある。

 提言によると、検証は事業主体が行う。国交省の出先機関の地方整備局または水資源機構の支社、県営ダムは県が主体になり、関係自治体などと検討の場を持つ、という。

 八ツ場(やんば)ダムなら、事業を進めてきた関東地方整備局が、前原誠司国交相を事業推進の立場から突き上げてきた関係6都県などと行うことになる。このメンバーで、どこまで詰めた代替案が出てくるか。

 不十分なら国交相が再検証を指示できる、というが、地域での検証結果を突き返せるものだろうか。前原氏が昨年9月、就任直後に八ツ場ダム中止を発表し、地元から強い抗議を受けて混乱したことは記憶に新しい。

 しかも、治水の目標となる流量を従来と同じ水準としているが、この水準自体が高すぎると批判されてきた。これでは、代替案として堤防を考えても、都市部に巨大なものを建設しなければならなくなる。結局、安上がりだからと、ダム擁護になりかねない。

 国交省が検証を指示するのは9月になりそうだが、その前に十分な検証ができる体制を整えてほしい。

 欠かせないのは、第三者の市民が議論にかかわる仕組みだ。公募の市民委員らが議論した淀川水系流域委員会は傍聴者にも発言を許し、社会の関心を高め、河川政策見直しのうねりを作った。賛否両論が激突し、緊張感ある検証をしてこそ結果は信用を得る。

 前原国交相が約束したままになっている、ダム中止後の地元の生活再建策の具体化も急いでもらいたい。生活の展望が描けないため、水没地域の多くの住民がダム推進の先頭に立たざるをえない現状は、あまりに不合理だ。

 事業中止を議論する以上、事業費の一部を負担してきた自治体への資金返還ルールも確立するべきだ。事業続行とどちらが得か、自治体が判断できるようにするためだ。

 公共事業見直しは1990年代の長良川河口堰(かこうぜき)以来、議論が続く。中途半端な検証では、問題はさらに長引く。

◆2010年7月20日 愛媛新聞社説
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201007207441.html
ーダム事業検証基準 幅広い治水対策を前提にせよー

 政権交代後、前原誠司国土交通相が提唱してきた「ダムに頼らない治水」が、いよいよ具体的に動きだす。国交省の有識者会議は、ダム以外の治水対策として堤防かさ上げや遊水池整備などを挙げ、複数案の中からコストを最重視して決定するとした。
 ダム事業凍結宣言以来、代替案などの提案がなかっただけに、国がやっと打ち出した方向性に一定の評価はできよう。ダムありきの姿勢を改めた上で幅広い治水案を公平に検証し、早急な水害防止対策の確立を強く望みたい。
 検証過程は、事業主体がダムの事業費や工期などのデータを点検し、ダム事業と同じ安全性を備えた代替案を、2案から5案作成するという。その上で「コスト」を最重視しつつ、「安全度」「環境への影響」など8項目を判断基準に方針を決定する。
 報告を受けた国交相が有識者会議の意見を聞き、最終判断する仕組みだ。
 検証作業には透明性の確保はむろん、判断基準の客観的な提示が不可欠となる。例えば「コスト」には完成後の維持費用なども含まれるが、それだけでは不十分だ。
 事業で失われる森林や動植物はかけがえのない財産だ。激変する水質や地形の価値も見逃してはなるまい。
 自然環境の価値は、各事業で行われてきた環境影響評価(アセスメント)の結果でも証明されている。これらの要素も客観的にコスト化し評価する必要があろう。
 作業は今秋にも始まる予定だが、検証が事業主体にゆだねられる点については再考を促したい。多くの自治体はダム推進の姿勢だ。本県の山鳥坂ダムについても県は「事業再開へ従来通り必要性を訴えていく」としている。
 しかし、検証は複数案を公平に検証する作業のはずだ。いまの時点で、検討の当事者ともなる関係自治体が「ダム推進」を言うこと自体、立場を逸脱してはいないか。
 各地の水没地域の住民の生活再建を含め、ダム事業が積み残した課題は多い。犠牲を強いられてきた当事者である住民の生の声が、あらためて反映される「検討の場」づくりも促したい。
 報告までの検証作業には、住民を入れた第三者的な委員会を設けるなど、透明で公平な手法が求められよう。
 ダム事業は利権が取りざたされ、住民が推進派と反対派に割れ混乱、事業そのものも長期化している。治水の必要性を置き去りに、政治問題化してきた歴史さえ持つ。
 だからこそ今回の検証作業を、利権や利害から離れた河川整備へかじを切る契機とせねばならない。ダム以外の治水有効性も徹底検証し、「住民のための治水」という原点に立ち返るべきだ。

◆神戸新聞社説 2010年7月20日
http://www.kobe-np.co.jp/shasetsu/0003220363.shtml
ーダム見直し基準/流域の議論を徹底したいー

ダム建設が必要かどうかを、それ以外の治水対策と比較し、コスト最重視で判断する‐。国土交通省の有識者会議が事業を検証するための基準案をまとめた。

 大型公共事業の象徴とされるダムは、群馬県の八ツ場(やんば)ダムなど、各地でその必要性をめぐる議論が起きている。前原誠司国交相は「ダムに頼らない治水」を掲げるが、影響の大きい事業だけに、建設を見直す際のルールを明確にしたことは前進だ。

 対象は、全国の84ダム事業で、直轄31事業は事業主体の国が、補助53事業は30道府県が検証する。

 ダム以外の治水対策は、堤防のかさ上げや調整池、放水路、雨水貯留施設など25の手法から選び、それを組み合わせた案を複数つくった上で、ダム事業と比較する。その際、コストや安全度、実現性、環境への影響など8項目で評価するが、特にコストを重視するとの内容だ。

 大型公共事業は「一度決めたら後戻りしない」という旧態依然の姿勢があると批判されてきた。右肩上がりの経済成長の時代が終わり、財政事情は厳しい。「無駄を排し、必要かつ効果的な事業に重点的に投資する」との考え方を基本にして見直すのは当然のことといえる。

 ただ、対象のダムは、既に用地買収を終えるなど、事業がかなり進んでいるところが少なくない。そうしたダムは、コスト面で比べれば、ほかの治水対策より有利になるのではないか。環境への影響なども十分に配慮する検証作業が欠かせない。

 また、検証する主体が、ダム事業を進めてきた国の出先機関や道府県などであることに対し、「客観的な検証ができず、ダム推進の結論が出る」との批判もある。

 検証の際には学識経験者や住民の意見を聞くことになっている。流域の幅広い意見を反映させ、審議の透明性を高めることによって公正な判断を下す必要がある。

 とりわけ住民の主体的な判断が重要になる。「脱ダム」の基本は、流域全体で治水対策を分担することだ。今回示された手法のなかには、浸水の恐れのある地域の土地利用規制、宅地のかさ上げなど、川のはんらんを前提にした対策もある。地域への影響、負担は大きい。

 ダムをどうするのか。被害をどう食い止めるのか。治水対策は流域全体で考えるべきものだ。それが地域の防災意識を高めることにもなる。検証作業は、流域での徹底した議論を基本にしなければならない。