生活再建へ法整備急げ

 八ッ場あしたの会の運営委員でもある嶋津暉之さんのインタビュー記事が新聞に掲載されましたので転載します。

2010年9月27日 朝日新聞群馬版より転載
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581009270001

ー生活再建へ法整備急げー

「八ツ場は、自分にとっても全国のダム問題を考えるようになった原点」と話す嶋津暉之さん=さいたま市

 前原誠司・前国土交通相が、八ツ場ダム(長野原町)の中止を表明してから1年がたった。解決の見通しがみえないダム問題の現状と今後について、「首都圏の水需要が減少傾向にあり、治水効果も非常に小さい」と、一貫して不必要なダムと主張してきた水源開発問題全国連絡会の共同代表、嶋津暉之さん(66)に聞いた。(菅野雄介)

 ――ダム問題はほとんど前進しないまま、国交相が前原氏から馬淵澄夫氏に代わりました。

 中止方針には拍手喝采したが、期待はずれの1年だった。馬淵新大臣は、国交省の内外からスタッフを集め、利水や治水の代替案や「ダムなし」の地元の生活再建案をまとめるべきだ。中止表明後すぐに取り組むべきだったが、いまからでも遅くはない。特に生活再建は急ぐべきだ。このまま何年かかるかわからない状況が続くのは地元にとって過酷だ。

 ――前原氏の進め方に問題があったのですか。

 他の閣僚もそうだが、政治主導をはき違えている。政務三役だけでやろうとして、結果的に官僚の言いなりになっているように映る。具体策はダム問題に関心のある議員や研究者、意欲ある官僚を結集して、検討を指示すればよかったのに、そうしない。我々の提言にも耳を貸さない。

 ――野党時代にダム問題に熱心に取り組んでいた民主党議員も動きが鈍いようです。

 かつてのような積極的な活動はできていない。与党内では遠慮があるのだろう。与党議員の力は強いはずなのに、政策に反映されていない。

 群馬の民主党国会議員たちは地元に入って意見を聞き、何が必要なのかを政府に伝えるパイプ役になるべきだ。議員が動くだけでも状況は違ってくる。

 ――利水、治水の問題点をめぐる議論は、ダム反対派と推進派でかみ合ってない。

 大臣が中止方針を表明した以上、本来なら推進派の知事たちに反論すべき国交省が何も言わない。治水も利水も、八ツ場ダムが不要な根拠を大臣は国交省の官僚に指示して整理させ、アピールしていくべきなのに、いまだにホームページやダムの広報センター「やんば館」は、ダムが必要だという宣伝をしている。奇妙な状況だ。

 ――前原氏は有識者会議をつくって、ダム建設の是非を決める再評価の指針づくりをしました。

 当然、有識者会議にはダム建設に懐疑的なメンバーも入ると思ったが、排除された。むしろ推進派と思われる人が複数入っている。しかも会議は非公開で、匿名の議事録の公表も遅れがち。国民を巻き込んだ議論にならない仕組みになっている。

 中間取りまとめの案をみても、河川官僚の作文だった。ダム事業者自身が検証し、ダム推進の自治体の意見を反映させるだけでは、ダムをつくる結論になる可能性が高い。大臣が最終的に判断する仕組みになっているが、手順を踏んだ結論をひっくり返すのは現実には困難だろう。

 ――受益者の下流6都県がダム建設事業費の負担金支払いを留保しましたが。

 現段階での支払い留保は、今進められている関連事業および補償金の支出に影響するもので、地元を苦しめるだけだ。各都県は今年度予算で、本体工事費を盛り込んだ負担金を計上していたはず。矛盾している。

 ――地元の生活再建はどうすべきでしょうか。

 今後ダムができてもできなくても、今のままでは温泉街の再建は難しい。もともとの計画自体に無理があったうえ、中止表明後に前原氏は何もせず、温泉街はますます窮地に陥っている。

 ダム中止後の生活再建のため、地元を支援する法整備が必要。前原氏は来年の通常国会で法案を出すと表明したが、全然見えてこない。検証作業と法的な中止手続きを待つ余裕は地元にはない。国が責任を持って直ちに、よりよい再建案づくりに取り組むべきだ。

 ◇嶋津氏の略歴◇
 しまづ・てるゆき 1943年生まれ。東大大学院在学中の70年ごろ、反対運動が盛んだった八ツ場ダム予定地を訪れ、ダム計画が地元に与えるダメージの大きさを目の当たりにした。72年に東京都庁に入り、節水技術を広めることで水需要を減らし、ダム開発を抑制しようと努めた。93年に水源開発問題全国連絡会を結成、全国各地のダム反対運動を専門的な視点から支援している。