スーパー堤防の廃止

 菅政権の「事業仕分け第三弾」で土建国家の元凶とされる「社会資本整備特別会計」の廃止が決まったとというニュースが流れています。この特別会計にはダムや堤防などの治水事業の財布となる「治水勘定」も含まれています。今回の事業仕分けでは、「治水勘定」の中でとりわけ巨額な予算を食うとされてきたスーパー堤防事業の廃止も決定しました。
 こうした動きに反発しているのは、八ッ場ダムの中止方針に反発しているのと同じ面々です。たとえば江戸川区の土屋信行土木部長。今朝の朝日新聞「時々刻々」によれば、「地元の実情も知らずに無駄遣いと決めつけている。住民を見捨てる命の仕分けだ」というコメントが取り上げられています。また、おなじみの上田埼玉県知事は、「先に中止を宣言し、後で理由を探すようなことはやってほしくない」というコメントが上毛新聞に掲載されています。
 巨額なスーパー堤防が治水効果がきわめて少ない事業であることは、素人が考えてもわかることです。河川の氾濫は、弱い地点からあふれ出します。スーパー堤防が一地点の洪水を防ぐ効果があるとしても、堤防が線として流域を守らなければ、スーパー堤防のないところから水が溢れ出します。完成が400年後では、「現実的な話」と考える方が無理があります。スーパー堤防やダムの推進論者は、国交省が策定した利根川等の治水計画を前提に必要だと訴えているのですが、治水計画そのものの正当性が大きく揺らいでいる現在、それに基づいた事業計画の見直しが必要なのは当然のことです。
 今朝の日経新聞は、事業仕分けの決定を実現するには、特別会計法の改正が必要であり、ねじれ国会の現状では見通しが厳しいことを伝えています。同紙では、社会資本整備特会を所管する国土交通省の津川祥吾政務官が「現実的な議論を全然していない。そもそも公共事業をこんなに削って政治的に持つわけがない」といら立ちを隠さないと述べ、同省の政務三役経験者も「今回の判定を柔軟に見直す必要がある」と述べ、早くも軌道修正に乗り出す考えを示した、としており、民主党の本気度を疑っているようです。
 「時々刻々」(朝日新聞)では、スーパー堤防の推進が、本来の目的である「治水効果」ではなく、「大規模な再開発事業」への期待で歓迎されてきた裏事情も伝えています。
 

◆2010年10月29日 朝日新聞社会面より転載

ースーパー堤防事業「廃止」 事業仕分け第3弾ー
http://www.asahi.com/politics/update/1028/TKY201010280413.html

 特別会計(特会)を見直す菅政権の「事業仕分け」第3弾は28日、無駄な道路や不採算空港が造られる温床になっているとして「社会資本整備事業特会」(国土交通省所管)を「廃止」とした。なかでも治水勘定のスーパー堤防事業は無駄の象徴として事業そのものをやめるべきだと判定。約1兆円の借金を抱える同特会の空港整備勘定は、いったん分離して将来的に「廃止」するとした。

 この日の議論では、社会資本整備事業特会が抱える五つの勘定のうち、治水勘定と道路整備勘定、港湾勘定、業務勘定の四つはいずれも「廃止」し、チェック機能の働きやすい一般会計に移すべきだと判定された。特会の「廃止」には法改正が必要だ。

 空港整備勘定は将来的に「廃止」するが、1兆円に及ぶ借金を抱えているため、そのまま一般会計に移すのではなく、当面は勘定を残して債務削減に努めるべきだとした。国交省の成長戦略会議も5月、債務削減策として、空港ビルやテナントなどの関連ビジネスと空港運営を一体化し経営を効率化するよう提言していた。

 特会は各省庁の不透明な「財布」といわれ、天下りや無駄な事業を生む土壌になっていると指摘される。ただ、これまでも国の一般会計から特会にお金が入っており、特会や勘定を「廃止」して一般会計に戻しても、ただちに個別事業をやめることにはつながらない。

 今回の仕分けで、個別事業のなかで無駄だとして取りやめるべきだとされたのは、完成まで400年、累積事業費で12兆円かかるとされるスーパー堤防事業だ。首都圏や近畿圏の6河川で施行され、事業開始から20年以上かけて7千億円近くを投じているが、整備率は5.8%程度にとどまる。仕分け人から「無駄な事業」との意見が相次ぎ、取りやめるべきだとされた。

 この事業をめぐっては、4月に当時の前原誠司国交相が「やり方や優先順位を抜本的に見直すことが必要」と発言。国交省内でも規模や長期間にわたる事業計画への疑問があがり、検討課題となっていた。同省の津川祥吾政務官は仕分け後、記者団に「スーパー堤防そのものを全部なくしてしまうのか、将来への課題として議論、整理させてもらう」と語った。同省は今年度内にも事業を続けるか結論を出す構えだが、新規事業は行わない方向だ。

◆2010年10月29日 朝日新聞二面より一部転載

ー時々刻々 土建国家 財布仕分けー

 大型公共事業に事業仕分けのメスが入ったー。毎年3兆円以上の予算を使って道路やダムなどを建設している社会資本整備事業特会の廃止。この中には、約1兆円の借金を抱えた空港整備勘定の分離・将来の廃止が含まれる。事業でも、12兆円で400年かけないと完成しないスーパー堤防をやめるとした。仕分けが突きつけた判定で「土建国家」は変わるのか。

 スーパー堤防 完成に400年 「スーパー無駄」と廃止

 「400年かからないと全部完成しない。今から12兆円かかる。これ、現実的な話だと本当にお考えでしょうか?」。蓮航行政刷新相はスーパー堤防の議論でこう切り込んだ。激しい口調の裏には「廃止」が見えていた。
 ほかの仕分け人からも集中砲火が続いた。国土交通省側は津川祥吾政務官が「全面的に見直す」と防戦したが、10人中9人が「廃止」とし、「スーパー堤防は、スーパー無駄遣いということで廃止」との評決が下った。
 人口と資産が集中する首都圏と近畿圏を洪水被害から守る目的で、スーパー堤防事業が始まったのは、バブル真っ盛りの1987年。治水上、堤防の巾を高さの30倍まで広げるとした。まちの区画整理と、あふれない堤防作りを同時に進める発想だった。
 しかし、いったん建物を撤去した後に盛り土をして、住宅や道路を造り直すため、地権者や住民の同意が必要で、事業は各地で難航した。6河川で計872㌔にスーパー堤防を整備する計画で、過去24年で計6943億円が投じられたが、完成したのは5.8%の約50㌔にとどまっていた。現実離れした公共事業として見直しは議論されたが、住民の合意形成ができれば、大規模な再開発事業が生じることもあり、継続されてきた。
 事業費の3分の2は国が負担するため、自治体にとっては少ない負担で川沿いを再開発できる利点があった。整備に積極的だったのが東京都江戸川区だ。同区の土屋信行・土木部長はこの日、「地元の実情も知らずに無駄遣いと決めつけている。住民を見捨てる命の仕分けだ」と憤った。
 荒川と江戸川に挟まれた同区の7割は海抜ゼロ㍍地帯。区は安全性を高めるため、区内の堤防をすべてスーパー堤防化する必要を訴えてきた。
 一方、江戸川区で反対運動を続けてきた市民団体「スーパー堤防・街づくりを考える会」の運営委員長の戸口素男さん(68)は「明らかに税金の無駄遣い。やっとここまで来たかという思い」と「廃止」を歓迎。すでに高さ10㍍の堤防があり、排水ポンプの設置など排水機能を高める洪水対策の方が現実的だと訴える。
 埼玉県春日部市は今年八月、約20世帯が暮らす江戸川沿いの区画をスーパー堤防化することで、国と協定を結んだばかり。市の担当者は「これからという時にこんなことになるとは・・・」と戸惑う。
 「廃止」の結論には「いったん」との言葉が盛り込まれた。国交省の津川政務官は廃止は「想定内」として、「事業中の部分はまた一方で議論したい」と述べた。

 年3兆円 社会資本整備特会も廃止 「政権交代の理念を体現」
 「特化意にこだわる理由は。利権があるのか」「特会は国交省の財布で、一般会計は国民の財布だ」。公共事業の「財布」である社会資本整備事業特会のあり方をめぐり、仕分け人が国交省を追及した。
 一般会計と別に特会としておく理由がるのかが主な論点となった。国交省は「特会だから予算の査定が甘くなって事業が進みやすくなるという問題ではない」と反論したが、仕分けの結論は特会自体の「廃止」。一般会計に繰り入れることを突きつけた。
 廃止の方針は、蓮航氏や枝野幸男幹事長代理の了承のもとひそかに固められていった今回の仕分けの「大玉」だ。行政刷新会議関係者は10月中旬の時点で断言していた。「『コンクリートから人へ』という政権交代の理念を体現するため廃止する」
 野党時代の民主党の最大の照準は、自民党長期政権下で築かれた公共事業を中止する「政官業」の癒着。このトライアングルの無駄遣いを暴くことで政権交代の必要性を世論に訴える戦術だった。
 同特会は08年度に道路整備特会など公共事業関連の5特会を統合したが、旧特会が国交省の担当局の縦割りのまま「勘定」になっただけで、行政刷新会議関係者は「単なる数合わせ。廃止しなければ無駄はなくならない」という。
 特会に入るお金のほとんどは一般会計からの繰り入れ、いわば「仕送り」だ。これに地方自治体の負担金や、航空会社が支払う空港使用料などが加わる。これらがダムや堤防、道路、空港、港湾などの建設などに回る。
 問題は、一般会計化することで無駄な事業を抑えることができるかどうか。結局、一つひとつの事業のチェックが甘ければ一般会計経由で無駄な事業が続いていしまう。
 最後まで廃止の障害となっていたのが、同特会の空港整備勘定だ。約1兆円の借金を抱えているため、一般会計に入れば、一般の人の税金で返さなければならなくなる。そのため、仕分けでは、とりあえず空港勘定を切り離し、借金の返済のメドが立った時点で廃止することにした。 以下略

◆2010年10月29日 毎日新聞政治面より転載
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20101029ddm001010016000c.html

ー事業仕分け:第3弾 「公共事業」特会を廃止 スーパー堤防もー
 <分析>

 政府の行政刷新会議(議長・菅直人首相)は28日、道路や港湾整備などの公共事業を行う「社会資本整備事業特別会計(特会)」や「年金特会」など3特会を対象に事業仕分け第3弾2日目の作業を実施した。国土交通省が所管する社会資本特会は「特会があることで、ずさんな需要予測による無駄な事業を続けてきた」と指摘し、廃止して一般会計化すべきだと判定。200年に1度の大洪水に備える「スーパー堤防事業」も「廃止」を求めた。無駄な事業の温床とされる特会の抜本見直しを迫る内容となった。

 「『スーパー無駄遣い』ということで廃止にします」。スーパー堤防事業について、仕分け人の緒方林太郎衆院議員が「廃止判定」を読み上げると、満席の傍聴席から大きな拍手が起こった。

 同事業は87年に開始され、利根川など6水系に計6943億円を投入。しかし、地元住民の反対などで計画の5・8%しか整備が進まず、このままでは完成は400年後。総事業費は12兆円に上る。国交省の津川祥吾政務官も「既存の堤防強化のほうが現実的だ」と、廃止判定に従うしかなかった。

 仕分け人が特に厳しく追及したのは、費用に見合った効果があるのかという点だ。同省幹部はスーパー堤防の防災効果について「効果は把握していない」と繰り返すばかり。見積もりの甘さはすべての公共事業に共通し、この日の議論では、07年以降の道路事業274件で費用が当初予定を上回り、5・1兆円もの追加支出を余儀なくされた実態が判明した。港湾でも想定したコンテナ取扱量を上回ったのは126港中16港のみで、仕分け人の長妻昭前厚生労働相は「コストを低く見積もり、後で予算が膨張している。小さく生んで大きく育てるのが公共事業だ」と皮肉った。

 仕分け人が一般会計化を迫った背景には、「特会があることで(支出が固定化して)金がジャブジャブ出ていく」(長妻氏)との問題意識がある。仕分け判定では、社会資本特会のうち空港使用料などの特定財源を抱える「空港整備勘定」は当面の区分経理を容認したが、「道路整備」など残る4勘定は一般会計化を求めた。ただ、同特会はこれまでも一般会計の公共事業費から資金が繰り入れられており、「国交省から財務省の財布に変わるだけ」との指摘もある。

 一方、年金特会では、計7事業が「予算圧縮」。国債整理基金特会では、12兆円に達する積立金で繰り上げ償還(借金の返済)を検討するよう求めた。【三沢耕平、倉田陶子】

◆2010年10月29日 日本経済新聞より転載

ー事業仕分け、特会の本丸にメス 実現に厚い壁 「政治的にもたない」の声もー
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819481E0EAE2E18B8DE0EAE3E2E0E2E3E29797E0E2E2E2

政府の行政刷新会議による事業仕分けは28日、国土交通省所管の社会資本整備事業特別会計を6テーマに分けて議論し、公共事業にメスを入れた。同特会は道路や港湾、空港、治水(ダムなど)ごとに勘定が分かれ公共事業の原資となっている。仕分けでは軒並み予算の圧縮を求めたが、ねじれ国会を前にすぐに実現できるかは不透明。ただ、これを実行していかないと民主党政権に対する期待感は一段と低下しかねない。

社会資本整備事業特別会計の「事業仕分け」で長妻前厚労相(中央)は質問に耳を傾けた(28日午前、東京都豊島区)
 「可能かといわれるとちょっと……。努力したいと思う」。仕分けの現場にも説明役として参加した国交省の津川祥吾政務官は同日夕の記者会見でこう述べた。道路、港湾、治水は「10~20%」、空港は「10%」。仕分けで求められた予算の圧縮幅は単純計算で最大5000億円規模になる。

■国会も関門に

 同政務官は「現実的な議論を全然していない。そもそも公共事業をこんなに削って政治的に持つわけがない」といら立ちを隠さない。同省の政務三役経験者も「今回の判定を柔軟に見直す必要がある」と述べ、早くも軌道修正に乗り出す考えを示した。

 特会を一般会計にすることには課題も多い。「一般会計化するメリットはない。特会廃止というメッセージを出したいだけだ」。国交省内ではこんな声も上がる。政府内で難しい制度設計が迫られるうえ、特会法の改正が必要。参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」の下で法案成立は容易ではない。

 空港の整備や維持運営などに充てる「空港整備勘定」に対しても「廃止」の判定が出たが、すぐに廃止できない事情もある。同勘定には羽田空港の拡張事業などにより約1兆円の借金があり、すぐに一般会計化すれば、特会の借金を国民全体で負担することにつながるからだ。

 通常の堤防より幅の広いスーパー堤防の整備事業では国交省が方針を立てた約870キロメートルを整備するには400年かかるとの指摘も出た。

 「スーパー堤防は『スーパー無駄遣い』ということで廃止にさせてもらいたい」――。仕分け人の緒方林太郎衆院議員は通常の堤防よりも決壊しにくい「スーパー堤防」の判定結果をこう発表すると、会場内からは笑い声と拍手が起こった。

■年度内に結論

 仕分けで国交省側の説明役を務めた津川祥吾政務官は終了後、記者団に「根本的な治水対策を未来永劫(えいごう)放棄するのか議論しないといけない」と指摘。より優先順位の高い河川整備や水害対策を進めると強調しながらも、スーパー堤防については国交省の政務三役で年度内に結論を出すと述べるにとどめた。

◆2010年10月29日 上毛新聞より転載
ースーパー堤防 「廃止」判定に賛否 「効果少なく歓迎」「治水をどうする」-

 国土交通省が首都圏や板倉町、千代田町の利根川などで進めてきた「スーパー堤防」の整備事業が28日、政府の事業仕分けで「スーパー無駄遣い」などとして廃止と判定された。大型公共事業は河川整備のあり方を疑問視する市民団体から歓迎の声が上がる一方、対象地域の自治体からは治水上の不安や判定手法に対する疑問の声が聞かれた。

 板倉町の栗原実町長は八ッ場ダム問題を踏まえ「スーパー堤防もダムも廃止なら、国は利根川の治水対策をどうするつもりなのか」と語気を強め、明和町の恩田久町長は「膨大な事業費と時間が必要という指摘も理解できるが、代替案を提示してもらわなければ・・・」と困惑の表情を浮かべた。

 県の坂尾博秋危機管理監は「ダムに頼らない治水を掲げながら、堤防事業を廃止するのは一貫性がない」と批判。「利根川全体の治水対策についての議論や代替策もなく、事業費だけで廃止と判定するのは八ッ場の中止表明の時と同じ」と疑問を投げかけた。
 
 埼玉県の上田清司知事も八ッ場ダムを例に「先に中止を宣言し、後で理由を探すようなことはやってほしくない」と指摘。専門家による精査の必要性を指摘した上で「やめるのなら県の負担金は返してもらう」と話した。
 一方、八ッ場ダム建設見直しを訴えている水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表は「当然のこと」と歓迎。「堤防は連続性が重要なのに、スーパー堤防は予算が大きすぎて点でしか整備できていない。ダムと同じく予算ばかりが大きく効果の少ない治水対策だ」とし、通常の堤防強化対策の推進を訴えた。
 市民オンブズマン群馬の鈴木庸事務局長は「そこまで巨額の予算を投じる必要性があるのか疑問だった。その分の予算を福祉、介護など弱者の救済に配分してほしい」と話した。