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超党派議連が「水循環庁」創設へ動き出す

 ダム推進の大きな原動力となってきた国土交通省の水利権許可行政を抜本的に見直す動きが出てきています。
 「利水」は「治水」とともに、八ッ場ダムの建設の二大目的として掲げられてきましたが、その内容をよく見ると、首を傾げることが多々あります。その主なものが過大な水需要予測の設定で、実際のところ首都圏では水余り現象が年々顕著になっています。それにも関わらず、埼玉県知事らがダム推進を主張する背景が、国交省の水利権許可行政です。自治体が川からの取水を申し出ると、国交省は「暫定水利権」を認めますが、その代わりにダムへの負担金を要求してきました。八ッ場ダムが完成すれば、負担金を支払ってきた自治体は、晴れて「暫定」の文字が抜けた「水利権」を得ることができます。ダムがない現状で取水できるのですから、「暫定水利権」はダム事業の資金を得るための仕掛けであり、許認可権による霞が関支配の最たるものということができます。
 下記の記事は、水利権許可行政の見直しには多くのハードルがある状況を詳しく伝えています。本物の政治主導による新たな法整備が求められています。

◆2010年10月29日 毎日新聞より転載 http://mainichi.jp/select/seiji/forum/file/news/20101027org00m010017000c.html

ー超党派議連が「水循環庁」創設へ動き出す 一元化阻む省益の壁に政治主導が問われそう

 ◇水政策

 国際的に水ビジネスが注目を集める中、超党派の国会議員の間で、霞が関の水行政を一本化する「水循環庁」(仮称)の設立を模索する動きが出てきた。現在、水に関連した行政は、国土交通省や厚生労働省、経済産業省、環境省などバラバラ。縦割り行政の弊害を指摘する声が高まっていることが背景にある。ただ、一元化には、とかく国益より省益を優先しがちな霞が関の官僚の反発が必至。水を舞台にした行政改革がどこまで進むか、政治主導の本質が問われることになりそうだ。

 民主党代表選の告示を翌日に控えた8月31日午後。自民、民主など超党派の議員連盟「水制度改革議員連盟」が国会議事堂前の衆議院第1議員会館で会合を開き、現在は複数の省庁にまたがっている水行政を一元化するための「水循環基本法」の素案をまとめた。

 すぐ近くの別室では、菅直人首相や前原誠司国土交通相(当時、現外相)ら菅選対の閣僚や議員が集まり、代表選に向けた「作戦会議」を開いている最中だった。政権党の民主党内が政局ムードに包まれる中、超党派議連の会合は、霞が関改革を志向する議員らによるもう一つの「作戦会議」だった。

 議連のトップを務めるのは、自民党の中川秀直元幹事長。幹事長や政調会長などの要職にあった小泉純一郎政権以降、一貫して官僚制度改革など霞が関改革の必要性を力説している。議連内にも「中川さんが目指しているのは水を切り口にした省庁再編ではないか」「霞が関改革を目指すうえで心強い存在だ」との声が聞かれる。このところ表舞台での目立った動きがない中川氏だが、水政策をテコに与野党の扇の要として霞が関ににらみをきかせているようだ。

 超党派議連が目指すのは、縦割り行政による無駄の排除に向け、内閣府に新設する「水循環庁」。河川の流域に位置する自治体で作る「流域連合」を設置し、国の出先機関に代わって治水、保水を担ってもらうという構想だ。

 日本では、治水やダム開発が国交省、農業用水や森林保全が農水省、工業用水が経済産業省、水質汚濁対策が環境省など、水政策の所管官庁が分野ごとに分かれている。超党派議連は、こうした縦割り行政の弊害や無駄な公共投資を問題視し、議員立法による法案提出を目指し、水の専門家を交えて法案作成を進めてきた。

 議連がまとめた法案は全38条。地表水と地下水を「公共水」と定義し、政府には水循環の保全義務を課し、国民には水環境を享受する権利を付与する。国は流域治水対策や水循環系の再生・保存に向けた基本方針を策定し、流域連合はその方針に沿って河川ごとに環境影響評価(アセスメント)を実施して水循環計画を策定・履行する。また、国には内閣府に中央水循環審議会(仮称)を、流域連合には流域水循環審議会(仮称)をそれぞれ置き、計画の進展度をチェックする体制も整備する。
 しかし、実現に向けてのハードルは高そうだ。

 超党派議連は来年の通常国会への提出を目指すが、中央政府の権限を大幅に地方に移譲し、国の出先機関の廃止にもつながる内容のため、霞が関からは「中央省庁の再編につながりかねない」(経済官庁幹部)と警戒する声が早くも漏れ始めている。超党派議連に所属する議員の1人は「水行政の一元化は官僚に任せていては不可能だし、激しい抵抗があるのは確実。最初から閣法(政府提出の法律案)でできないことは分かっていたので超党派でやってきた」と語気を強める。

 もともと霞が関の中には自らの権限や裁量を縮小する改革への理解者は少ない。国交省が先に公表した出先機関改革でも、業務の大半を国が引き続き担当するのが適当とする仕分け結果となった。全国知事会など地方の要求に対する事実上のゼロ回答で、移管には道州制など広域的な「受け皿」が必要と理由を挙げている。

 こうした中、水行政の一元化を後押しするのが、縦割り行政の改革を訴えている民間人や大学教授ら有識者で作る「水制度改革国民会議」(理事長・松井三郎京都大学名誉教授)だ。9月9日に東京都内で「水制度改革を求める国民大会」を開き、議連がまとめた行政の一元化の必要性を訴え、水循環基本法の制定を呼び掛けた。

 大会の冒頭、同会議の稲場紀久雄常務理事が「国民の共有財産である水は、縦割り行政によって危機にひんしており、行政の体制を見直さなければ健全な水循環は守れない」と述べ、現在の縦割り行政の弊害を指摘した。

 超党派議連代表の中川氏も駆けつけ、「水は国民の共有財産。将来にわたって守っていく必要があるが、現在の縦割り行政ではそうした公共性の判断ができなくなってきている」と強調。共同代表を務める民主党の前田武志参院議員は「水循環基本法はこれまでの制度や体制をひっくり返すようなものであり、簡単に実現できるものではないが、どうにか成立できるよう努力していく」と訴えた。

 一元化に向けて官の抵抗を抑え込むには、菅政権の政治主導の力量が問われるが、今回の内閣改造が微妙に影響しそうだ。政府内では、国交省が来年度の組織・定員要求の中で水管理・防災局(仮称)の設置を要求。まずは省内の水関連行政を一元化する方針を打ち出している。しかし、この組織改変は前原前国交相の肝いりで進んだ計画。前原氏は「上下水道の一元化は本来の姿だ」と、上水道を所管する厚労省との調整に言及していたが、内閣改造で外相にスライド。省内には「国交相でなくなった以上、前原カラーの強い改革がどこまで実現できるか不透明だ」との声が出ている。

 超党派議連とは別に民主党内にも衆参約70人で作る「水政策推進議員連盟」があり、この議連も水行政の一元化を志向している。議連のトップは樽床伸二前国会対策委員長。国民会議の幹部の間では、樽床氏が国会運営の要となる国対委員長であることに期待を寄せていたが、党役員人事でわずか3カ月により交代することになった。超党派議連の1人は「賛同者をどこまで増やせるかが勝負になるが、通常国会での法案の提出は厳しくなったと言わざるを得ない」と嘆いている。