イカサマを暴いたもの(毎日新聞)

2010年11月2日 毎日新聞東京朝刊より転載
http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20101102ddm004070004000c.html

 発信箱:イカサマを暴いたもの=福岡賢正

 《国土交通省側が八ッ場ダム建設を正当化するために、計算結果を捏造(ねつぞう)していたことは、もはや疑う余地がありません。これは「公文書偽造」の犯罪なのです。もし私の主張が誤りで、国交省の主張が正しい場合、私は恥じて研究者であることを辞めます。二度と論文も書きません》

 拓殖大学の准教授、関良基さん(40)が自身のブログにそう記したのは9月19日。

 流域の保水力を示す飽和雨量の値を利根川の治水計画策定時に国が使った48ミリで計算すると、森林が成長した近年は実際の洪水流量より25~35%多い値が出る。一方100ミリで計算すると誤差は10%内に収まる。保水力が向上したのは確実なのに、国は「計画策定時の計算式は近年の洪水流量においても再現性がある」として、保水力は不変と言い張る。業を煮やした彼は「研究者生命を賭ける」と啖呵(たんか)を切ったのだ。

 そして彼は賭けに勝った。10月12日の国会で国交相に公表させた利根川の治水計画検証時に使った飽和雨量の値は、1958年31・77ミリ、59年65ミリ、82年115ミリ、98年125ミリ。48ミリでは実際の流量とかけ離れるため、正しい値を使ってつじつまを合わせながら、計画で使った計算式は昔も今も有効で保水力は不変と偽っていたのだ。

 あきれるのはまだ早い。治水計画を検証する際、実は日本中でそのイカサマを使うのが通例だったというのだから。

 それを私に明かしてくれたのは、苫田ダム工事事務所長や長良川河口堰(ぜき)建設所長も務めた宮本博司さん(57)。従来の治水政策の矛盾に悩んで内側から改革に取り組んだが、ダム派の巻き返しで先祖返りした国交省に見切りをつけ、4年前に辞めた人だ。

 職を賭した学者の告発に、職をなげうって闘った元河川官僚が応えた。あとは政治家が腹を据えられるかだ。(西部報道部)