ダム事業における川原湯の地域振興策

 次々と家屋が解体される川原湯地区で、ダム事業による地域振興策の議論が進められています。
 川原湯地区は八ッ場ダムの水没予定地最大の集落で、地域産業の核である温泉街を抱えています。八ッ場ダム事業における地域振興策の中心は、この川原湯温泉の再生にかかっていると言っても過言ではありませんが、未だに具体的な構想が固まっていません。

 地域振興策の原資は八ッ場ダムの関係都県による水源地域対策基金事業です。八ッ場ダムの三事業とされるダム事業、水特法の事業、基金事業の中でこの基金事業は、もともと総額と事業内容が決まっておらず、他の二事業よりはるかに不確かな事業です。水没予定地の地域振興策をこの基金事業が担うということ自体、地元の人々にとっては大変不利な状況です。

 全水没予定の川原湯地区では、他地区にくらべ、ダム計画の被害が甚大であるだけに、この地域振興策が地域の命運を握ると考えられてきました。
 下記の記事は、目標とした3月に向けての地元の議論を詳しく伝えています。記事タイトルは、ダム計画が中止になれば、地域振興策が暗礁に乗り上げることを予測したものですが、ダム計画が継続されたとしても、地元の人々が願っている地域振興策が実現する保障はどこにもありません。

 国交省関東地方整備局はさる1月、ダム計画を継続したとしても、ダムの完成は8年後であることを公表しました。それまでの間、地域はダム事業の工事現場であり続けることになります。ダム事業に翻弄されてきた川原湯温泉は、観光業を継続することが困難なことから、多くの住民が流出しています。今後、少なくとも8年間、このような状況が続くとしたら、どうやって観光業を維持していけばよいのでしょうか。

 長期化するダム事業のせいで多大な犠牲を被ってきた地域の人々に対して、国交省はダム事業と切り離した支援もせず、ダム中止を想定した法整備にも着手していません。地域の人々がダム事業に依存せざるをえないようにするために、従来どおりのダム行政が粛々と進められています。

◆2011年2月26日 朝日新聞群馬版より転載
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581102260001

 -振興案づくり、山場 ダム中止なら暗礁も―

 八ツ場ダムが完成すれば全戸が水没する長野原町川原湯地区で、地域振興施設の構想づくりが山場を迎えている。構想が最初に示された30年前から地区の世帯数は4分の1に減り、構想も大幅に縮小する見通しだが、住民は地域再建に期待する。ただ構想はダム完成が前提で、今秋までに出される予定の検証結果に左右されることになる。(菅野雄介)

 1月27日夜。住民が地区の八ツ場ダム総合相談センターに集まり、県が依頼したコンサルタント会社の社員を囲んだ。施設について検討する3回目のワークショップ(WS)だ。

 住民が前回WSで出した案について、集客性や定住人口増などの評価軸ごとに◎○△といった記号で県とコンサルが仕分けし、問題点や運営の難易度がこの場で示された。

 スポーツリハビリセンター案は「入院施設の場合、(病床数などを定めた)地域医療計画上、設置困難。(通院型の)診療所であれば、著名な先生の招聘(しょう・へい)が必須」とされた。テナントを入れる案については「外部から誘致しても地元への経済効果や雇用創出効果があまり期待できない」などとされた。

 これらをもとに、WSの参加者がどの施設が適当か投票した。結果は観光案内所▽小規模の温浴施設▽研修・会議室、郵便局▽テナント▽体験施設▽住民が利用するスーパー……の順だった。

 県は1980年の生活再建案で、1千人収容のホールを備えた観光会館などを住民に提案した。08年にはそれに代わる施設として、健康増進施設「エクササイズセンター」を示したが、採算面の不安から再び見直されることになった。そして昨年11月30日、あらためてWSが始まった。

 振興施設は、ダムの水を使う東京、埼玉、千葉、茨城、群馬の5都県が出資する「利根川・荒川水源地域対策基金」を活用して建てられる。

 WSでは3月末までに施設案を取りまとめ、下流都県の了解を得て県は新年度に設計に取りかかる予定。2年後にはオープンさせるという。

 ただ、基金による事業はダムを造ることが前提で、国土交通省が現在進めている検証の結果、ダム建設が中止になれば根拠を失うことになる。

 民主党政権は、大型公共事業の中止に伴う生活再建支援の補償法案で対処する方針を示したが、通常国会への提出は2度見送られた。

 大畠章宏国交相は「国会情勢が非常に厳しい中で今はまだ俎上(そ・じょう)に上がっていないが、法律案については準備している」と述べているが、見通しは示されていない。

 川原湯地区の住民は「自民党政権時代も20年以上かけて生活再建は実現できなかったが、民主党政権のダム問題を巡る迷走にはあきれる」と話す。地区のダム対策委員長、樋田洋二さん(63)も「このまま生活再建があいまいにされたら、国も県も町も信用できないという事態になりかねない」といら立ちを隠せない。