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水源連など市民団体が政府へ要請書を提出

 さる7月20日に国会議員会館にて、ダム等の公共事業のあり方を問う集会が二つ開かれ、100名近くの参加者が集まりました。

 一つ目の集会は、水源開発問題全国連絡会(略称:水源連)主催によるダム事業検証の実態を報告する集会でした。
 二つ目の集会は、「不要・不急な公共事業2011年度予算を震災復興へ」というタイトルで、水源連のほか、公共事業のあり方を問題視する複数の市民団体による共催でした。
 
 この国では、放射能汚染の被害が拡大する中、被害住民の救済も原子力政策の見直しも進まず、一方で時代状況に合わない20世紀生まれの巨大公共事業が今も粛々と進められています。
 以下の集会採択文には、このままでは今後、わが国の社会状況がますます悪化すると危惧する多くの国民の思いがこめられています。

★「ダム事業検証検討の実態」報告会において採択された要請文

 国土交通大臣 大畠章宏 様
「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」座長 中川博次 様

                                     2011年7月20日
  
 ダムによらない治水利水のあり方を求める原点に立ち返って真のダム検証の実施を!

 全国で83ダム事業(直轄・水機構・補助ダム)の検証検討作業が進められ、その結果が次々と国交省に報告されてきており、これから順次、各ダムの検証検討報告を有識者会議が審議したうえで、大臣が方針を決めることになっています。

 しかし、この検証検討の結果のほとんどはダム推進の結論が先にありきの形だけのものになっており、このままではダム検証は、ダム事業の推進にお墨付きを与えるものでしかなく、「コンクリートから人へ」という河川行政の方向転換に大きな期待を寄せた国民の気持ちを踏みにじることになります。

 各ダムについての検証検討の内容、経過を見ると、別添の「ダム事業検証検討の実態報告」のとおり、そのほとんどはダムが必要だという前提のもとに、その代替案との費用比較を行うだけであって、ダムが本当に必要なのかという原点に立ち返っての検証は皆無となっています。その結果として自動的にダム案が最適案として残る仕組みになっています。多くのダムでは実現性がゼロの代替案との比較が形だけ行われているだけであって、茶番劇としてのダム検証になっています。

 しかし、有識者会議の設置目的が 「できるだけダムにたよらない治水への政策転換を進める」ことにあるように、ダム検証の本来の目的は、単に費用比較を行うだけではなく、ダムの必要性と問題点を徹底的に検証することにあります。

 ついては、有識者会議と国交省政務三役はその原点に立ち返って、各ダムの検証検討報告を厳格に審査し、ダム検証本来の目的を果たしていないものは検証検討主体に対して再検討を行うよう、指示または要請することを求めます。

 そして、各ダムの検証検討報告の審査は次の視点に基づいて行うことを求めます。
1.「できるだけダムにたよらない治水・利水」を目指すものになっていること

2.治水面でダムが必要とされている根拠(治水計画の目標流量など)について科学的な徹底検証が行われていること

3.利水面でダムが必要とされている根拠(水需要予測や保有水源の評価など)について科学的な徹底検証が行われていること

4.ダムによる自然環境や地域社会へ与える負の影響、災害誘発の危険性が正しく評価されていること

             緊急集会 「ダム事業検証検討の実態」報告会  参加者一同

*集会終了後、参加者らは市村浩一郎国土交通大臣政務官へ面談の上、要請書を提出しました。

★集会「不要・不急な公共事業2011年度予算を震災復興へ」において採択された要請文

 菅  直人  内閣総理大臣
 平野 達男  復興対策担当大臣
 野田 佳彦   財務大臣
 海江田 万里 経済産業大臣
 細野 豪志  原発事故収束・再発防止担当大臣
 髙木 義明   文部科学大臣
 大畠 章宏  国土交通大臣
 鹿野 道彦   農林水産大臣
 枝野 幸男  内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策担当)

 2011年度の公共事業を精査して、不要・不急な事業の予算を震災復興費へシフトしてください

 3月11日の東日本大震災は、大地震・巨大津波・レベル7の原発事故が重なり、未曾有の大惨事となりました。とりわけ福島原発の危機は、全く持続可能でない私たちの社会を象徴しており、今までの日本社会のあり方に根底からの見直しを迫っています。
 私たちは、被災した方々の生活再建について、市民として連帯と協力の意思を表明するとともに、国会と内閣が生活再建を最優先とした政策・事業を採用すべきだと考えます。
 2011年度の公共事業予算は約5兆円にもなります。その中には次に述べるとおり、必要性が明確ではない事業、あるいは必要性がたとえあっても直ちに実施しなければならない緊急性がない事業が少なからず含まれています。
東日本大震災の被災地の復興のためには、巨額の予算をすみやかに確保して、資材、人材等を集中的に投入しなければなりません。公共事業全般について真の必要性があるかどうか、緊急性があるかどうか、早急に精査し、必要性または緊急性が明確ではない公共事業の2011年度予算を減額修正して、復興財源としてシフトすることが必要です。

① 代表的な例はダム事業です。ダム事業は現在、検証作業が行われているように、その必要性が疑問視されているものであり、しかも、長期の建設期間を要するものですから、緊急性がないことは言うまでもありません。

② 幹線道路、空港整備、新幹線・リニア整備、湿地埋立などの公共事業も計画から完成まで数十年かかる事業であって、緊急性を要するものではなく、また、その必要性に疑問が呈せられているものが数多くあります。

③ これらの公共事業には自然生態系には大きな影響を与えることが危惧されているものもあり、昨年10月の生物多様性条約締約国会議のホスト国である日本政府には、そこで議決された「愛知ターゲット」を守ることが求められていますので、これらの事業の執行は慎重でなければなりません。

④ 更なる原発事故の危険性を高める「もんじゅ」等の原子力発電開発関係の予算も凍結する必要があります。

 ダム等の不要・不急な公共事業予算の震災復興費へのシフトすらなされないまま、大量の国債を発行したり、増税を行ったり、国民生活に直結する予算を削減したりすることには、国民が理解を与えません。
 私たちは、国民の代表たる国会と内閣の主導によって、公共事業2011年度予算を緊急度の視点で徹底精査し、そこで捻出された予算額を震災復興費へとシフトさせることを、求めます。
                                               2011年7月20日

                 「不要・不公共事業2011年度予算を震災復興へ」集会参加者一同

*この要請書は、集会終了後、参加者らは阿久津幸彦内閣府大臣政務官に面談し、要請書を提出しました。