「八ッ場ダム中止から2年」(東京新聞連載記事)

 政権交代で「八ッ場ダム中止」方針が掲げられてから2年経過した節目に、東京新聞で連載記事が掲載されましたので転載します。

◆2011年9月22日 東京新聞群馬版 
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110922/CK2011092202000082.html

 -「八ッ場ダム」中止から2年(上) 検証作業に地元は―

 八ッ場(やんば)ダム建設の是非を検証した国土交通省関東地方整備局と流域一都五県で構成する「検討の場」。各自治体の事務レベルの担当者が参加する幹事会が昨年十月から今月十三日まで計九回開かれたが、ダム建設予定地を抱える長野原町は、副町長が一度、傍聴した以外はかかわらなかった。

 「治水や利水でダムの恩恵を受ける方々のための場。町には直接関係がない」と町のダム対策課の担当者は気に掛けていない。

 国からの情報提供は、幹事会の後に、県を通じて資料が送られてくるのみ。専ら報道を通じて議論の推移を見守っていたという。

 議論にはかかわらなかったが、結果的にダム建設を最も有利とする評価が出たことは歓迎する。「ダムありきの生活再建ですから」
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 九月十七日夜、長野原町の川原湯温泉で唯一、夜間営業している飲食店「吾八寿司」の酒席で住民らが、ここ数日の政権の言動への不満をこぼしていた。

 「国交相が決めるってことにしてたんだろ。何でまた前原が出てくるんだ」

 四日前の十三日、関東地方整備局がダムを最も有利とする評価を出した直後、前原誠司政調会長が会見で「事前説明がないのは極めて不愉快だ」と指摘。藤村修官房長官が翌十四日の会見で八ッ場ダム建設の是非を、前原氏らが参加する政府・民主党三役会議で最終決断するとの見通しを示した。

 酒席に参加していた八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会の篠原憲一事務局長(70)は強調する。「何のために涙をのんでダムに賛成したんだ。地元のためじゃない。下流の人たちのためなんだよ」

 同席していたダム川原湯対策委員会の歴代の幹部らも話題の中心はダム再開までの行方だ。「問題は前田(武志国交相)がダムを再開できるかだ」「できるかな」。もともと「検討の場」の議論の内容に関心は薄かったという。この日も話題に上ることはなかった。

 欲しているのは「ダム再開」の結論だけなのかもしれない。
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 八ッ場ダム建設中止の方針が示されてから二年が過ぎた。今月結果が示された、ダム建設の是非の検証作業とは何だったのかを考える。

 (写真)道路建設などの工事は進む八ッ場ダム建設予定地=6月、長野原町で

◆2011年9月23日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110923/CK2011092302000070.html

 -「八ッ場ダム」中止から2年(中) 手続きの在り方ー

 「治水や利水のコストから建設するのが最も有利」。八ッ場(やんば)ダム建設の是非の再検証で、国土交通省関東地方整備局が示した判断だ。

 整備局は再検証に当たり、治水と利水、流水の三つの目的ごとにダム案の代替案を四~五案用意し、コストを最重要視して実現性、地域社会への影響など六~七つの評価軸で比較。この結果、ダム案は治水と利水でコストが最も安いとされた。

 ただしコストとして算出されたのは、今後、完成までにかかる費用だ。

 八ッ場ダムは一九六七年に着工し、総事業費四千六百億円。うち、既に三千三百億円が費やされているが、ダム案のコストには含まれていない。同局の担当者は「代替案にも過去の工事費用は入れていない」と説明する。

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 今月十三日の「検討の場」で、関東地方整備局からダムを建設する方が最も有利とする案を示されると、流域一都五県の知事らからは「予想していた」「検証する前から考えていた」との意見が相次いだ。

 「予想どおりの結果が出るような見直し方を国が設定したから当然だ」。八ッ場ダム問題を追い続けているジャーナリスト、まさのあつこさんは、見直しのあり方に疑問を投げかける。

 八ッ場ダムの検証は、国交省の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」が昨年九月に出した中間取りまとめに基づいて行われている。再検証でコストを最重要と位置付け、ダム案と代替案を工事費の残額で比較する判断基準を決めたのもこの会議だ。

 まさのさんは「有識者会議はメンバーがダム推進派で非公開。手続きが公正であれば中身は問われない検証法が出来上がった」と指摘する。

 その結果、検証が十分になされなかった問題も少なくないという。「人口減に伴う水需要については各都県に確認しただけ。批判的な検討をしていない」

 二年前、前原誠司国土交通相(当時)が八ッ場ダムの中止を表明した時、まさのさんは「治水とは何なのか根本的に考え直す機会が来た」と思った。「ダムに頼らない治水を目指すために始まった見直しではなかったのか」と問いかける。

 (写真)関東地方整備局と流域1都5県で構成する「検討の場」=東京都千代田区で

◆2011年9月25日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110925/CK2011092502000062.html

 -「八ッ場ダム」中止から2年(下) 手付かずの生活再建ー

 「景気が悪くなった時に八ッ場(やんば)ダム中止問題が起きて、余計駄目になった。もうダムができても、できなくても同じ。川原湯温泉は一巻の終わりだ」

昨年三月で休業した長野原町の柏屋旅館会長の豊田治明さん(75)は、ぼやいた。

 同旅館は江戸時代から続いた老舗。戦後の好景気に乗った観光ブームでは大勢の団体客でにぎわい、同温泉で最も大きな旅館に成長した。

 ダムが建設された場合、温泉街のある川原湯と川原畑の両地区の全戸と、横壁、林、長野原の三地区の一部が水に沈む。

 最盛期は二十軒近くの旅館が立ち並んだ同温泉。現在営業を続ける五軒は移転か廃業を迫られている。

 柏屋旅館の建物は年内に取り壊す。移転するかは決めていない。豊田さんは「もう旅館はもうからないから。何十年か後には、いい温泉街になるかもしれないけれど」と力なくつぶやいた。

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 「国交省は、ダム事業継続の是非について検証しているが、廃止になった場合の措置については全く検討していない。代わりにやる」

 民主党の群馬選出国会議員らも名を連ねる「八ッ場ダム等の地元住民の生活再建を考える議員連盟」の会長、川内博史衆院議員(鹿児島1区)は九日、短文投稿サイト「ツイッター」で、こう記した。十六日、ダム事業中止に伴うダム予定地の振興を目的とする特別措置法案の要綱を同党の前原誠司政調会長に提出した。

 二十三日の八ッ場ダム建設見直しを求めるシンポジウムで、水問題研究家嶋津暉之さんはこの法案に触れ、「何とか立法化して生活再建の道を開かねばならない。地元は中ぶらりんの状態に置かれている」と力説した。

 嶋津さんは八ッ場ダムが完成した場合の地域を「流れていた水がたまり、水質が汚れる。美しい吾妻渓谷も一部が壊され、岩肌をコケが覆う」と描写。「事業を再開しても完成は数年後。ダム湖で川原湯温泉がにぎわいを取り戻すという話は幻想」と指摘した。

 中止か再開か。ダム建設がどちらになっても、地元住民の生活再建は、大きな課題として残る。

 (写真)「早く代替地の工事を進めてほしい」と話す豊田さん=長野原町で

(この企画は伊藤弘喜が担当しました)

—転載終わり—

 上記連載の最後の記事で、「事業を再開しても完成は数年後」との嶋津暉之(当会運営委員)の言葉が紹介されていますが、これは国交省関東地方整備局が今年1月に公表した資料を踏まえたものです。この資料では、八ッ場ダム事業を再開(本体工事に着工)したとしても、ダム完成までには8年かかるとしています。