八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

前田大臣、八ッ場ダム結論遅れ示唆

2011年9月30日

 前任の大畠国交大臣は今秋、八ッ場ダム建設の是非について結論を出すとしてきましたが、今月就任した前田武志国交大臣は、就任インタビューで結論遅れを示唆しました。
 9月26日、前田大臣と石原都知事、上田埼玉県知事、大沢群馬県知事との面談があり、関係都県知事より「八ッ場ダム早期完成」の申し入れが行われましたが、この後の記者会見でも前田大臣は改めて結論遅れを示唆しました。その理由は、3月11日の東日本大震災など、このところ日本列島を続けざまに襲っている天変地異です。

 わが国では自然災害(洪水被害)を軽減するために治水ダムが900基近くも造られてきましたが、河川工学の専門家から「水害を防いだ例は殆どない」と指摘され(*)、このところの水害では被害軽減の役に立たないどころか、かえって被害を増大させた実態が次々と報告されているありさまです。 
 さらに、地質、地形の悪条件を抱える八ッ場ダムは、奈良県の大滝ダム、埼玉県の滝沢ダムの先例以上に、ダムによる災害の危険性が専門家から指摘されてもいます。国交省関東地方整備局に八ッ場ダムの検証を丸投げしてきた前任の大畠大臣は、あまりにも河川行政に無関心と批判されてきましたから、前田大臣が想定外の自然災害を踏まえて八ッ場ダムの検証をする必要があると発言したことは、多くの国民の理解を得るものであり、河川行政の信頼を回復する試みとも考えられます。

 一方で、59年間もダム計画にがんじがらめにされてきた地元では、これ以上宙ぶらりんの状況に置かれてはたまらないとの声もあがっています。 国土交通省と群馬県はこれまで道路などの「生活再建事業」の推進には熱心でしたが、ダム計画の長期化に伴う地元の犠牲については頬かむりをしてきました。結論を遅らせるのであれば、ダム事業とは切り離した地元支援を同時に行うことが求められます。

*参考
河川行政の転換を訴える今本博健京大名誉教授の講演録
http://www.nature.or.jp/h_koza/ShiminDaigaku_2010/Imamoto_KinenKoen/ImamotoLec-5.htm

◆2011年9月27日 読売新聞群馬版
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20110927-OYT8T00105.htm

 -八ッ場着工6都県要請 国交相、結論遅れ示唆 「『秋までに』前任までの話」ー

 八ッ場ダム(長野原町)の再検証を巡り、関係6都県の3知事らが26日、前田国土交通相を訪問し、ダム建設を「最も有利」と評価した国交省関東地方整備局の検証を尊重し、直ちにダム本体工事に着工するよう要請した。一方、前田国交相は、東日本大震災クラスの巨大災害を踏まえた検証を新たに実施する方針を表明。歴代国交相は今秋までに結論を出すとしてきたが、前田国交相は「『秋までに』というのは前任者までの話」と語り、最終判断の時期が遅れる可能性を示唆した。

 要請は6都県知事の連名で行われ、大沢知事が代表して要請書を提出した。その中で、同整備局の評価を「当然の結果」と指摘。ダム本体の早期着工のほか、予算を集中投資して事業の遅れを取り戻し、2015年度の完成予定を守るよう求めている。

 大沢知事は面談後の記者会見で、「『予断を持たずに検証する』と、改めて大臣の口から聞いたので安心した。非常に重く受け止めていただいていると思う」と説明。国交相から、10月上旬にも現地視察する方針を示されたことを明かした。

 また、2年前にダム中止を表明した民主党の前原政調会長が、同整備局から検証の報告がないと不快感を示し、検証作業にも関与する可能性が出ている点について、石原慎太郎・東京都知事は「ナンセンス。こういう(ダム建設が最も有利という)結論になったら、不愉快だとはどういうことなのか。非常に軽率で、あるまじき発言だ」と批判した。

 前田国交相も面談後、記者会見に応じ、「知事らが直接、要請書を届けてきたことは非常に重い」としたが、震災を踏まえた検証を、国交相の私的諮問機関「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」に諮る考えを説明。その上で「なるべく早く結論を出したい」と語った。

(写真)前田国交相(左)に申し入れをする大沢知事(中央)、石原都知事(右から2人目)ら(26日午後6時4分)

◆2011年9月29日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110929/CK2011092902000071.html

 -今秋にも結論「前任者まで」 八ッ場ダム建設の是非ー

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の建設の是非について、前田武志国土交通相が、結論を出す時期を秋以降に遅らせる可能性を示唆したことが波紋を生じさせている。

 歴代国交相が「今秋に結論」としてきたのに対し、前田国交相は二十六日、大沢正明知事ら三都県の知事と会談後、記者団に「秋までにというのは前任者までの話。3・11のことが入っていない」と語り、東日本大震災の影響を踏まえ、結論がずれ込むことを示唆。

 これを知った大沢知事は二十七日、記者団に「ショックだ。(会談の時)一都五県の知事が来たことは非常に重く、しっかり検証すると言っていた。われわれに言ったことを信じたい」と戸惑いをあらわに。前田国交相が十月に予定しているダム予定地の視察に触れ「その時に真意を確認したい」と述べた。

 一方、長野原町ダム対策課の担当者は「情報がない。予定通り秋に結論が出ると思っている」と話した。
 
国交省関東地方整備局の担当者は「結論時期が遅れるという指示はない。予定通りパブリックコメント(意見公募)や専門家の意見聴取をするための準備をしている」と淡々と語った。 (伊藤弘喜)

◆2011年9月28日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581109280001

 -「最善」から2週間 整備局動きなしー

 八ツ場ダム(長野原町)の再検証で、国土交通省関東地方整備局が「ダムが最善」との総合評価を出して27日で2週間がたった。だが、整備局は総合評価以降、表だった動きがない。県や地元からは「今秋としてきた最終判断に間に合うのか」と不満が募る。

 「整備局から何も言ってこないので情報がない」。ダムができれば水没する同町川原湯で22日夜、国交省八ツ場ダム工事事務所の所長は地区の代表を前に平身低頭だった。「本当に今秋に結論が出せるのか」と、検証過程の現状説明を迫られたからだ。

 事務所によると、総合評価以降、整備局から情報や指示は「何もない」。県や長野原町も「何の説明もない」とし、県幹部は「このままでは最終判断の時期が遅れ、来年度の予算編成に影響が出る」と心配する。

 一方、整備局は、朝日新聞の取材に「パブリックコメントの準備をしている」と説明。国民への意見公募前に、6都県幹部との間で1年間に9回開いた検討の場に示した資料や議事録を精査し、「検討結果の報告書(素案)」をまとめる作業をしているという。

 だが、前田武志国交相の建設是非判断までには、整備局だけでも、有識者会議や関係住民、6都県知事、関係利水者からの意見聴取という手続きが山積。国交相は26日、整備局から検討結果の報告を受けた後も、東日本大震災を踏まえ、本省の有識者会議で入念に検討する考えを示した。

 さらに時間がかかることが予想され、整備局は「できるだけ準備を急ぐ」としている。(小林誠一)
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 八ツ場ダム建設の是非について、歴代の国土交通相が今秋に結論を出すとしながらも、前田武志国交相が「それは前任者までの話」と述べたことについて、大沢正明知事は27日、記者団に対し「前田国交相が現地視察に来たときに真意を問いたい」と話した。「大臣を信じている」としながらも「ショックだ」と混乱した様子も見せた。