被災地から首都圏への警鐘

 千葉県在住の全国自然保護連合の方から、年末の紙面に載った記事をお知らせいただきました。被災地から首都圏へ発信された記事は、首都圏に住む私たちに警鐘を鳴らしています。

◆2011年12月30日 朝日新聞 〔記者有論〕

 ー八ッ場ダム 首都圏、被災地の議論に学べー

                      宮古支局長 伊藤智章

 岩手の被災地は街の再建をめぐる議論の最中だ。高くする防潮堤を信じて従来の土地に住むか、高台に移るか。ぎりぎりの議論が住民レベルで行われている。それを日々取材する私にとって、八ッ場ダム(群馬県)の建設再開で最も気になるのは、恩恵を受けるはずの首都圏の反応だ。

 ダムの地元で深々と頭を下げる国土交通相に対し、予定地首長らが万歳三唱していたが、本来、ダムは首都圏のために造る。今、これが安全確保のため、最も有効なお金の使い方なのかどうか。被災地なら、まずそこを考える。

 たとえば、私が住む宮古市にある旧田老町は、明治津波(1896年)、昭和津波(1933年)に続き、また大きな被害を受けた。先日の復興まちづくりの住民の会議は延々5時間も続いたが、何げない発言にハッとさせられた「国の財政の将来を考えると、次の津波の後にはもうこんな支援はないぞ」。土地のリスクと、国家財政の将来の両方を考えている。

 この町は昭和津波後、40年がかりで高さ10メートル、延長2.4キロの大防潮堤を築いた。今回、その一部が基礎から倒れ、大きな被害を出すことになったが、それは、戦後に水産庁補助で延長したスリムな防潮堤だった。旧内務省や旧建設省がかかわった古い部分は、裾野が広くがっちりしていて衝撃を弱めた。

 いま、現地では「(倒壊部分の)復旧も旧建設省にやってほしい」という冗談が飛び交う。構造物の強さは設計で大きな違いがある。住民はそこにも日を向けている。

 八ッ場ダム完成まで、あと1千億円以上かかる。上流の豪雨には大きな効果を発揮するだろう。でも国交省も利根川水系の計300キロで堤防の安全性が足りないと認めている時、何を優先するか。

 国交省は堤防も改修している。が、膨大な用地買収費がネックになり、進捗が遅い。スーパー堤防は1キロ140億円かかる。今本博健京大名誉教授は、いまの堤防に鋼鉄板を打ち込む補強を提案する。1キロ10億円だ。まず穴をふさぐべきではないのか。

 ダム検証では、最下流の東京の江戸川区長まで推進論を唱えていた。でも海抜ゼロメートルの同区の喫緊の課題は、海の高潮対策のはず。江戸川堤防は地盤沈下しており、薄いコンクリート壁を継ぎ足しただけだ。

 首都圏も、被災地の真摯な議論に学ぶべきだ。民主党を責めてすむことではない。