「八ッ場ダムー整備計画はゼロから」(朝日社説)

 昨日の朝日新聞社説を転載します。

◆2012年2月4日 朝日新聞社説
http://www.asahi.com/paper/editorial20120204.html

 八ツ場ダム―整備計画はゼロから 大型公共事業の見直しの象徴で、民主党マニフェストの柱の一つでもあった八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)の問題が、新たな段階に入った。

 政府・民主党内で賛否が対立したダム本体の工事について、政府は新年度予算案に関連費用を盛り込み、事業継続を打ち出した。

 その際、官房長官の裁定として、ダムの予定地がある吾妻(あがつま)川を含む利根川水系の整備計画を早急に作ることになった。

 本来、ダムの必要性は整備計画をまとめる過程で判断する。国土交通省の関東地方整備局は06年末に整備計画を作り始めたが、09年夏の政権交代で作業が中断。その後、全国のダム見直しの一つとして八ツ場ダムの是非が検証され、関東地整が昨年秋、「八ツ場ダムを含む対策が最も安上がり」との結論を出した経緯がある。

 だからと言って、ダム本体の工事を後押しするような拙速な整備計画作りは許されない。

 作業の中断まで、関東地整は「50年に1度の洪水に備える」との前提に立っていた。ところが、八ツ場ダムの検証作業では「70~80年に1度の洪水」に変更した。より大規模な洪水に備えることになり、ダムの必要性が押し上げられた。

 前提を変えたのだから、整備計画作りはゼロから始めるべきだ。変更の理由について、関東地整は「利根川が流れる首都圏の重要性を考えた」と説明するが、そのぶん対策に時間とコストがかかる。整備計画が想定する20~30年での完了が可能なのか、疑問が生じる。

 まずは「70~80年に1度の洪水」という前提が妥当か、検証する必要がある。官房長官裁定でも求められたポイントだ。

 計画作りでは、ダム批判派をまじえた議論が欠かせない。関東地整に置かれた有識者会議はメンバーを一新すべきだ。時間的に難しいなら、八ツ場ダムに反対する学者や市民団体が参加する討論会が不可欠だ。

 公聴会の開催やパブリックコメントの募集では、「聞いただけ」に終わりかねない。賛否の意見が直接ぶつかりあってこそ議論が深まる。

 関東地整が「最も安上がり」と結論づけた「八ツ場ダムを含む対策」も、八ツ場ダム以外に調節池や堤防の整備、河道の掘削が必要で、総事業費は8千億円を超える。

 財政難が深刻さを増すなか、優先すべき対策は何か。八ツ場ダムは本当に必要か。利根川の整備計画作りを通じて、突き詰めなければならない。