生活再建支援法についての社説(愛媛新聞)

 ダム中止後の地元住民の生活再建を支援するための法案が今国会に提出される予定です。この法案について、愛媛新聞が社説を掲載しました。
 愛媛県には国直轄の山鳥坂(やまとさか)ダム計画があります。
 山鳥坂ダム事業も必要性に疑問が投げかけられてきた大型公共事業の一つで、1994年に基本計画が告示されましたが2000年には当時の与党3党(自民党、公明党、保守党)により中止の勧告を受けました。しかし、加戸守行愛媛県知事らの強力な働き掛けにより、事業継続になったという経緯があります。
 その後もダム計画は迷走しました。山鳥坂ダムは、もともとは松山市など愛媛県中部(中与地方)の水源確保を主目的とした計画でしたが、2001年、中与地方が財政負担を理由に山鳥坂ダムからの分水を拒否。国交省四国地方整備局は新たに山鳥坂ダムの建設目的を治水と定め、2004年に山鳥坂ダムを含む河川整備計画を策定し、2008年には道路の付け替えなどのダム関連工事に着手しました。2009年の政権交代直前に水没予定地住民が移転補償に合意しましたが、その直後、民主党政権によりダム計画が凍結されました。
 民主党政権によるダム計画の凍結は新たな段階に入らないというルールを定めたため、八ッ場ダム計画のようにすでに用地買収が行われてきた事業では引き続き水没予定地住民への補償が行われてきましたが、山鳥坂ダム計画の場合は、補償を前提に生活設計を立ててきた住民が宙ぶらりんの状況に置かれることになりました。
 山鳥坂ダムの水没予定世帯数が八ッ場ダム計画より遥かに少ないのですが、それでも長年のダム計画に翻弄されてきた地元住民には、個別補償交渉直前にダム計画が凍結になったことに対する反発が強くあります。
 山鳥坂ダムは八ッ場ダムと同様、受益者である筈の下流域の住民の中でダム反対運動が拡がり、ダム予定地域住民からは生活再建・地域振興を目的としたダム事業の継続を求める声が聞かれます。

 以下の愛媛新聞の社説は、正論を述べています。国土交通省は八ッ場ダムの本体工事の着工と引き換えに法案を提出することとなっており、法案の中身が真に住民の生活再建に資するものであるかをよく精査する必要があります。

◆2012年3月4日 愛媛新聞
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201203048521.html

 -水没地振興法 ダム見直しへの契機とせねばー

 ダム事業が中止された場合に、住民の生活再建を支援する「ダム事業廃止特定地域振興特別措置法案」の内容が固まった。ダム建設の見直しに必要不可欠な法律であり、速やかな成立を求めたい。

 水没地の地域振興はこれまで、ダム建設とセットで議論されてきた経緯がある。建設ありきの制度が流域住民を縛ってきた歴史を思えば、生活再建や地域振興をダムと切り離すのは当然だ。

 法案は、水没予定地を「特定地域」に指定し、都道府県が地元の市町村などと協議して振興計画を策定。国が財政支援するほか、買収用地を自治体に提供したり、買い戻しを希望する元の所有者に売却したりする内容だ。

 振興計画には住民の意見も反映。水没予定地の道路付け替え工事などを行うほか、移転希望者には土地や住宅取得のあっせんも行う。農業体験型施設の整備などを盛り込むことも可能となる。

 ダムをめぐり、地域が混乱した歴史は全国で共通する。ダムに頼らない地域振興という選択肢を、過疎に悩む住民から奪ってきた過去を、国は深く反省すべきだ。

 国の主導で着工した大型公共事業が地域を置き去りにしてきた歴史に、いまこそ幕を下ろさねばならない。

 法案の対象となるのは、政府が事業見直しを進めている国直轄など30のダムだ。うち中止が決定している熊本県の川辺川ダムなど3ダムについて、国の支援が具体的に適用される可能性がある。

 当初は都道府県が事業主体のダムは除外されていたが、「国が地域振興のため必要な支援に努める」との規定を盛り込んだ。当然だ。地域振興支援に国も地方もあるまい。

 これほどダム見直しがもつれた責任は、むろん民主党政権にある。「コンクリートから人へ」のスローガンは多くの国民の支持を得てもいた。

 しかし、関連法整備や根回しもないままのダム中止宣言という稚拙な手法が地域の反発を呼び、自治体の負担金支払いが続出。結局、ダム見直しは大きく後退したのだ。

 本来は、この振興法を先に成立させ、その上で見直しに臨むべきであった。これまでも指摘したが、支援は前提であり、後付けであってはならない。国は、やっとスタート台に立ったと認識すべきだ。

 現在、「検討の場」で進む見直しも、白紙に戻す必要がある。水没地の事情を分離した上で治水の在り方を再検討しなければならない。地域振興の内容が固まることでダム自体を純粋に評価できよう。

 ダム建設に縛られ堤防整備などが遅れ、住民の命を危険にさらし続ける愚を、これ以上続けてはならない。冷徹に河川整備の在り方を見直すことが政治の役割である。