八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

前田大臣の問責と八ッ場ダムに関する社説

 前田大臣の問責決議が可決されたことで、改めて八ッ場ダム問題と絡めて国公大臣の資質の問題が各紙の社説で取り上げられていますので転載します。

◆2012年4月19日 東京新聞社説
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012041902000138.html

 ー2閣僚問責提出 「適材適所」だったのかー

 野党が前田武志国土交通相と田中直紀防衛相の問責決議案を参院に提出した。問責で政権を揺さぶる国会戦術は問題なしとしないが今回はやむを得ない。閣僚としての資質が厳しく問われている。

 問責理由は、前田氏が岐阜県下呂市長選で特定候補支援を依頼する直筆署名文書を告示前に送付した問題、田中氏が北朝鮮のミサイル発射をめぐる対応の混乱や閣僚としての自覚、知識の欠如だ。

 問責決議に法的拘束力はなく、可決されても閣僚辞任の必要はないが、実際にはいずれ辞任を余儀なくされている。

 野田内閣でも昨年、一川保夫防衛相と山岡賢次消費者行政担当相の問責決議が可決され、両大臣は年明けの内閣改造で交代した。

 野党側は問責閣僚が辞任しなければ国会審議に応じないため、与党側が予算案や重要法案の審議を進めようとするなら、野党側の要求に応じざるを得ないからだ。

 問責決議可決は参院で野党が多数を占める「ねじれ国会」で多くなった。国会審議を「人質」に法的拘束力のない決議で政府与党を揺さぶるような国会戦術は、本来避けるべきではあろう。

 しかし、閣僚として不適格と認められるにもかかわらず、首相がかばい続けるのなら致し方ない。

 首相は改造内閣の布陣を「適材適所」と言ったが実際はどうか。

 前田氏が文書を送った先は国土交通省が所管する建設・旅館業関係者だ。前田氏は「確認せずに署名した」と釈明したが、公職選挙法が禁じる事前運動や公務員の地位利用に抵触する疑いがある。

 前田氏は旧建設省出身であり、八ッ場ダムや新名神など大型公共事業の建設再開にも前向きだ。

 民主党は政官業癒着の打破や大型公共事業の見直しが支持されて政権に就いたのではないか。それを忘れたかの閣僚起用や仕事ぶりにはそもそも納得がいかない。

 田中氏のしどろもどろの国会答弁も聞くに堪えない。安全保障問題の基本的知識を理解していなければまともな審議などできない。

 委員会を抜け出してコーヒーを飲んでいたこともある。職責放棄も平気な大臣に国を守る自衛隊の指揮を委ねられるのか。

 前田、田中両氏は参院民主党からの起用だ。適格性を欠きながらの入閣は、実力者の輿石東党幹事長の意向をくんだ順送り人事だったのか、と勘ぐりたくもなる。

 問責決議案提出を野党の横暴と決め付けない方がいい。閣僚人事の根幹が問われているのである。

◆2012年4月20日 北海道新聞社説
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/editorial/366506.html

 ー2閣僚問責 首相が責任認め更迭をー

 自民党など野党3党が前田武志国土交通相と田中直紀防衛相の問責決議案を参院に提出した。野党の賛成多数で可決する見通しだ。

 両氏とも閣僚として適任でないのは明らかだ。しかし野田佳彦首相は続投させる構えだ。自民党は全面的な審議拒否に入った。早期の事態収拾が必要である。

 野党が問責決議案を乱発して政治が停滞することには問題がある。とはいえ今回の混乱の最大の原因は首相の人選の誤りだ。任命権者の責任として両氏を更迭すべきだ。

 前田氏は岐阜県下呂市長選の告示前に特定候補者への支援を要請する文書を地元建設業協会などに送った。公職選挙法で禁止されている「事前運動」や公務員の地位利用に抵触すると疑われている。

 前田氏は文書に署名したことは認めたが、中身は確認しなかったという。閣僚の重責を担いながら、考えられない軽率さである。

 田中氏は北朝鮮のミサイル発射時の不手際や防衛政策などに関する知識不足が指摘された。国会答弁では事実誤認や言い間違いで迷走を繰り返しており、力不足は目に余る。

 問題なのは両氏とも就任当初から適格性が疑われていたことだ。

 旧建設省OBの前田氏は就任後すぐに群馬県の八ツ場ダムの建設再開に道筋をつけた。「中止」と明記した民主党マニフェスト(政権公約)を覆したにもかかわらず、その経緯や理由をきちんと説明しなかった。

 田中氏は今年1月、沖縄県の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設について「年内着工」に言及し、すぐに撤回した。移設計画を一方的に進めてきた政府への批判を十分理解していない発言だった。

 田中氏の前任は一川保夫氏だ。自分を「安全保障の素人」と言い、参院で問責決議案が可決した後に辞任した。その後任が防衛政策に疎い田中氏となったのは理解できない。

 首相はなぜこのような人選をしたのか。

 前田、田中両氏は参院議員で、入閣には参院の輿石東民主党幹事長の意向が働いたと言われている。首相は輿石氏に従うことで党内融和を優先し、閣僚としての能力評価を後回しにしたと考えざるを得ない。

 相次いで閣僚に問責決議が突きつけられる事態に対し、首相はどう責任を取るつもりなのか。両氏が適任だというなら理由を示すべきだが、とても見つかりそうにない。

 防衛相には在日米軍再編や北東アジアの安全保障といった重要課題がある。国交相には「コンクリートから人へ」という民主党の理念を政策で示す責任がある。閣僚交代による体制立て直しは待ったなしだ。

◆2012年4月20日 毎日新聞社説
http://mainichi.jp/opinion/news/20120422k0000m070072000c.html

 ー公共事業の復活 無駄遣いは許されないー

 民主党政権が掲げた「コンクリートから人へ」という看板が、大きく傾いている。

 政府与党は、八ッ場(やんば)ダムの建設再開を決めた昨年末以降、堰(せき)を切ったように大型公共事業の復活を決めている。東日本大震災後、「防災」が公共事業に求められる大切な機能のひとつになった。しかし、防災に名を借りて、無駄な公共事業を復活させることがあってはならな

 新東名高速道路の静岡県内区間約162キロが先日、開通した。東名より内陸を走るため津波の被害を受けにくいとされ、サービスエリアなど12カ所にヘリポートを備える。

 東西を結ぶ大動脈の慢性的な渋滞は、解消する必要がある。大地震の発生が予想される地域であり、防災機能の強化も喫緊の課題だ。優先順位の高い公共事業といえるだろう。

 問題なのは、費用対効果や優先順位に目をつぶったとしか思えない大型公共事業の復活だ。

 政府は、九州横断自動車道長崎大分線など高速道路6区間の4車線化再開や新名神高速道路の未着工2区間の建設凍結を解除した。

 4車線化は政権交代後の09年に凍結されていた。新名神の未着工区間は小泉政権下の03年に「抜本的見直し区間」とされていた。採算や必要性に疑問符が付いたからだ。政府は「東日本大震災を受けて防災強化も必要」という。交通量が少なく、説明がつかない道路に関し、苦しい言い訳をしているようにみえる。これでは国民の理解は得られまい。