「科学者の会」、国交大臣へ石木ダムについて要請

2012年5月12日

 一昨日、「ダム検証のあり方を問う科学者の会」が長崎県の石木ダムの建設継続を思いとどまるよう求める文書を前田国交大臣に提出しました。
 昨年、八ッ場ダムの建設について反対声明を出した科学者らによって発足した同会は、全国のダム事業を推進する仕掛けとなっている国交省の「有識者会議」のあり方に危機感を高めています。
 中でも、2月22日、4月26日と二回の審議でこれまでの他のダムと同様、石木ダム(長﨑)、安威川ダム(大阪)、内ケ谷ダム(岐阜)などの建設継続にお墨付きを与えた有識者会議は、各地の反対運動を無視し、一部委員の反対意見もねじふせて推進の結論を出したことから、大きな問題となっています。長崎県の石木ダム予定地では、数十年間、世代を引き継いで反対運動を続けてきた地権者らが有識者会議の傍聴を求めましたが、国交省は150人もの職員を動員して地権者や支援者を阻止し、大きな反発を招いています。 
 これらのダム事業について、国交省としての最終的な結論は、八ッ場ダムと同様、前田国交大臣が下すこととなっています。

 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」が公表した要請文と関連記事を転載します。
 
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 2012年5月10日
 国土交通大臣 前田武志 様

 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
 呼びかけ人
 今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
 川村晃生(慶応大学名誉教授)(代表)
 宇沢弘文(東京大学名誉教授)
 牛山積(早稲田大学名誉教授)
 大熊孝(新潟大学名誉教授)
 奥西一夫(京都大学名誉教授)
 関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
 冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
 西薗大実(群馬大学教授)
 原科幸彦(東京工業大学教授)
 湯浅欽史(元都立大学教授)
 賛同者 126人

 連絡先
 〒112-8585 東京都文京区小日向3-4-14 拓殖大学政経学部
 関良基 気付 「ダム検証のあり方を問う科学者の会」

 石木ダムについて継続の判断を下さないことを求める要請書

 去る4月26日の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」では長崎県の石木ダム、岐阜県の内ヶ谷ダム、大阪府の安威川ダム等について審議が行われました。その審議の結果に基づき、国土交通大臣がそれらのダムについて対応方針を近々決定することになっています。有識者会議の審議はいずれのダムについても事業者の検証結果をほとんどそのまま追認することが前提になっており、結論が先にある審議になっています。
 しかし、石木ダムの検証報告の審議では、有識者会議が検証結果についての判断基準としている「中間とりまとめの共通的な考え方」の条件をみたしていないとの指摘が有識者会議の委員から出されました。その結果、「石木ダムに関しては、事業に関して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する。」(議事要旨より)との付帯意見が付きました。
 この付帯意見はきわめて重要な意味を持っています。国土交通大臣はこの付帯意見の重みを踏まえて、石木ダムについては少なくとも「地元の方々の同意が得られるまで国土交通省の方針を保留する」という対応方針を示されることを要請いたします。
 以下にその論拠を詳しく申し上げます。

1 石木ダムの検証報告は有識者会議の判断基準をみたしていない
1-1 有識者会議の座長が述べる判断基準
 有識者会議の役割については毎回の会議で中川博次座長が次のように述べています。「当有識者会議は、国土交通省に対し、中間とりまとめで示した『共通的な考え方に沿って検討されたかどうか』について意見を述べることとしている。これらのことは当有識者会議の『中間とりまとめ』に明記している。」(議事要旨より)
 このように、座長が述べる判断基準とは「中間とりまとめの共通的な考え方に沿って検討されたかどうか」です。そのことの是非はさておき、これが唯一の判断基準となっています。

1-2 鈴木雅一委員による指摘
 4月26日の会議では、鈴木雅一委員が「石木ダムについて、評価軸『実現性』の「土地所有者等の協力の見通しはどうか」について記載されておらず、『中間とりまとめ』に沿っていないのではないか。」、「石木ダムについて、平成28年に完成という工程が示されているが、実現性を踏まえているか疑問だと思う。」(議事要旨より)と述べ、長崎県の石木ダム検証報告は上記の判断基準をみたしていないことを明確に指摘しました。
 石木ダムの水没予定地では13戸の世帯がダム絶対反対の姿勢を堅持しており、土地所有者の協力が得られる見通しは皆無ですが、県の検証報告にはそのことの記載がありません。また、あと4年で完成するとの工程は「実現性」という評価軸の点から矛盾があります。無用な長期化を避け、コストを重視するという観点からも、「実現性」は中間とりまとめの「共通的な考え方」において重要な評価軸です。
 このように重要な評価軸についての記述を欠いたまま、継続の検証結果が示されたことの矛盾が指摘されたのですから、少なくとも検証報告は差し戻しが必要です。

1-3 議事要旨の意図的な改ざん
 国土交通省ホームページに掲載された4月26日の有識者会議の議事要旨ではこの鈴木雅一委員の明確な指摘の後、「長崎県はそのような努力を重ねてきたのではないか。相手があり、様々な経緯がある中で、どのように表現するのか難しい問題である」と、まったく別の観点から発せられた別の委員の発言が付け加えられています。すなわち、鈴木委員の指摘事項を相殺するような編集がされており、国土交通省の官僚による意図的な改ざんであると考えられます。
 しかし、そのような改ざんがなされても、鈴木雅一委員の意見が正鵠を射たもので、長崎県の検証報告が有識者会議の判断基準をみたしていないことは動かしがたい事実です。

2 石木ダムの必要性の有無について
2-1有識者会議の本来の役割
 もとより、有識者会議の判断基準を「中間とりまとめの共通的な考え方に沿って検討されたかどうか」とするのは有識者会議の役割を矮小化したものであり、本来果たすべき役割はそのようなものではありません。「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の設置目的は、その「趣旨」に書かれているように「『できるだけダムによらない治水』への政策転換を進めるとの考えに基づき、今後の治水理念を構築し、提言する」ことにあります。
 この本来の役割を踏まえれば、有識者会議は石木ダムについても(当日審議された安威川ダム、内ケ谷ダムも含めてすべてのダムにおいて同様ですが)、ダムによらない方策を最大限に追求する観点から、事業者の検証報告を厳しく審査すべきてあり、有識者会議はその責務を放棄していると言わざるを得ません。

2-2 石木ダムに関する当会としての助言
 石木ダムの必要性の有無については当「科学者の会」代表も協力した「市民の手による石木ダムの検証結果」が国土交通大臣や長崎県に提出されており、国土交通大臣としてはこの報告を踏まえ、石木ダムは中止が妥当であるとの判断をされることを助言させていただきます。

(1) 利水
? 佐世保市水道の需要は減少し続けており、将来とも増加傾向に転じることはない。今後は人口の減少も拍車がかかって、将来の一日最大配水量が90,000?/日以下にとどまることは確実に予想される。
? 佐世保市水道の水源は安定水源77,000?/日の他に、渇水時にも利用できる水源が21,000?/日以上ある。
? したがって、佐世保市水道は将来とも水需給に不足はなく、石木ダムに水源を求める必要性は皆無である。

(2) 治水
? 石木ダムの建設では近年最大の洪水「1990年7月洪水」が再来した場合の浸水被害を防ぐことができない
? 川棚川流域の浸水を防止するために早急に取り組むべきことは次の3点である。

① 川棚川下流部の野口川等の支川氾濫、内水氾濫を防止する対策

② 河口近くの最下流部(川棚橋から河口までの約600mの区間)の堤防整備

③ 川棚川全体の河床の掘削
? したがって、石木ダムの建設は河川予算をいたずらに浪費し、本来進めるべき上記の治水対策をなおざりにしてしまうので、石木ダムの計画を直ちに中止する必要がある。

3 要請事項
 前田大臣におかれましては、少なくとも、有識者会議で指摘された「長崎県の検証報告には『実現性(土地所有者等の協力の見通し)」についての記載がない」ことを踏まえ、有識者会議の付帯意見に基づいて、「地元の方々の同意が得られるまで事業継続の方針を保留する」との判断を示されるべきです。そのことを強く要請いたします。
 そして、上記2を踏まえて、中止が妥当という判断を示すべきことを助言いたします。
 石木ダムは事業者の長崎県が土地収用の事業認定を九州地方整備局に申請しており、長崎県による事業継続の検証報告を国土交通大臣が追認すれば、九州地方整備局はそれを受けて事業認定を行い、その結果、13戸の反対地権者には強制収用がかけられることになります。絶対反対の意思を貫き続けている反対地権者の土地・住家がもし強制収用されることになれば、流血の事態にもなりかねません。そのような事態にならないように、前田大臣が賢明な判断をされることを切望いたします。  以上

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◆2012年5月11日 長崎新聞
http://www.nagasaki-np.co.jp/news/ishiki/2012/05/11092100.shtml

 ー「継続方針保留を」 科学者の会、国交相に要請書ー

 河川工学者らでつくる全国組織「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は10日、県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業について、「継続」の判断を下さないよう前田武志国交相に求める要請書を提出した。

 同会は今本博健京都大名誉教授(河川工学)ら11人が呼び掛け人となり、昨年発足。全国の学者126人が賛同し、国のダム検証を疑問視して活動している。

 事業を再検証する国の有識者会議は先月26日に開かれ、県が提出した「事業継続」の報告書を「地域の理解獲得に努力するよう希望する」との意見付きで了承。近く、前田国交相が対応方針を判断する見通し。

 要請書は、有識者会議で指摘された「県の報告には実現性(土地所有者等の協力の見通し)についての記載がない」ことを踏まえ、付帯意見に基づいて「地元の同意が得られるまで事業継続の方針を保留すると判断すべきだ」としている。

 また、「石木ダム建設絶対反対同盟」など反対5団体でつくる石木ダム建設反対連絡会も10日までに、前田国交相に対し、慎重な判断を求める要請書を送った。

◆2012年5月11日 朝日新聞長崎版 
http://mytown.asahi.com/nagasaki/news.php?k_id=43000001205110001

 ー石木ダム事業の継続判断保留をー

◆科学者ら国に要請書

 県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダムを再検証する国の有識者会議が、事業を継続すべきだとする県の方針を了承したことについて、

 ダム建設の見直しを求める「ダム検証のあり方を問う科学者の会」(共同代表=今本博健・京大名誉教授ら)は10日、国として事業継続の判断を下さないよう求める要請書を前田武志国土交通相に提出した。

 国の有識者会議は4月26日、地元の理解を得るよう求める意見を付けたうえで、県の事業継続方針を了承した。今後、国交相が事業への補助金交付について最終判断をする。

 これに対し、今本名誉教授ら126人でつくる科学者の会は、有識者会議が検証材料とした県の報告書に「土地所有者の協力の見通しについて記載がない」と指摘。

 実際には地元の地権者の間に反対が根強く、「協力を得られる見通しは皆無だ」として、地元の同意を得られるまで国交相は判断を保留すべきだと求めた。

◆2012年5月11日 毎日新聞長崎版 
http://mainichi.jp/area/nagasaki/news/20120511ddlk42010456000c.html

 ー石木ダム:慎重な最終判断、反対5団体が国交相に要望書 /長崎ー

 県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダム20+件を巡り、4月末の国の有識者会議で事業継続が了承されたことに対し、事業に反対する地権者や支援者など5団体は10日までに、慎重な最終判断を求める要望書を前田武志国土交通相に送った。

 要望書では、有識者会議に対し、地権者の反発があるのに県が16年度を完成目標としていることへの疑問点が一部委員から指摘されたにもかかわらず、

 市の過大な水需要について実質審議もせずに、県の報告書を「追認」しただけだと批判。近く最終判断する国交相に対し、議事録を熟読した上で慎重に判断することを求めた。

◆2012年5月15日 長崎放送
http://www.nbc-nagasaki.co.jp/news/nbcnews.php

 ー科学者ら 石木ダム事業中止要請ー

 石木ダム建設について、国の有識者会議が事業継続を了承したことを受け、ダム建設に反対する科学者のグループがこのほど国土交通大臣に対して事業の中止を求める要請書を送った。要請書を送ったのはダム問題などの専門家11人で作る科学者グループ。川棚町に計画されている石木ダム建設をめぐっては、地元13世帯の地権者が中心となって反対を続けているが、先月26日、ダム建設の是非を検証する国の有識者会議は大筋で事業の継続を了承した。これに対して科学者グループ側は、土地所有者の協力の見通しについて判断されないまま事業継続を了承したのはおかしいとして、地元の同意が得られるまで有識者会議としての結論を保留すべきとしている。その上で科学的にも石木ダムの必要性は皆無として、前田国土交通大臣に対して事業の中止を判断するよう求める要請書を送った。

◆2012年5月11日 読売新聞佐世保版 
http://www2.nbc-nagasaki.co.jp/houdou/index.php?itemid=13639

 ー石木ダムの建設判断保留を要請ー

 国交相らに反対団体

 国の方針で再検証の対象となっている石木ダム(川棚町)の建設問題で、事業継続に反対する専門家らでつくる「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は

 10日、前田国土交通相らに対し、反対地権者の同意が得られるまで事業継続の是非の判断を保留するよう求める要請書を提出した。

 石木ダムの再検証を巡っては、県が昨年7月、現計画に沿って事業を続ける方針を決定。

 国交相の諮問機関「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は4月26日の会合で、「地域の理解を得ること」との意見付で事業継続を了承し、国交相に判断が委ねられている。

 要請書では、有識者会議の会合で、①県の検証報告書に反対地権者らの協力を得る見通しの記載がなかった ②2016年度の完成を目指す現計画の実現性には疑問がある・・・との指摘があったことを挙げ、「(県に)検証報告の差し戻しが必要」と主張している。