八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

竹田市(大分県)の水害の本当の原因は・・・

2012年7月21日

 このところ各地で集中豪雨による災害が発生しており、特に九州北部の豪雨による被害が深刻な状況を呈しています。
 昨日は野田首相が被災地を訪問したニュースが流れました。また、ネット上では自民党の谷垣総裁が大分県の被災地を訪れ、「ダム建設済みの河川は氾濫していない。一方、民主党の事業仕分けによってダム建設が延期になっている場所が氾濫している」と指摘した、という報道が拡散されています。

◆Yahoo! ニュース 2012年7月17日 産経新聞
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120717-00000558-san-pol
 九州北部豪雨「民主党の仕分けで氾濫」 谷垣自民総裁

 谷垣総裁の竹田市訪問は、大分県選出の衛藤征士郎衆議院副議長の案内によるものだということです。
 
◆衛藤征士郎衆議院副議長のホームページより一部転載
 http://www.seishiro.jp/archives/3917.html
 藤村内閣官房長官に九州豪雨災害対策を要請

 私も谷垣総裁をご案内し竹田市山手地区被災現場や稲荷橋崩落現場等を視察したものです。首藤竹田市長を始めとする被災自治体の関係者や被災に遭われた皆様より切実な要望が寄せられたものです。竹田市ではこれまで何度も水害があり20数年前から防災・治水ダムの事業計画が始まりました。同市内をカーブしながら流れる稲葉川と玉来川ですが、2010年に完成を見ていた稲葉ダムにより稲葉川は1990年の大雨の4割増しの降水量があったのもかかわらず被害はほとんどありませんでした。まさにこのダムが保水能力機能を有しこの豪雨への備えを如何なく発揮してくれました。

 ~~~転載終わり~~~

 衛藤副議長の上記ホームページにも書かれているように、問題となっているのは、大分県竹田市における水害です。竹田市を流れる稲葉川と玉来(たまらい)川は、いずれも熊本県と大分県の県境を源流とする大野川の支流です。
(ちなみに、同じ大野川上流には、事業着手から30年以上たっても使い物にならない水漏れダムとして有名な九州農政局の大蘇ダムがあり、受益者とされる大分県と竹田市は大蘇ダムの漏水対策の追加負担を求められています。)

 谷垣氏が「ダム建設済みの河川は氾濫していない」と言っているダムは、稲葉川上流の稲葉ダムのことで、「民主党の事業仕分けによってダム建設が延期になっている」とは、玉来川上流に計画されている玉来ダムを指します。

 民主党の事業仕分けでは、ダム事業は取り上げられませんでしたので、谷垣総裁の発言は事実誤認から始まっています。

 民主党政権では全国のダム事業を見直すこととなり、大分県の玉来ダム(国の補助金で造る補助ダム)も検証対象となりましたが、事業主体が検証を行い、有識者会議が事業主体の検証結果を追認する流れの中で、事業主体が継続方針のダムは、ほとんど全て「継続」の結論となっています。

★ 全国のダム事業の一覧表
https://yamba-net.org/wp/modules/dam/index.php?content_id=1

 大分県の玉来ダムは2009年の政権交代当時、「調査・地元説明」の段階でしたが、事業者(大分県)が継続の方針を打ち出し、2011年10月に国交省が事業の継続を決定しました。

 玉来ダムは1982年、1990年の大水害をきっかけに、1991年に竹田水害緊急治水ダム建設事業として、稲葉ダムとともに大分県が計画しました。稲葉ダムは2003年度に本体工事に着手し、2010年に竣工しています。一方、玉来ダムは、もともと2017年度の完成予定でしたから、自公政権が続いたとしても、ダムは現時点では未完成だったことになります。

 自民党の働きかけを受けて、政府は現地に調査団を派遣し、玉来ダムの早期建設に前向きと報じられています。

◆2012年7月15日 毎日新聞大分版
http://mainichi.jp/area/oita/news/20120715ddlk44040227000c.html
九州豪雨:豊肥大水害 政府調査団、玉来ダムに前向き 「ペース上げ迅速対応」 

 -----

 今回の水害については、詳細な現地調査による原因究明が必要です。まだ調査が進行していない段階で、拙速な結論は控えなければなりませんが、想定内の洪水にしか対処できないダムが建設されさえすれば安全という発想は、もはや過去のものです。完成までに長期間を要するダム建設に期待するのでは、危険な状態を放置することにもなりかねません。
 大分県は玉来ダムの今年度の事業概要として、「水文調査、地質調査、環境調査、詳細設計、補償調査等を実施する」としています。

 http://www.pref.oita.jp/uploaded/attachment/150187.pdf
 平成24年度事業概要書 3ページ

 昨年9月に公表された玉来ダムの検証資料では、玉来ダム建設案は総合評価の結果、既に完了した河川改修とセットで最良と判定されていますが、「技術的な観点からの実現性」として「複雑な地形、地質のため施工は難しいが稲葉ダムの実績があり可能である」と書かれており、工事の難航が予想されます(国交省資料12ページ)。
 また、パブリックコメントでは、「玉来ダム建設反対」、「河川に堆積した土砂の早急な撤去」、「森林整備」などの意見が出されていますが(国交省資料15ページ)、なぜか大分県の資料では賛成意見のみ掲載されています。
 http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/tisuinoarikata/dai18kai/dai18kai_ref4-1.pdf
「玉来ダム建設事業の検証に係る検討概要資料」(国交省資料)

http://www.pref.oita.jp/uploaded/life/118241_142021_misc.pdf
「県民意見募集で寄せられたご意見と県の考え方について」(大分県資料)

 今回の稲葉ダムの洪水調節についての大分県の発表資料を見ると、新たな事実が浮かび上がってきます。
http://www.pref.oita.jp/uploaded/life/258831_281421_misc.pdf

 上記資料によれば、稲葉ダムの最大流入量は437?/秒であり、平成2年洪水を想定して策定された治水計画の想定最大流入量540?/秒を下回っています。したがって、今回の洪水が平成2年洪水を上回ったものであるかどうかは定かではありません。

 http://www.pref.oita.lg.jp/uploaded/attachment/9232.pdf
 大野川水系上流圏域河川整備計画 15ページの実績流量図に540?/秒の数字

 また、この資料を見ると、今回の洪水では稲葉ダム下流の稲葉川の水位はダムの効果がなくても、堤防の天端から約2mも下にあったことがわかります。稲葉川の堤防の余裕高は1mですから、稲葉ダムがなくとも、十分な余裕をもって流れていたことになります。

 玉来川は稲葉川と並行して流れる大野川の支川ですから、雨の降り方に大きな差がない可能性が高く、それにもかかわらず、玉来川の下流で大きな氾濫被害が起きたのは、別の要因によることが考えられます。

 地元の方のブログによれば、竹田市における今回の水害は、玉来川の本流ではなく、旧河道の堤防が決壊したことによって起こったということです。

 http://taketantuu.blog119.fc2.com/blog-entry-486.html
 竹田市の豪雨災害その7(検証) 2012/07/13

 以下のブログにも、現地の被災状況が写真と共に詳しくレポートされており、被災地直下の玉来川と大野川(本流)との合流点にある竹田ダム(九州電力の発電用ダム)の影響で玉来川の下流部の水位が上がったのではないだろうか、としています。河床を埋め尽くす大量の杉の流木の写真もあります。
 このあたりでは玉来川の水面勾配が緩くなっていますので、竹田ダムの上流端付近にある橋に大量の流木が引っかかり、水位を大きく上昇させたのではないでしょうか。

 http://dtikanta.dtiblog.com/blog-date-20120716.html
 竹田玉来の水害 2012/07/16

 竹田ダムは、もともと「魚住の滝」があったところで、地元では魚住堰堤と呼ばれているそうです。総貯水容量75万?、高さが10.2mしかない竹田ダムは、正式にはダムとはいえず、堰に分類されます。(堤高15メートル以上がダム、15メートル以下は堰。) 

 http://k-kato.blog.ocn.ne.jp/kato_tabe/2012/02/post_7e4a.html
 大分県竹田市 竹田ダム(魚住堰堤)

 玉来川の氾濫を防ぐためには、玉来ダムの建設よりむしろ、洪水流下の妨げになっている下流の竹田ダムの撤去が有効である可能性があります。
 竹田ダムのほか、今回、氾濫を起こした旧河川の問題、上流域の森林整備、土砂災害防止なども合わせて、総合的な治水対策を検討することが必要と思われます。