八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

9/25の利根川・江戸川有識者会議

2012年9月26日

 昨日、「利根川・江戸川河川整備計画」策定のための有識者会議が4年4カ月ぶりに東京都内で開かれました。
 利根川水系河川整備計画の策定は、八ッ場ダム本体着工の条件とされています。今回の有識者会議は実質的に八ッ場ダム本体着工の是非を問うものです。
 民主党の川内博史衆院議員らの働きかけにより、今回の会議では新たに大熊孝新潟大学名誉教授(河川工学)、関良基拓殖大准教授(森林政策学)が委員に加わりました。お二人は、八ッ場ダム問題に取り組んできた学者です。大熊、関氏は共にダム検証のあり方を問う科学者の会のメンバーであり、大熊氏は八ッ場あしたの会の代表世話人でもあります。
 その他の委員については、こちらのブログに肩書と背景の情報があります。
 http://seisaku-essay.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-f7e3.html
  
 会議の冒頭、大熊委員より、今回の会議の資料が事前に渡されていないとの問題提起がありました。「会議の場で資料を渡されたのでは、資料を読み込んできちんと意見を述べることはできない」と。これに対して国交省は、今週日曜日(23日)の夕方に資料を送ったと応えました。
 国交省はなぜ、休日の日曜の夕方になって資料を送ったのでしょう? 日曜の夕方に発送された資料は、今日の会議に出席するために、新潟から東京へ昨日のうちに移動した大熊氏の手元には届きませんでした。東京在住の委員らには届いたようですが、前日に届いたのでは資料を読み込む時間はありません。常識的に考えれば、忙しい有識者から意見を聴くのであれば、事務方は遅くとも二週間以上前に資料を発送するべきです。国交省は意図的なサボタージュをカモフラージュするために、日曜の夕方というギリギリの期日に資料を発送したのでしょうか。
 
 今回の有識者会議は、こうした事務方の非常識な対応だけでなく、幾つもの本質的な問題を抱えています。
 国交省の説明によれば、有識者会議は「関東地方整備局長が学識者の意見を聴く場として設置する」ものであり、「審議等により何らかの決定を行うものではない」ということです。決定権はあくまで関東地方整備局長にあり、有識者会議での議論がどのように河川整備計画の策定に反映されるかは曖昧です。

 また、八ッ場ダム本体着工の条件とされたのは「利根川水系河川整備計画の策定」でしたが、今回の有識者会議は、「利根川・江戸川有識者会議」です。「利根川水系」には利根川の支流の渡良瀬川、小貝川などが含まれますが、利根川・江戸川だけですと、利根川本川のみを対象とすることになります。利根川水系の河川整備計画を策定するのであれば、渡良瀬川など利根川支流の有識者会議も招集しなければならず、実際、4年前までの有識者会議では、これら支流の有識者会議も同時に招集されました。
 利根川本川の治水安全度だけを先に決め、これをもって八ッ場ダム本体着工の条件をクリアしたとするのであれば、官房長官裁定を歪曲したことになります。
 今後、有識者会議でこれらの問題が議論されることが予想されます。

 河川整備計画の策定は、1997年の河川法の改正によって定められたものです。1990年代、長良川河口堰の運動は、河口堰の建設によって終息しましたが、全国的な注目を集めた運動の結果、国民によるムダな公共事業批判に耐えられなくなった旧建設省は、河川法の一部改正に踏み切らざるをえませんでした。改正河川法の趣旨は、国による河川の独占を改め、流域住民、学識者の意見を河川整備計画に反映させることでした。
 現在、利根川の河川整備計画をめぐって、流域住民が国交省を批判している問題の本質は、1997年の河川法改正の形骸化であり、国家権力による河川の独占に他なりません。利根川の有識者会議に新たに加わった大熊氏、関氏は、国民に背を向け、科学を無視する河川行政に警鐘を鳴らしてきました。

 本日の利根川有識者会議では、事務局を務める国交省が、座長を宮村忠氏と最初から決めていました。宮村氏(関東学院大名誉教授)は、国交省の広報で八ッ場ダムの必要性を訴えてきた御用学者として知られた人物です。昨秋の八ッ場ダム検証の過程で招集された有識者会議では、八ッ場ダムの継続に反対した委員に対して、宮村座長が発言を遮って議論を封じ、国交省の方針は妥当との決定を下しました。
 今回の有識者会議では、こうした宮村座長の采配に疑問が呈され、国交省の抵抗にもかかわらず、座長が改めて委員の互選で選ばれることになりました。候補は宮村氏と大熊氏でした。大熊氏に挙手したのは、関良基拓大准教授(森林政策学)、鷲谷いずみ東大大学院教授(保全生態学)、野呂法夫東京新聞論説委員の3名。今回、会議に出席したのは14名で、大熊氏に挙手した3名と候補者2名を除く9名が宮村氏を支持するかと思われましたが、蓋を開けてみると、宮村氏に挙手したのはわずか4名でした。

 選挙に先立って、候補者の所信表明がありました。
 ジャーナリストのまさのあつこさんがこの有識者会議をリアルに再現したブログを書いています。候補者の所信表明についても詳しく伝えていますので、是非こちらをご覧ください。
 http://seisaku-essay.cocolog-nifty.com/blog/2012/09/post-63ea.html

 宮村氏に挙手したのは、以下の委員でした。

 清水義彦 群馬大学教授(流域環境学)
 小池俊雄 東京大学大学院教授(地球水循環)
 小瀧潔  千葉県水産総合研究センター内水面水産研究所長
 虫明功臣 東京大学名誉教授(河川工学)

 所信表明でなんの意思表示もなかった宮村氏に挙手したこれらの委員は、宮村氏と一心同体、つまり国交省の方針を追認することを最初から表明したようなものでした。さすがにそんなみっともないことはできないと、いずれにも挙手しなかった委員は考えたのでしょう。
 それでも4対3ということで、宮村氏が引き続き座長を務めることになりました。
 その後、会議の司会はようやく、事務方の国交省から宮村氏へと移りましたが、宮村氏の発言は少なく、わずかに最後の方で、会議を時間内に終わらセるよう国交省から言われていると述べた程度でした。

 各委員による発言は、国交省のホームページに今後掲載される予定の議事録で確認する必要がありますが、各委員の発言をおおまかにお伝えします。

○鷲谷いずみ委員(東京大学大学院教授・生態保全学)ー
 有識者会議は長期間の休止を経て再開されたが、会議の継続性、今回の会議の意味についての説明をしていただきたい。今回の有識者会議では、治水安全度について審議することになっているが、生態保全学が専門の私は、このような会議で何を求められているのかがわからない。治水安全度だけを審議するのであれば、河川工学者の皆さんでやっていただいたらよいのではないかと思う。四年前までの有識者会議では、利根川の河川整備計画は環境という側面からも検討するということであったので、委員をお引き受けしたのだが、今回は違うのか。
 本来、”安全”とは多義的なものであり、様々な分野の英知を集めて本当の安全を追求すべきだと考える。「治水安全度」という数値だけを追求することに疑問を感じる。

○小池俊雄委員(東京大学教授・河川工学)-
 日本学術会議で丁寧に熟議を重ね、最終的に国交省が出した基本高水の数値はおおむね妥当との結論を出した。(注:日本学術会議・基本高水分科会座長)

○関良基委員(拓殖大学准教授・森林政策学)-
 利根川の今後20~30年の計画を立てるに当たっては、わが国の社会状況、財政状況などすべてを考慮して策定する必要がある。治水安全度だけを取り出す今回の手法はおかしい。
 日本学術会議は「緑のダム」を否定しているが、森林の成長によって川への流出量が13~14%異なることは、最近の論文でも報告されており、科学的に検証されている。また、学術会議の基本高水分科会では、八ッ場ダムう予定地上流の吾妻川の地質条件を無視した計算が行われている。雨水の浸透性の違いによって、流出量も変わり、洪水のピーク流量もその影響を受ける。禿げ山が多かったカスリーン台風当時(昭和22年)と森林が成長した現在では状況が異なる。
 国交省が基本高水の数値を導き出すために採用している総合確率法は、右辺と左辺の単位が異なり、科学的な検証に耐えるものではない。

○大熊孝委員(新潟大学名誉教授。河川工学)-
 利根川の現在の治水計画は、目標とする数値があまりに高く、実際には実現不可能だ。利根川をはじめ、全国の治水計画が抱える根本的な矛盾を解決しなければならないと訴えてきた。新潟の近年の水害では、堤防の決壊により寝たきりの老人が亡くなるという悲惨なことがおきた。これまでの河川工学のあり方に根本的な反省を迫るものだ。
 ダムは川が本来自然の中で果たしている役割を阻害するものだ。戦後、社会の役に立つダムは多数造られてきたが、自然のことを考えれば、できることならダムは造らない方がよい。造るとすれば、造らせていただくということだ。
 八ッ場ダムについていえば、堆砂の問題が解決していない。我が国には堆砂問題に対応したダムも造られるようになっている。八ッ場ダムに関しては、堆砂の問題が解決しない限り、私はダム建設に反対だ。

○虫明功臣委員(東京大学名誉教授・河川工学)ー
 現役から退いて年数がたっているので、詳しいことは現役の小池俊雄先生にお任せしたい。「治水安全度」だけ取り出すのはどうか、というご意見が出されたが、まず「治水安全度」を決め、その後に環境などについても議論すればよい。安全性は高ければ高いほどよく、目標を高く掲げるのはよいことだ。実現性があるかどうかということで決めるべきではない。

○野呂法夫委員(東京新聞論説委員)-
 次回の有識者会議は10月4日に開催されるというお話が、私のところにはこれまで日程の話は来ていなかった。10月4日は来週だが、その日に開かれるのか? 一週間前に連絡が来ないのはどうしてなのか? 今後の有識者会議のスケジュールを明らかにしていただきたい。日程は少なくとも2週間前には知らせてほしい。

 —–
 有識者会議の次回日程については、野呂委員以外にも明らかにしてほしいとの意見がありましたが、次回日程が示されないまま閉会となりました。
 今後の未定はいまだ公表されていませんが、次回日程は10月4日となる可能性が高いと考えられます。
 今回の有識者会議では、一般傍聴席から国交省による強引な議事進行に対する非難の声がたびたび挙がり、国交省の担当者は、「議事進行の妨げになる場合は、退出していただく」と威嚇し続けました。

 関連記事を転載します。

◆日本経済新聞 2012年9月26日 
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO46535230V20C12A9L60000/
 
 -八ツ場ダム、会議再開も着工遠く 河川計画メド立たずー

 国土交通省関東地方整備局は25日、利根川水系の河川計画を策定するための有識者会議を4年4カ月ぶりに開いた。同計画の策定は、昨年末に政府が事業継続を決めた八ツ場ダム(群馬県)の本体工事に着工する際に必要な条件だ。ただ会議は再開したが「計画策定の(時期の)メドはない」(羽田雄一郎国交相)状態で、年度内の工事着工は難しくなっている。

 八ツ場ダムの本体工事に着工するには、利根川水系の河川計画を策定する必要がある。従来は有識者会議で計画を議論してきたが、2009年の政権交代で民主党がダムの中止方針を決めたため、中断されていた。

 会議では整備局が「利根川や江戸川の氾濫域は人口や資産が集積しており、ほかより高い安全水準が適切だ」と発言。今後20~30年間で目指す安全水準は、70~80年に1度起こりうる洪水を想定するとの考えを示した。

 これに対し委員からは「4年ぶりなのに経緯の説明が足りない」など整備局の議事進行に対する不満が相次いだ。ダム建設に批判的な委員が新たに加わり「計画自体が問題」との批判も目立った。まずは委員間で共通認識を持つことから始めることで会議は終了した。

 八ツ場ダムを巡っては昨年12月に政府が中止方針から一転して建設の再開を決め、12年度予算に本体関連工事費18億円を計上した。だが河川計画が策定できていないため本体工事に入っていない。

◆上毛新聞 2012年9月26日

 -河川整備計画策定へ 八ッ場ダム本体着工条件 4年ぶり協議再開ー

 国土交通省関東地方整備局は25日、八ッ場ダム(長野原町)の本体着工の条件となっている利根川水系の河川整備計画の策定に向けた有識者会議を都内で開き、今後20~30年の河川整備で安全に流すことを目指す洪水量(目標流量)を、70~80年に一度の洪水規模に当たる毎秒1万71千㌧(基準点・伊勢崎市八斗島町)としたことを報告した。これに対し会議メンバーから賛否の声が挙がった。
 木々は4年4カ月ぶりの開催で、学識経験者ら21人で構成。ダム建設に反対する大熊孝新潟大名誉教授、関良基拓殖大准教授を含め新たに3人が加わった。
 整備局は目標流量について、利根川流域は人口や資産が集中していることなどから、他の河川より高い安全基準とすることが適切だと説明。
 これに対し、関氏は「ダムありきの議論」、「(目標流量野算出で)森林が果たす治水能力を考慮していない」と指摘した。
 一方、虫明功臣・東大名誉教授は東日本大震災の津波に言及し「想定外は許されない。むしろ高い目標とするべきだ」と賛同した。
 整備局は会議の意見を参考に河川整備計画の策定を進める。会議の位置づけについて「意見を聞くためで何かを決める場ではない」と説明している。
 会議を傍聴した水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表は「国はダムを造ることしか頭にない。会議は通過儀礼に過ぎない」と批判した。
 長野原町の高山欣也町長は「4年以上もブランクがあり、待たされる立場からすると迷惑な話。これ以上、本体予算執行の邪魔にならないでほしい」と話した。
 整備局は06年12月から08年5月までに有識者会議を計4回開催したが、09年9月には八ッ場ダム建設中止をマニフェストに掲げた民主党政権が発足。策定作業は中断していた。

◆NHK 2012年9月25日 16時0分
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120925/k10015270711000.html

 -八ッ場ダム検討 有識者会議ー

 群馬県の八ッ場ダムの本体工事の着工の条件となる、利根川水系の河川整備計画を検討するための国の有識者会議が4年4か月ぶりに開かれ、ダムの建設に批判的な2人の専門家が、新たに委員として出席しました。

 八ッ場ダムを巡っては、政府が去年12月、先の衆議院選挙の政権公約を撤回して建設継続の方針を決めた一方、本体工事の着工については利根川水系の河川整備計画を策定し、想定される洪水の規模などを検証することを条件としています。

 25日は、計画の策定に向けた国土交通省関東地方整備局の有識者会議が、平成20年以来、4年4か月ぶりに開かれました。

 はじめに国土交通省の担当者が、計画では70年から80年に1回程度起きる洪水の流量を想定するという見解を説明しました。

 会議にはダム建設に批判的な専門家2人も新たに委員として出席し、「森林によって洪水の流量が減るという研究結果があるのに十分考慮されていないなど、国の出す数字には明らかに問題がある」などの批判が出されました。

 一方でほかの委員からは「災害に想定外は許されず、今掲げている目標の流量は決して高すぎるものではない」といった意見が出ました。

 国土交通省は、会議の議論を踏まえ、計画の策定を進めることにしていて、事実上、この会議でダムの必要性が認められれば、本体工事が着工されることになります。

 ダムの建設に批判的な新潟大学の大熊孝名誉教授は「国が出した数字をうのみにすることはできない。ダム建設ありきではない議論が必要だ」と話していました。

 座長を務める関東学院大学の宮村忠名誉教授は「委員どうしの共通認識がない状態なので、まず認識を共有したうえで議論をしなければならない」と話しています。

◆毎日新聞 2012年09月25日 12時46分
http://mainichi.jp/select/news/20120925k0000e010184000c.html

 -八ッ場ダム:本体着工へ有識者会議 反対派を加えー

 八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)本体工事着工の条件である利根川水系の河川整備計画の策定に向け、国土交通省関東地方整備局は25日午前、計画について専門家の意見を聞く「利根川・江戸川有識者会議」を4年4カ月ぶりに開いた。

 民主党内の反対派がダムに批判的な有識者を議論の場に加えるよう求めて人選が難航していたが、ダム反対派を含む3人を新たに加えて開催を決めた。政府のダム建設再開方針から9カ月、本体工事着工に向けた動きを本格化させる。

 有識者会議は従来の18人の委員に、大熊孝・新潟大名誉教授▽小池俊雄・東京大大学院教授▽関良基・拓殖大准教授??の3人が加わった。

 この日は冒頭、関東地整が宮村忠・関東学院大名誉教授を座長とする旨の説明をしたところ、一部委員から異論が出され、多数決で宮村氏を選任した。

 また、関東地整は、利根川の治水対策の根拠となる「目標流量」を毎秒1万7000立方メートルとする案を提示、パブリックコメント結果を説明したが、「ダムありきの議論だ」との意見も出た。今後、有識者会議で具体的な治水対策や計画案の全体像を議論する。

◆朝日新聞群馬版 2012年9月26日
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581209260001

 -八ツ場有識者会議 意見表明30分ー

 八ツ場ダム本体着工の最終条件の一つ「利根川・江戸川河川整備計画」の策定をめぐり、国土交通省関東地方整備局は25日、4年4カ月ぶりとなる有識者会議(座長=宮村忠・関東学院大名誉教授、委員21人)を都内で開いた。整備局は早期策定をめざすが、本格論議は次回以降に持ち越し。新たに加わった見直し派の委員らが会議の運営方法から異議を唱えた。

 「4年4カ月ぶりというのに、ここに来て初めて大量の資料が配られる。これでは十分な発言ができない」。冒頭、大熊孝・新潟大名誉教授(河川工学)が切り出した。新たに委員に就いた2人の見直し派の1人だが、21人の委員の中では少数派だ。

 これに歩調を合わせたのは「過去の議論について共通の了解が必要」とした鷲谷いづみ・東大大学院教授(保全生態学)ら3人。見直し派の求めで座長も2人の候補以外で互選し直したが、12人は意思を示さず、4人対3人で宮村氏を選ぶまでに30分ほどを費やした。

 その後、整備局が約1時間、会議中断後の経緯を説明。利根川の洪水対策で基準点(伊勢崎市八斗島)の目標流量を毎秒1万7千トンとすることに意見を求めた。ただ、委員の発言時間は約30分に限られた。

 国交省の再検証に関わった日本学術会議分科会の委員長を務めた小池俊雄・東大大学院教授(地球環境科学)が「あらゆる角度から科学的に検証し、妥当と判断した」と報告。見直し派からも関良基・拓殖大准教授(森林政策学)が「国交省や学術会議は森林の保水力を無視しており、想定流量が過大」と主張した。しかし、大半の委員は発言できず、本格的な論議にはならなかった。

 整備局は今後のスケジュールを「未定」とするが、一部委員には10月中に3~4回の会合の日程を示している。有識者会議は「意見を聴く場」との位置づけで、建設再開の結論が覆える可能性は低いとみられる。

 一方、ダム見直し派の34市民団体でつくる「利根川流域市民委員会」は同日、「整備局の意向に沿った委員が多数を占め、偏った構成になっている」とし、委員や座長の選び直しや住民意見の反映などを求める要請書を整備局に出した。(小林誠一)

◆読売新聞群馬版 2012年9月26日
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20120925-OYT8T01774.htm

 -八ッ場有識者会議を再開ー

  八ッ場ダム(長野原町)の本体工事着工に向けて、国土交通省関東地方整備局は25日、東京都内で、着工に必要な利根川水系の河川整備計画を策定するための有識者会議を4年4か月ぶりに開いた。国交省側は、治水対策を進めるにあたり、想定する洪水規模を示す指標「目標流量」を毎秒1万7000立方メートルとする案を提示したが、座長の選任などを巡って議論は冒頭から紛糾。本格的な議論は、次回以降に持ち越された。

 政府は昨年12月、ダム建設継続を決め、今年度予算に本体関連工事費18億円を計上した一方、反対派に配慮し、着工条件として〈1〉利根川水系の河川整備計画の策定〈2〉住民の生活再建法案の国会提出――を提示した。同法案は3月に提出されたため、河川整備計画の策定に向けて専門家から意見を聞く有識者会議の開催に焦点が集まっていた。

 25日に開かれた会合には、「メンバーがダム推進派に偏っている」との声を受け、ダム批判派とされる大熊孝・新潟大名誉教授や、関良基・拓殖大准教授ら3人が新たにメンバーに加わった。

 だが冒頭、事務局である国交省が、宮村忠・関東学院大名誉教授を引き続き座長とすると説明したところ、大熊氏ら一部委員から「座長を再度選出すべきだ」との意見が噴出。多数決で宮村氏が再任されたものの、議論は約20分間紛糾した。

 また国交省が、70~80年に1度の洪水にも対応できるよう、伊勢崎市八斗島の基準点での目標流量を毎秒1万7000立方メートルとする案を示したことに、関委員が「目標流量を最初に決めること自体、意味のあることではない。ダムありきの議論だ」と批判。別の委員が「災害に想定外は許されず、目標流量は決して高すぎるものではない」と主張したが、全員の意見を聞くことができず、本格的な議論は次回に持ち越された。

 宮村座長は会合後、「委員同士の共通認識がなく、議論が出来ない状態だった」と振り返った。

 政府が建設継続を決めてから9か月が過ぎての会議開催に、大沢知事は「ここに来てようやく具体的な動きが始まった。本体工事着手の判断を速やかに下すべきだ」と話した。ただ、本格的な議論に入れなかったことについて、長野原町のダム水没予定地にある老舗旅館「山木館」の樋田洋二さん(65)は「地元は疲弊している。グズグズしている場合じゃない」と憤った。

◆東京新聞群馬版 2012年9月26日
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20120926/CK2012092602000139.html  

-運営に疑問相次ぐ 八ッ場ダム有識者会議「委員の共通認識ない」ー

 八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の本体着工の条件である「利根川・江戸川河川整備計画」の策定に向け、二十五日に都内で四年四カ月ぶりに開催された有識者会議。委員から会議のあり方に疑問が相次ぎ、議論は深まらなかった。  
 ダム建設に反対している大熊孝・新潟大名誉教授(河川工学)、関良基・拓殖大准教授(森林政策)の二人と小池俊雄・東京大大学院教授(地球水循環)が今回から加わり、委員は計二十一人に。このうち十四人が出席した。  
 委員四人が「四年ぶりの開催。座長をもう一度決めては」と提案したり、一部委員に会議資料が事前に届いていなかったことが判明するなど、事務局を務める国土交通省関東地方整備局の会議運営に疑義が相次いだ。  
 同局は河川整備計画で定める治水対策の根拠を「毎秒一万七千立方メートルが流れる洪水」とする案を説明。これを小池氏は「妥当な算定」と評価したが、関氏は「ダムありきの議論だ」と述べ、対立した。  
 他方、鷲谷いづみ・東京大大学院教授(保全生態学)は「議論を治水安全に限定している。本来、安全は多元的だ」と議論の前提に疑問を呈した。座長の宮村忠・関東学院大名誉教授(河川工学)も「委員同士の共通認識がない」と指摘した。  
 会議は予定通り二時間で打ち切られた。次回日程は未定。大熊氏は「最低五~六時間は必要だし、開催日の告知ももっと事前に行うべきだ」と注文した。 (伊藤弘喜)  

 -知事「早期本体着工を」-  

 大沢正明知事は二十五日、「今後、気候変動などで渇水が起きやすくなる。一都四県で国に働きかけていきたい」と、八ッ場ダム本体の早期着工について考えを述べた。 
 県議会一般質問で萩原渉議員(自民)の質問に答えた。 県によると、ダム建設予定地で三百四十戸の水没が予定され、百三十四戸が移転を希望し、そのうち六十五戸が移転済みという。 
 川原湯地区から移転する打越地区では今夏、二軒の旅館が建設着手。上湯原地区では用地取得が難航。本体着工されないと、生活設計ができない不安定な状態が続くという。 
 大沢知事は「建設継続方針が示されて九カ月たっても、着工の動きが見えない。地元の陳周を思うと、いたたまれない」と話した。(池田一成)

 ~~~転載終わり~~~  

 八ッ場ダムは利根川下流域の治水・利水を目的としています。ダム本体着工の是非が問われる中、ダム建設を望む声がダムの恩恵を受ける筈の下流域の住民から全くなく、関係各都県知事や地元の一部住民からしか聞かれないことは、八ッ場ダム事業の受益者が誰であるかを如実に示しています。  

 最後の東京新聞の記事では、代替地への移転を「百三十四戸が希望し、そのうち六十五戸が移転済み」とあります。百三十四戸という移転希望世帯数は、2005年に国土交通省がダム予定地住民を対象に実施した意向調査によって把握された戸数です。その後、代替地が多くの問題を抱えていることから、転出した住民が多いのですが、国交省は移転希望世帯数の変更を明らかにしていません。 当初の希望戸数が変わっていないのであれば、65戸をのぞく69戸が今後、代替地に移転することになりますが、昨年12月末現在の国交省の資料によれば、水没予定地の残戸戸数は24世帯しかありません。代替地への移転世帯数は、最終的に当初の134世帯より大幅に減少すると考えられます。 

 また、この記事には、「八ッ場ダムが本体着工されないと、生活設計できない不安定な状態が続くという」と書かれていますが、ダム本体工事予定地は川原湯温泉の代替地の間近です。現在も、長年のダム事業によって川原湯温泉は衰退の一途をたどっていますが、ダムの本体工事が始まれば、さらに事態は深刻となるでしょう。