ダムカレーの記事(朝日新聞)に抗議文

 このところ、ダムカレー、ダムカードなど、ダムを宣伝する情報がマスコミやネットを賑わせています。
 ダムに対しては多くの批判の声があるにもかかわらず、今も全国各地でダム事業が強行されています。
 かつては環境への負荷や事業費の肥大化などのダム問題を積極的に取り上げていた新聞も、最近はダム事業者の喜びそうな記事を載せています。さる16日の朝日新聞には、大阪府が建設中の安威川ダムに見立てたカレーなどについての記事が掲載されました。
 あまりに問題意識の希薄な記事ですので、当会の会員が新聞社に記者宛ての抗議のメールを送信しました。

 二通の抗議文と当該記事を転載します。

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2018年1月18日
朝日新聞社 記者 荻原千明 殿

記事「決壊させたい衝動…ダムカレーが熱い 造形に心血注ぐ」への抗議

 朝日新聞1月16日の上記の記事を読み、愕然としました。
 第一に、「決壊させたい衝動」と書くのは悪ふざけが過ぎます。ダムが決壊すれば、凄まじい被害をもたらすことは過去のダム決壊事故の例を見れば明らかです。たとえば、1959年に起きたフランスのマルパッセダムの決壊では500人以上が死亡しました。日本でも洪水時にダムが満水近くになれば、ダム下流の住民に避難指示が出ることはよくあることであり、ダム決壊は大変恐ろしいことです。それにもかかわらず、ダムカレーの話とはいえ、ダム決壊を遊びの話として書くのは新聞記者としてあるまじきことです。

 第二に、この記事で取り上げた安威川ダムは巨額の公費を浪費するだけの無意味なダムです。
 「大阪府の安威川ダムは無意味で愚かなダム事業」(水源開発問題全国連絡会ホームページ)をお読みください。
 そのことをカモフラージュするために、ダム事業者である大阪府の肝いりで、安威川ダムカレーが宣伝されているにもかかわらず、その宣伝に乗って、あなたが安威川ダム礼賛につながるような記事を書くのは良識を欠いており、「社会の木鐸」としての新聞の役割を放棄しているといわざるをえません。

 安威川ダムの予定地は、活断層とされる馬場断層が近くを通っているため、ダムサイトの地質が非常に脆弱であり、完成すれば、あなたが遊びで書いた「決壊」が実際に起きることが強く心配されるダムです。安威川ダムは大阪の市街地の頭上に建設されるものですので、もしダムが崩壊すれば凄まじい被害をもたらすことになります。

 そのように重大な事実に何も触れずに、あなたが気楽にダムカレーの話に終始する記事を書くことに強い憤りを覚えます。

 全国各地で必要性がなく、人々の生活と自然に多大な影響を与えるダム建設が強権的に推進されています。長崎県では必要性が皆無の石木ダムの建設のため、水没予定地住民13戸の家屋と土地を奪う強制収用が進められようとしています。

 各地で進められているダム建設が今の時代に本当に必要なのか、ダム建設によってどのような問題が引き起こされてきているのかをきちんと取材して、読者に伝えることが、新聞が本来果たす役割であるはずです。

 あなたが今後、新聞の役割をあらためて自覚して、ダム等の問題に関してまっとうな記事を書くことを強く求めます。
                                  以上
                   嶋津暉之
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 荻原千明さんのダムカレーについての記事を読み、愕然としました。朝日の新聞記者さんなら、世人に警告を発し教え導くという意味の「社会の木鐸」となれと言われて、現在に至ることでしょうに。そばに里山や緑を配したという安威川ダムカレーなるものをみて「決壊させたい衝動」にかられたと言われる感覚は、驚きを通り越して哀しいものです。

 世界中の古今東西の記事をすべて読んでほしいというのは無理だとしても、たとえば山形県最上小国川で地域の宝であるアユ踊る清流を残そうとしてダムに抗い、やむなく自死を選んだ漁協組合長の記事とか、今、長崎県佐世保市川棚町で、13世帯の村人が「ほたるの舞う清流と田畑と緑と自分たちの当たり前の生活を守りたい」一心で夏でも冬でも毎日工事をさせないために体を張って座り込みをし、強制収用に反対して訴訟に訴えているのに、逆にスラップ訴訟にあっている現実など、いくらでも探せるはずです。映画に興味があれば、ダムが決壊して大変な死傷者を出した「バイオントダム」とか、アメリカでダムを壊すことによって清流を取り戻したという「ダムネーション」など、貴重な記録もあります。  

 カレーのお皿に里山や緑のサラダを配置しているといいますが、実際は国交省がその緑や里山をブルトーザで破壊して、水あまりの今、新たなダムを造ろうとしているのですよ。私たちはイデオロギーではなく、そこに住む一人一人の生活を押しつぶして不要と言われるダムを造ることに反対します。これは、生存権・人格権・幸福権の問題なのです。ダムカレーなる面白い商売が流行れば、ダムに反対する人たちに逆風が吹き、水の底に沈められる人たちは傷つくことでしょう。ダムカードを集めて、ダムカレーを決壊させながら食べることを勧めるのではなく、祖先の代からずっと慈しんできた故郷を破壊し、子孫の世代に大借金をして、不要なコンクリートの塊を造ろうというその愚かさを世の中に知らせることこそが、新聞の役割だと思います。

 今後の取り組みに期待いたします。どうかがんばって下さい。  佐藤光子
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◆2018年1月16日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASKDM020KKDLPTIL03P.html?_requesturl=arti
ー決壊させたい衝動…ダムカレーが熱い 造形に心血注ぐー

 ご飯を皿に高く盛り、カレーをダムのようにせき止める「ダムカレー」が人気だ。各店は、ご飯の形や具材の配置などに趣向を凝らす。ダムの建設は遅れているのにカレーは続々と誕生しているケースも。国民的料理とコンクリートの構造物の意外な相性とは。

特集:カレー大好き!
 ダムの堤体に見立てたご飯が、丸皿の真ん中に横たわる。それにマッシュポテトが連なり、豆を2日がかりで煮込んだスープベースのカレーをせき止める。

 大阪府茨木市元町のオランダカフェ「CAF●〈●はeに鋭アクセント付き〉 LeKKeR(カフェ レカ)」の安威川ダムカレーだ。オーナーの藤田由美子さん(48)が昨年8月、水曜限定メニューとして登場させた。「現場をご覧になってから来られる方に似てると言われます」

【動画】安威川ダムカレー

 記者もいただくことに。真っ先にご飯を崩して「ダム」を決壊させたい衝動を覚えたが、カレーが流れる先の「サラダを食べてから」などと、頭の中をめぐらせた。普段のカレーとは違う味わい方が楽しめた。

 ただ、ダム自体は、まだ市北部で建設中だ。完成すれば万博記念公園・太陽の塔を超える高さ(76・5メートル)になる堤体もない。1967年の北摂豪雨災害を機に構想が持ち上がったが、計画が見直され、2014年本体工事が着手された。進捗(しんちょく)率は26%(昨年度末時点)にとどまる。

 市によると、安威川ダムカレーの第1号は15年、建設地から約4キロの市忍頂寺スポーツ公園・竜王山荘に登場した。市や観光協会が「地域活性化につながれば」と企画。周辺の山の緑を表現したり、できるだけ地元食材を使ったり、といった決めごとを守ると、安威川ダムカレーの称号を冠し、市のホームページなどでPRされる。

 市内7カ所の飲食店で出されており、市には「ぜひうちの店でも」との声が寄せられているという。ダム本体の完成予定は21年度末。担当者は「完成の頃には日本で一番ダムカレーの種類が多くなっていたらうれしい」。

ため池型の狭山池でも

狭山池ダムカレーの盛り付け

 「日本書紀」などにも登場する狭山池(大阪府大阪狭山市)のダムカレーも人気だ。カフェ「フラワー狭山池店」(同市半田6丁目)で、ため池型の「狭山池ダムカレー」が食べられる。貯水部分を模した型にご飯を寄せて堤を築く。型を抜いた跡にルーを注げばできあがり。

全国にダムカレーは何種類あるのでしょう。記事後半では「日本ダムカレー協会」なるネットサイトの主宰に人気の理由を聞きました。

 飛鳥時代の616年に築造された狭山池は、1988年から2002年の大改修でダムになった。だが、市によると、特に若い世代になじみが薄く、ダムだと知らない人も多い。築造1400年の16年、市は知名度アップを図ろうとダムにほど近い帝塚山学院大に開発を依頼。試行錯誤の末、市公認の「元祖狭山池ダムカレー」が完成した。

 地図を基に3Dプリンターを駆使し、池を忠実に再現した型も制作。フラワーではこの型を使っており、元祖レシピをベースに商品化したカレーが味わえる。

全国に130種類以上
 ネットサイト「日本ダムカレー協会」を主宰する宮島咲さん(45)によると、SNSや情報網で確認しただけでも、「ダムカレー」は全国で130種類以上ある。広まり始めたという09年の6種類から急増。長野県大町市商工労政課によると、黒部ダムから約5キロの扇沢駅大食堂(現・扇沢レストハウス)で昭和40年代初頭には提供されていた「アーチカレー」が、一般販売の始まりとみられる。

 ダムとは、水をせき止める構造物。ダムカレーには、カレーをせき止める「ご飯」の造形に心血を注がれたものが多い。ダムカレーの原点を宮島さんは、「皿の上でダムと同じ力学が成り立っていること」と言う。堤体としてのご飯があり、岩盤に見立てられる皿に『カレー圧(水圧)』を分散させ、ルーがせき止められる構造のことだ。

 典型例が、群馬県みなかみ町のダムカレー。皿やご飯の型を指定して構造はダムの形式ごとに統一。水が流れる部分には盛りつけないなど、実物に近づけるための「おきて」がある。一方、最近では、構造よりもカレーの料理としての魅力を重視して盛りつけられたものも各地で目立っているという。(荻原千明)