「西日本の豪雨災害は、代々の自民党政権による人災」(嘉田由紀子・前滋賀県知事)

 ジャーナリストの横田一さんが西日本の豪雨にともなう水害について、、滋賀県知事として河川の問題に真正面から取り組んだ嘉田由紀子さん、ダムに偏重する河川行政に警鐘を鳴らす今本博健京大名誉教授(河川工学)にインタビューした記事です。

◆2018年7月17日 ハーバー・ビジネス・オンライン
https://hbol.jp/170630
ー「西日本の豪雨災害は、代々の自民党政権による人災」河川政策の専門家、嘉田由紀子・前滋賀県知事が指摘ー

 西日本を襲った歴史的な豪雨災害。今回、被害が大きくなった大きな要因に「代々の自民党政権による人災がある」と一刀両断にするのは、河川政策の専門家で日本初の流域治水条例をつくった嘉田由紀子・前滋賀県知事。倉敷市真備地区が堤防決壊で水没、死者50人の被害を出した原因についてこう話す。
「水没した真備地区はもともと、ハザードマップ(被害予測地図)で2~5mの浸水が予想された危険区域でした。『これだけ危ないですよ』という具合に、浸水リスクを住民に十分に知らせ、避難を促すワークショップを開催するなど、避難行動を“自分ごと化”することができていなかったのでは。また、行政として最も防がないといけない堤防決壊への対策、堤防補強も不十分だったのではないでしょうか」

 ハザードマップが物語る浸水リスクを受け止めて対策を打たないといけなかったのだが、それが不十分であったというわけだ。諸悪の根源は、「ダム建設を最優先にして堤防補強を後回しにしてきた、歴代自民党政権の河川政策にある」と嘉田氏は指摘する。

「滋賀県知事になる頃から『矢板やコンクリートで周りを囲む、アーマーレビー工法で鎧型堤防にして補強すべき』と国に提案してきたのですが、歴代の自民党政権は『鎧型堤防は当てにならない。堤防補強よりもダム建設だ』と言ってきたのです。

 この河川政策が、今回の豪雨災害でも大きな被害をもたらしました。倉敷市真備地区では高梁川の支流の小田川などで堤防が決壊しています。本来は、この地区の堤防補強が最優先課題だったのです」

早く、費用も少なく整備できる堤防補強を後回しにし、ダム建設を優先させた

――マスコミには「本流と支流の河川の合流地点での逆流が原因」という専門家のコメントが出ています。

嘉田氏:「本流(高梁川)の水量が多いから、支流(小田川)に逆流する」というのは河川工学の教科書に載っている基本のことです。当然、逆流による浸水リスクは予測できたのだから、決壊回避するための堤防補強が緊急課題だったのです。「合流地点を下流に移す計画が予定されていた」との報道もありましたが、その間の豪雨災害のリスクを無視するものといえます。

 水没危険区域ではとにかく堤防強化をして、水が溢れても破堤しないようにすることが不可欠です。堤防の決壊とオーバーフロー(越水)では被害が全然違います。オーバーフローをして堤防の反対側がえぐられて決壊するので、矢板やコンクリートで堤防を鎧のように補強しておけば、越水はしても決壊は防げる。

 補強費用もダム建設に比べたら遥かに早く、安価で整備できます。だからダム建設よりも堤防補強を優先すべきと言い続けてきたのです。

――なぜ歴代自民党政権は優先順位逆転の河川政策を止めず、堤防補強を後回しにしてきたのですか。
嘉田氏:ダム建設をめぐる政官業のトライアングル、自民党国会議員と国交官僚とゼネコンの癒着の産物です。ダム建設で儲かるゼネコン、献金を受ける自民党、そして巨額の予算を確保できる国交官僚の利害が一致、優先順位が逆転した河川政策が未だに続いているのです。「ダムさえできれば、住民は枕を高くして寝ていれる」という“ダム安全神話”を国交省はばらまいてきたのです。

 その結果、限られた河川予算が有効に使われず、浸水危険区域の堤防補強が後回しになってしまった。今こそ、治水効果が限定的な不要不急のダム建設を凍結、緊急に進めるべき堤防補強予算を増やすべきです。

3年前の鬼怒川水害の時点で、堤防強化が急務なことはわかっていた
  ちなみに国交省の緊急点検で強化が必要と判定された約2200kmのうち、現段階で工事が終了したのは半分にも満たない。
 石井国交大臣こそ、堤防決壊で多数の死者を出した倉敷市真備地区の豪雨災害を直視、公明党が連立を組む歴代自民党政権が続けて来た河川政策を反省・謝罪した上で、方針転換をする責務があるはずだ。しかし実際には、国民の生命財産が脅かされている現状から目を背け、米国益実現となるカジノ実施法案の審議に6時間も張りついていたのだ。

 3年前にも同じ水害が起きていた。2015年9月10日に堤防が決壊、2人が死亡、30人が重軽傷を負った鬼怒川水害のことだ。「10年に1回程度の大雨に耐えられない」と判断され、堤防強化が予定されていたものの、その工事を終える前に破堤してしまったのだ。

 代替策がなかったわけではない。堤防を安価で強化する方法はいくつかあるからだ。堤防の真ん中に「ソイルセメント(土とセメントが混じったもの)」を入れる工法や、真ん中に鋼矢板を入れる工法もある。そうすると、1m当たり50万~100万円でできる。

 こうした方法を導入すれば、危ない堤防を安価で早く強化することができた。国民の生命財産を守ることからすれば、国交省は安価で迅速な堤防強化策を認めるべきなのに、その姿勢を改めようとしなかったのだ。

『ダムが国を滅ぼす』の著者で河川工学の専門家、今本博健・京都大学名誉教授もこう話す。

「ダム建設よりも堤防強化の方が重要であることを実証したのが鬼怒川の水害でした。早急にやるべき堤防強化の優先順位を低くして、ダムやスーパー堤防を優先したということです。国交省の弛みとしか言いようがない。長期間にわたって国交省の河川官僚が予算獲得できる巨大事業にこだわったためといえます」

 今本氏は、京都大学の土木の後輩である太田昭宏国交大臣(当時)にも助言しようとしたことがあった。「ダム偏重の河川行政に対する問題意識もなかった。太田大臣に『河川行政を改めてほしい』と思い、支持団体幹部を通じて面談を申し込んだが、拒否されました」(今本氏)。

 2012年12月に第2次安倍政権が発足して以来、国交大臣は2代連続で公明党が独占している。初代が今本氏との面談を拒否した太田大臣(2012年12月~2015年10月)、2代目がカジノ実施法案も担当する石井大臣(2015年10月~現在)である。歴代自民党政権の河川政策を主に引き継いでいるのが公明党の大臣であり、国民の生命と財産をおろそかにいている現況を作っているといえる。

<取材・文・撮影/横田一>
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数face