〈西日本豪雨〉倉敷市の水害と高梁川上流・河本ダムの「異常放水」

 西日本豪雨災害について、これまでもダム問題を取り上げてきたジャーナリストの横田一さんのレポート記事をネット上にアップされました。
 滋賀県知事として、治水の問題に真正面から取り組んだ嘉田由紀子さん、全国のダム問題に取り組む市民運動のリーダーである嶋津暉之さんの意見を紹介しながら、今回の水害の根本的な原因を追究しています。

◆2018年7月25日 ハーバー・ビジネス・オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180725-00171254-hbolz-soci
ー死者50人を出した倉敷市真備地区の被害の要因!? 高梁川上流・河本ダムの「異常放水」ー

◆河本ダムの「異常放水」疑惑について「石井国交大臣からは、検証の指示はない」(ダム管理事務所)

  堤防決壊で街全体が水没、死者50人という犠牲が出た倉敷市真備地区の西日本豪雨災害が、二重三重の意味で「歴代自民党政権の人災」(嘉田由紀子・前滋賀県知事のコメント)である可能性が出てきた。ダム優先で堤防補強を後回しにしたことに加えて、上流に建設したダムからの「異常放水」が堤防決壊を招いたとの疑いも強まっているからだ。

 ダム問題に長年取り組む「水源開発問題全国連絡会(水源連)」の嶋津暉之共同代表は、こう話す。

「西日本豪雨災害では、上流のダムからの放水で急激に下流の河川の水位が上がってしまい、被害を大きくした可能性がある。これも検証しないとなりません」

 疑いの眼差しが向けられたのは、倉敷市から北へ約40km、高梁川上流にある「河本ダム」(新見市)。このダムを管理する「岡山県高梁川統合管理事務所」(新見市)を訪ねて「石井(啓一)国交大臣から『ダムからの放水が被害の原因だったのかを検証するように』という指示はなかったのですか」と聞くと、担当の森本光信・総統括参事からは意外なコメントが返ってきた。

「石井大臣から『検証するように』との指示はありません」

◆ダムが放水量を上げるごとに水位が上がったことを示す「三本線」

 3連休(7月14~16日)に広島・岡山・愛媛3県を視察した石井大臣は17日の会見で、愛媛県肱川上流の野村ダムや鹿野川ダムの放水について、検証の場を設けることを発表した。

 下流域の洪水被害が出た肘川上流にある両ダムの放水操作について、専門家がチェックすることになったのだ。それなのに、同じような「ダム放水起因説」が浮上した岡山県高梁川の河本ダムについては、なぜか検証対象外だったのだ。

 しかも複数のメデイアが、河本ダムからの異常放水と倉敷市真備町地区の堤防決壊のタイミングが一致したことを報じていた。

「西日本豪雨に見るダムの限界 放水急増平時の75倍 倉敷・真備『バックウォーター』に影響か」(7月15日付の『東京新聞』)や「もう放水はしないでくれ 水没の街にみたダム行政の“限界”(西日本豪雨)」(7月16日放送のFNN「報道プライムサンデー」)などだ。

 いずれも、上流に河本ダムがある「高梁川(本流)」と堤防が決壊した「小田川(支流)」の合流地点で「バックウォーター(逆流)現象)が起きたことに注目。「ダムからの異常放水で高梁川が増水(水位上昇)、流量の少ない小田川をせき止めて合流地点で逆流が発生、堤防決壊を招いた」というメカニズムを推定していた。

「報道プライムサンデー」では、河本ダムの異常放水時に高梁川流域にいた取材スタッフが“想定外の増水の恐怖”を現場ルポした後、後日、避難したホテルの窓に三本線が残っていたことも紹介。ダムの放水量を上げるごとに高梁川の氾濫が激しくなり、その水位が三本線として残った可能性を示唆した後、京都大学名誉教授(河川工学)の今本博健氏がこう解説をした。

「河本ダムはそれなりの働きはしているのです。だけど被害を食い止めることができなかった、これがダムの限界です。国交省は、ともかくダムを優先して造るということで、強い堤防を造ることを後回しにしてきているのです」

 これは二重の意味での「人災」なのではないか。人命を守る“最終防衛線”の堤防補強がダム優先で後回しになったうえ、ダムからの異常放水が脆弱な堤防決壊を招いたとの疑いが出てくる。

◆ダムが有効なのは上流域の大雨だけで、下流域には無力

 嘉田由紀子・前滋賀県知事は呆れていた。「日本は水害常襲国家でありながら、きちんとした対策を打たずに真備地区で50人の方が亡くなった。『日本は文明国なのか』と言いたくなります」。

 嶋津氏も、「鬼怒川上流の『湯西川ダム訴訟』で警告を発していたことが、実際に起きてしまった。堤防が決壊した2015年9月の鬼怒川水害のことです」と、聞く耳を持ってこなかった国交省の対応に怒りを露にしていた。

 鬼怒川水系の上流には川俣ダム・川治ダム・五十里ダム・湯西川ダムがあり、その一つである湯西川ダム建設の必要性をめぐって裁判が起こされており、2008年に嶋津氏は証言台に立ち、「巨額の河川予算が投じられている湯西川ダムを中止、その予算で鬼怒川下流部の河道整備をすみやかに進めるべき」と訴えていた。しかし、裁判所も国交省もダム建設を見直すことはなかった。

「ダムが有効なのは上流域に大雨が降った場合で、下流域の大雨には無力。それなのに国は膨大な予算をかけて、鬼怒川水系の湯西川ダムをはじめ全国各地で整備を続けている。鬼怒川水害は、効果が乏しくて高価で時間もかかるダムを優先した河川行政が招いた“人災”といえます」(嶋津氏)

 歴代自民党政権と二人三脚でダム優先の河川政策を続けてきた国交省こそ、西日本豪雨災害の要因を作ったのではないか。岡山県でも鬼怒川水系と同じように、治水効果が限定的なダムが次々と建設されている。先の「高梁川ダム統合管理事務所」のホームページを見ると、「河本ダム」以外にも「高瀬川ダム」「千屋ダム」「三室川ダム」などのダムがあることが紹介されていた。

◆自治体土木部は国交省の“植民地状態”になっている

「地方自治体の土木部は国交省の“植民地状態”になっています。そのため、全国各地で同じようにダム建設が進んできたのです」と知事時代の実体験を語るのは嘉田前知事。

「滋賀県の土木部もそうでしたが、各県の土木部長は国交省からの出向官僚の“指定席”。私が知事の時代は、ダムありきの河川政策から転換しようとする方針に出向官僚が抵抗したため、生え抜きの県職員に代わってもらいました。これは全国的に異例のことで、かなりたいへんなことでした」(嘉田前知事)。

※嘉田県政の継承を掲げて2014年7月の滋賀県知事選に出馬、自公推薦候補を破って当選した三日月大造・現滋賀県知事(今年6月の県知事選で再選)は、土木部長ポストを国交官僚に再び譲り渡し、河川政策もダム建設優先の方向に舵を切った。「4年後の知事選で自民党と“手打ち”をして対立候補擁立を回避するため、ダムありきの河川政策を受け入れた」と見られている。

 愛媛県も状況は同じだ。愛媛県大洲市で山鳥坂ダム建設に反対してきた有友正本氏はこう話す。

「いま山鳥坂ダム建設が進んでいますが、もっと早期に安価でできる治水対策を進めるべきでした。川底の土砂をさらって移動する『河床の掘削』『堤防強化』『宅地の嵩上げ(高台化)』をやるべきだ、と市や県や国交省に要請しても動いてこなかった。まさに“人災”です」

 西日本豪雨災害で甚大な被害を出した今こそ「ダム放水起因説」を徹底的に検証したうえで、歴代自民党政権と国交省が二人三脚で続けてきた「ダム建設優先で堤防強化が後回し」の河川政策を転換すべきではないか。

 それと同時に「人災の可能性が高い」という結論が出れば、倉敷市真備地区の被害に対しては国家賠償対象となるのは当然だ。再発防止と被災者救済の意味でも、“ダム放水起因説”の徹底的な検証、ひいては戦後の河川政策の総括は不可欠だ。

<取材・文・撮影/横田一>

ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

—転載終わり—

 上記の記事の中で、鬼怒川の水害について、『湯西川ダム訴訟』で警告を発していた・・・とありますが、これは八ッ場ダム訴訟の誤りです。八ッ場ダム訴訟では、原告は利根川水系全体の治水計画に問題があるとして、原告の関東各県の住民は利根川水系の各地の堤防を丹念に調査しました。こうした調査に基づいて、原告代表の嶋津暉之さんは2008年、利根川支流の鬼怒川下流部の堤防が脆弱で、水害の危険性があるとする意見書を提出しました。詳細はこちらのページ(「2015年9月利根川支流・鬼怒川の水害」)をご覧ください。