八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

ラオスのダム決壊に関する報道

 新聞、テレビで報じられているように、ラオス南東部で建設中の水力発電ダム(セーピヤン・セーナムノイダム)で今月23日、決壊事故が発生し、多数の死者・行方不明者が出ています。
 ダムは完成間際だったとされており、決壊したのはメインのダムではなく、五つあるサドルダム((貯水池に水が溜まるよう山の鞍部に作られる補助的なダム)の一つで、50億立方メートルの水が流れ出たとのことです。日本で最大の徳山ダムが6.6億立方メートル、八ッ場ダムは1億750万立方メートルの貯水容量ですから、流れ出た水の量がどれほど多いか、想像するのが難しいほどです。
 事故を知らせる第一報に続き、他国への売電を目的に水力発電を推し進め、「東南アジアのバッテリー」を目指してきたラオスの政策、ダム建設の技術的な問題、メコン川流域全体の問題を指摘する記事等が発信されています。

 メコン川流域のダム建設等による開発の問題に取組んできたNGOメコン・ウオッチのホームページ
 http://www.mekongwatch.org/

 メコン・ウオッチのフェイスブック
 https://www.facebook.com/mekongwatch
 7月26日「決壊したラオスのセーピヤン・セーナムノイダムから流れ出た水は、メコンの支流セコン川に流れ込み、カンボジアに到達しました。ここでも洪水の危険が迫っています。」
 

◆2018年7月24日 朝鮮日報日本語版
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2018/07/24/2018072402971.html
ーラオスのダム決壊でSK建設社長が現場に出動、救助活動指揮へー

行方不明者数百名、6600人超が被災
 ラオス南東部で23日に起きた建設中の水力発電ダムの決壊事故で、ダム建設に参加している韓国のSK建設は現在、アン・ジェヒョン社長がダム建設現場に出動し、対策委員会を立ち上げて救助活動の計画を立てていることが分かった。アン社長が救助活動を陣頭指揮する予定だという。事故では多数の死者・数百名の行方不明者が出ているが、この中に韓国人が含まれているかどうかについては確認中だという。

 24日(現在時間)、AFPなどの外信によると、ラオス南東部のアタプー州で23日、水力発電用のダムが決壊し、50億立方メートルの水が流れ出て六つの村が洪水に襲われ、1300世帯、約6600人が被災した。

 決壊したダムはセピアン・セナムノイ電力会社(PNPC)が建設しているもので、PNPCは2012年3月に韓国のSK建設・韓国西部発電などが設立した合弁企業だ。ダムの進ちょく率は92%を超えており、来年2月から商業運転に入る予定だった。

 SK建設の関係者は「ダムは昨年、工期より5か月前倒しで工事を終え、1年早く貯水し、試運転に入っていた」「今回決壊したダムは、メーンのダムではなく、五つの補助ダムのうちの一つ」と説明した。

 SK建設の関係者によると、ラオスでは現在、雨が続いており、補助ダムの一つがある地域の川が氾濫してダムの上部が一部崩れ、下流の村で浸水被害が起きたという。また、ラオス政府との協力により周辺住民はすでに避難を終えているという。  キム・ミンギ記者

◆2018年7月25日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201807/CK2018072502000136.html
ーラオスでダム決壊 建設中、数百人が不明にー

【バンコク=山上隆之】ラオス国営通信によると、南東部アッタプー県で二十三日夜、建設中の水力発電用ダムが決壊し、数百人が行方不明になった。六千六百人以上が家を失い、複数の死者も出たもようだ。

 現場周辺では当時、大雨が降っており、ダムの決壊に伴い、川沿いの少なくとも五つの村で洪水が発生したという。地元メディアは、家の屋根がわずかな部分を残して水没し、住民らが屋根の上で救出を待つ様子を伝えている。

 現地からの情報では今月十三日、ダムにひび割れなどの問題が発生。二十三日になって周辺住民に対し避難勧告が出されていた。

 現場はベトナムやカンボジアとの国境近く。ダムはタイや韓国の企業などが出資する合弁会社が二〇一三年二月に建設を開始。今年後半から来年にかけて完成させ、運用開始を目指していた。

◆2018年7月25日 BBC
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180725-44948159-bbc-int
ーラオスのダム決壊、数十人死亡 6600人以上が家失うー

ラオス南東部のダム決壊による洪水で、24日までに少なくとも20人が死亡し、100人以上が行方不明となっている。

アッタプー県にある水力発電用のダムが一部損傷しているのが22日夜に見つかり、近隣住民は避難したが、ダムは23日夜に決壊し、鉄砲水が6つの村を襲った。

ラオス国営通信によると、6600人以上が住居を失ったという。

現地の写真から、軒下まで泥水に使った家屋の屋根に、住民が避難している様子がうかがえる。

地元当局は、住民をボートで救出する活動を続けている。さらに、近隣自治体や政府に、衣類や水、食料、医薬品などの支援物資の提供を呼びかけている。

国営メディアによると、トンルン・シースリット首相は予定されていた会議を延期し、アッタプー県サーンサイ郡の被災地を訪れた。

アッタプー県の当局者はAFP通信に対し、洪水被災地は電話が使えない状態になっていると話した。

アッタプー県はラオス最南端の県で、カンボジアやベトナムと国境を接する。農業や林業が産業の中心で、水力発電による電力も主要な輸出品のひとつ。

決壊したダムとは決壊したダムは、ラオス、タイ、韓国の企業が参加するセピアン・セナムノイ水力発電所の一部。発電所は2つの主ダムと5つのサドルダム(副ダム)からなり、決壊したのは「サドルダムD」と呼ばれるもの。

建設事業に参加する韓国のSKエンジニアリング・アンド・コンストラクションは、22日に最初に亀裂を発見したと明らかにした。

・22日午後9時(日本時間同11時)— 「サドルダムD」に部分的な破損を発見。当局が通報を受け、近隣住民の避難開始。修理チームがダムに向かうが、豪雨のため作業難航。豪雨で複数の道路も被害を受けている。
・23日午前3時(日本時間同5時)— 亀裂の入ったサドルダムDの水位を下げるため、主ダム(セナムノイ・ダム)の1つから水を放出。
・23日正午(日本時間同午後2時) — ダムの破損状態が悪化する危険の知らせを受け、州政府は下流の住民にも避難を命令。
・23日午後6時(日本時間同8時)— ダムの亀裂拡大を確認。
・24日午前1時半(日本時間同3時半)までに— サドルダム近くの村が冠水。午前9時半までに、7つの村が冠水。

発電所事業に参加するタイのラチャブリ発電ホールディングは、「相次ぐ暴風雨」によって「大量の水が発電所の貯水池に流れ込んだ」ため、ダムに「亀裂が入った」と発表した。大量増水の結果、水が下流へ流出し、約5キロ離れたセピアン川の流域にも流れ込んだという。

「サドルダムD」は幅8メートル、長さ770メートル、高さ16メートルで、近くの貯水池に水を迂回させるよう設計されていたという。

ラチャブリ発電ホールディングとSKエンジニアリング・アンド・コンストラクションは共に、避難・救助活動に参加していると明らかにした。

地元メディアなどによると、ラオス政府は、メコン川と支流を活用した水力発電事業を強力に推進し、「アジアのバッテリー」を目指している。2017年には46カ所の水力発電所を稼動させ、54カ所が新設中だ。2020年までには、54の送電線と16カ所の変電所を増設する方針。

ラオスはすでに水力発電による電力の3分の2を輸出しており、電力輸出が総輸出量の約3割を占める。

(英語記事 Laos dam collapse: Many feared dead as floods hit villages)

◆2018年7月25日 YAHOO! ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/sunainaoko/20180725-00090685/
ー「東南アジアのバッテリー」の大誤算、ラオスでダム決壊:「売電」収入による経済成長とその“限界”ー

 近隣諸国への売電収入を見込み水力発電所の開発を推し進め、「東南アジアのバッテリー」を目指してきたラオス。しかし、この成長モデルの問い直しが迫られている。というのも、ラオス南部アッタプー県サナムサイ郡で7月23日、建設中のセピアン・セナムノイ水力発電所のダムが決壊し、周辺地域に被害をもたらしているのだ。

◆ダム決壊で死者、多数が行方不明
 ラオス英字紙ビエンチャンタイムズ電子版(7月25日付)や英BBC(7月24日付)などによると、ダムの決壊により近隣の複数の村に大量の水が流れ込み、これまでに数人の死亡が確認された上、多数が行方不明になっている。BBCはダム決壊により、6600人超の住民が家を失ったと伝えている。

 セピアン・セナムノイ水力発電所は、ラオス、タイ、韓国の企業が出資する合弁会社セピアン・セナムノイ電力会社(Xe Pian-Xe Namnoy Power Company 、PNPC)が、2013年から建設を進めてきた。

 PNPCには、ラオス政府傘下の持ち株会社ラオ・ホールディング・ステート・エンタープライズ(LHSE)が26%、タイのラトチャブリ・エレクトリシティー・ジェネレーティング・ホールディング(RATCH)が25%、韓国電力公社(KEPCO)の子会社である韓国西部発電(KOWEPO)が25%、韓国のSKエンジニアリング・アンド・コンストラクション(SK E&C)が24%、それぞれ出資する。

 同水力発電所の総工費は10億2000万米ドル(約1134億9540万米ドル)に上り、BOT(建設、運営、譲渡)方式で建設が進められてきた。これまでに90%近くの工事が完了しており、2019年に稼働する見込みだった。完成すれば、出力は410メガワット(MW)となり、年間1860ギガワット時(GWh)の電力を供給する能力を持つ見通しだったという。

 ダムの決壊を受け、RATCHは7月24日、ホームページに声明を出し、ダム決壊は「継続する暴風雨により大量の水がダムに流れこんだことで引き起された」と説明する。また、「PNPCと関係当局は、緊急対策に基づき、安全を確保するために周辺住民の一時避難所への避難を図っている。また、事態の解決を迅速に実現するため、ダム決壊に関する緊急評価を実施しているところだ」としている。

◆売電収入を期待しダム建設を拡大
 ラオスは東南アジア諸国連合(ASEAN)の加盟国。地理的にはインドシナ半島に位置し、中国、ベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマーに国境を接する。ASEANの中で唯一の内陸国だ。

 ASEANは全体で計6億4739万人の巨大な人口を誇り、インドネシア(人口約2億6399万人)、フィリピン(同1億492万人)、ベトナム(同9554万人)といった人口大国を抱える。他方、ラオスの人口は686万人にとどまり、シンガポール(同561万人)、ブルネイ(同43万人)に並ぶASEANの人口小国となっている。(日本外務省アジア大洋州局地域政策参事官室「目で見るASEAN−ASEAN経済統計基礎資料−」、2018年7月)

 内陸に位置することで、貿易をはじめとする経済活動に必要な港湾施設を持たないという地理的制約と、その少ない人口は、ラオスの経済成長にとって、マイナス要因となっているだろう。

 さらに歴史を振り返れば、ラオスの経済成長を阻んできた事柄として、植民地支配や紛争が挙げられる。

 ラオスがフランスの植民地支配から脱したのは1953年。同年に仏・ラオス条約により完全独立した。しかし、その後は何度も内戦が起こり、現在のラオス人民民主共和国が成立したのは1975年12月のことだ。(日本外務省「ラオス基礎データ」)

 インドシナ半島における軍事紛争としては、ベトナム戦争とカンボジア内戦がよく知られるが、ラオスもまた長きにわたる戦火を経験してきた。

 こうして植民地支配と内戦という苛烈な時代を経験した上、地理的な制約や少ない人口という特徴を持つラオスだが、近年では経済成長路線を歩んでいる。

 ラオスの貧困率は2015年時点で23%とまだ高水準にあるものの、1人当たり所得は2017年に2330米ドル(約25万9259円)となった。過去10年のラオスの国内総生産(GDP)は毎年平均7.8%のペースで伸びてきたという。(UNDP、“About Lao PDR”、世界銀行のラオス紹介ページ)

 経済成長をけん引してきたのが、鉱物事業や林業に加え、水力発電所の開発だ。ラオス政府は以前から水力発電所の開発を進め、同国では2017年時点で稼働中の水力発電所が計46拠点に上るほか、54カ所で水力発電所が建設中だ。発電した電力をタイを中心とする近隣諸国に「輸出」することで、外貨を稼ぐ戦略をとっている。水力発電所で発電した電力の3分の2は輸出しており、ラオスの輸出全体の30%程度を電力が占めているという。(英BBC、7月24日)

◆ダム開発への批判は以前から、生態系や住民の生活にリスク
 他方、積極的なダム開発には、以前から近隣諸国や環境団体などから懸念の声が出ていた。

 日本の特定非営利活動法人メコン・ウォッチはホームページで、ラオスでの水力発電所の開発事業は、「住民の移転を余儀なくするほか、水質の悪化や漁獲量の減少、河岸の畑への浸水など生態系への影響を引き起こし、結果的に近隣住民の貧困を深刻化させている」と、指摘する。

 また、ラオス北西部、メコン川流域での「サイヤブリダム」の開発をめぐっては、カンボジアやベトナムといった近隣諸国が、漁業への打撃とそれによる周辺住民の生計への影響、水量の減少などを理由に、開発の見直しを求めてきた経緯がある。

◆国境を超える企業活動と開発課題
 他方、前述のタイや韓国の企業だけではなく、日本の企業もラオスにおける水力発電所の開発にかかわっており、ラオスでの水力発電事業は同国だけではなく、外国が関与してきた。ラオスという一つの国のおける電力開発事業とそれを受けた近隣住民の暮らしは、各国企業の国境を超える経済活動と関係しているのだ。

 経済を成長させ、貧困を減らしていくことは、ラオスの人々の暮らしの改善につながる。水力発電所の開発と運営が安全に進められ、それが周辺住民にきちんと恩恵をもたらす形で行われるのであれば、ラオス社会にとってメリットがあるだろう。だが、環境への負荷に加え、今回のような大きな事故は、人々の生活に大きな打撃を与えてしまう。

 「東南アジアのバッテリー」を目指し、水力発電所の開発を積極的に推進してきたラオスだが、その経済成長モデルが今、問われている。

 同様に、ラオスでのダムの建設に関与してきたタイ、韓国、日本など各国の企業や政府についても、ラオスをはじめ近隣地域の持続可能な成長を促すため、水力発電所事業とどのようにかかわっていくのか、そして、どのように事故や環境破壊を防止することができるのかを共に考える余地が大きい。(了)

巣内尚子 ジャーナリスト
大学在学中に三池炭鉱の記録映画のアシスタントを経験した他、記録映画制作のため所沢高校問題を取材。卒業後はフランスに滞在し「移民問題」を知る。その後、インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。東南アジア各国からの国境を超える移住労働に関心を深める。2015年3月〜2016年2月にベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を研究。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。現在はカナダ在住で、ケベック州のラバル大学博士課程に在籍。

◆2018年7月27日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33535260X20C18A7FFE000/
ーラオスのダム決壊「基準に満たない建設が原因」 ラオスエネルギー相 ー

  【バンコク=岸本まりみ】ラオス南東部のアッタプー県で発生したダムの決壊事故を受け、ラオスのカンマニー・インティラートエネルギー・鉱業相が26日の記者会見で「基準に満たない低水準の建設が事故の原因」との見方を示した。27日、ラオス国営通信が報じた。「降り続いた大雨が原因」とする企業側の主張をはねつけた。

 決壊したセピアンセナムノイダムは韓国大手財閥SKグループのSK建設と韓国西部発電、タイ政府系の発電大手ラチャブリ電力、ラオスの国営企業が合弁で建設していた。筆頭株主は26%を出資するSK建設。2013年に着工し、19年の稼働を目指して建設を進めていた。

 被害の全容はなお不明だが、ダムの決壊で周辺の村落が水没。少なくとも27人が死亡、3千人以上が家を失ったことが確認されている。

◆2018年7月27日 ハンギョレ新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180727-00031215-hankyoreh-kr
ーラオスダム流失事故、背後には「メコン川開発問題」が隠れているー

 SK建設が施工したセピエン-セナムノイダム決壊 普段より3倍以上の大雨と手抜き工事のせい? メコン川に無作為に建設されたダムで 下流地域には水不足または氾濫  メコン川を共有する国家間の協力が必要
 「7月15~24日、メコン川本流に沿って一部地域で3メートル以上増加するなど、急激に水位が増加している。しかし、まだ警告段階ではない。熱帯台風『ソンティン』でラオス北西部のルアンプラバンから首都ビエンチャンまで暴雨が降ったためと分析される」

 メコン川を共有する4カ国が共同で設立した国際機構メコン川委員会(メートルRC)のホームページに25日掲載された文だ。大雨によってラオス全体でメコン川の水位が高まったという事実を警告している。メコン川委員会は、持続可能な発展に向けて川を共有する6カ国のうち、タイ、ラオス、カンボジア、ベトナムが加盟国として参加している。メコン川上流に位置した中国とミャンマーは外れている。

 メコン川委員会の説明によると、SK建設が施工したラオスのセピエン-セナムノイダムが23日(現地時間)に決壊し、数百人が行方不明になる前から、ラオスの多くの地域で水位は急激に増加していた。SK建設の関係者は事故初期「当該地域で普段の3倍を超える大雨によって補助ダム1つが氾濫した」と明らかにした。SK建設側の主張通り土ダムの一部が流失したものなのか、手抜き工事で補助ダムが決壊したのかを知るには、事故原因を究明しなければならない。

■メコン川の無作為式ダム建設
 今回のSK建設のセピエン-セナムノイダム決壊事故前から、メコン川の無作為式ダム建設とこれによる水位不安定は、国家間の外交問題にまで広がってきた。国連環境計画(UNEP)は2009年5月「中国のダム建設でメコン川の流量と流れが変化し、水質悪化と生物多様性破壊が起きる可能性が高い」と警告した。

 6カ国を貫通するメコン川は世界で十二番目に長い。4350キロメートルの長さのメコン川上流には中国が位置しているが、中国は1995年に最初のダムを建設した後、7つの水力発電用ダムを追加で建設した。雲南省、チベット、青海などメコン川上流地域にも20あまりのダムを追加で建設する予定だ。それだけでなく、中国企業は川の下流6カ所のダム建設プロジェクトにも投資した。

 問題は、上流のダム建設で下流の水位が予測不可能になったという点だ。メコン川中流に位置したタイは、2013年12月から2014年2月まで水位が急激な変動を見せると、中国を疑いもした。タイ北部地域であるチェンライ県チエンセーン地区を流れるメコン川は、2013年12月6日に水位が2.73メートルだったが、同月17日は6.75メートルに跳ね上がった。しかし、2014年2月初めには1.6メートルに下がり、急激な変化を見せた。タイは中国との交渉に出て、2010年からメコン川の水位情報の提供を受けたが、乾季には受けられていない。雨期にのみダムの放流量などの情報を受けるだけだ。

■水資源管理による6カ国の対立
 メコン川の水資源管理をめぐり国家間の葛藤が悪化すると、カンボジア、ラオス、ベトナム、タイなど4カ国が1978年にメコン川委員会を構成し、水資源開発を調整した。持続可能な開発を目指したものだ。しかし、中国の本音は違う。中国は残りの貧国にダムを建設して経済的利益を得る一方、これらの国家における外交的存在感を拡大しようとしている。中国は従来の「メコン川委員会」(MRC)に代わる「瀾滄川-メコン川協力会議」(LMC)を設立した後、この地域に莫大な投資と経済協力を約束し、メコン川周辺国の歓心を買うために努力してきた。

 昨年12月30日、ベトナムのハノイで開かれた第6回メコン川経済圏(GMS)ビジネスサミットで、中国の王毅外交部長とベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマーなど5カ国の政府代表らは、計660億ドル(約7兆3000億円)にのぼる227のプロジェクトの推進に合意した。メコン川経済圏ビスジスサミットの代表的なプロジェクトも、中国資本を投入してメコン川支流に総事業費8億1600万ドル(約900億円)、予想生産電力400メガワットのLS2(Lower Sesan 2)規模のダムを建設するものだ。特に東南アジア国家の中でも産業化が遅れたカンボジアは、中国の投資を受け大規模な水力発電ダムを建設、産業発展に必要な電力インフラを拡充して国民の電気料負担を減らすという計画を立てた。

 中国は、大規模な資本を投入してメコン川を中心に東南アジア地域に41ものダム建設を推進している。しかし、移住民の激しい反発と環境汚染の懸念などによって、ダムプロジェクト自体が中止となる事例も出ている。ミャンマーは少数民族の生活の基盤を奪って生態系を破壊するという理由で、2011年に事業費36億ドル(約4000億円)に達するミッソン水力発電所建設プロジェクトを留保した。

■片や水があふれ、片や水不足
 メコン川に雨後の竹の子のようにダムが建設されたため、下流地域は農業用水不足などで大きな苦難を負った。ベトナムは2016年に90年ぶりの最悪の日照りを経て、コメ収穫量が大幅に減り180万人が飲み水の供給を十分に得られなかった。エルニーニョによる気候変化が最も大きな原因だが、中国が川の上流に建設したダムによって閉じられた水が相当蒸発したことも原因とされた。

 2012年にSK建設が受注したラオスのセピエン-セナムノイダム建設事業も、ラオス南部のボラベン高原を貫通するメコン川支流をふさぎ、落差の大きい地下水路と発電所を建設し電力を生産するものだ。発電容量は410メガワットで、韓国内最大規模の忠州ダムに匹敵するが、電力生産量の90%をタイに輸出することにした。この事業は韓国輸出入銀行対外経済協力基金(EDCF)から初めて955億ウォン(約94億円)を支援した官民協力事業として、SK建設と韓国西部発電などが施工に参画した。「アジアのバッテリー」になろうとするラオスが、韓国の技術と資金を受け入れたのだ。

 しかし、2013年の国政監査で環境影響評価などが行われなかったという指摘が起こった。当時、キム・ヒョンミ民主党議員(現国土交通部長官)は、セピエン-セナムノイ水力発電事業に関する環境影響評価報告書の公開を要請したが、対外秘という理由で公開されなかった事例を取り上げ、韓国の援助情報が透明に公開されない場合、不正腐敗が発生するリスクが大きいと指摘した。当該国家の真の発展にも否定的影響を及ぼしかねないことを警告したものだ。

 このようにみると、SK建設のラオスのセピエン-セナムノイダムの決壊は、単なる建設会社の手抜き工事疑惑の問題だけではない。世界で12番目に長い川を共有した大国中国と、残りの開発途上国間の協力は不在だった。生態系保護と開発論理の調和もなかった。韓国政府も対外経済協力基金を提供し、SK建設を支援したが、メコン川の環境保護と川を巡って繰り広げられている6カ家間の摩擦というさらに大きな絵を見ることはできなかった。  パク・ユリ記者

◆2018年7月31日 Yahoo !ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20180731-00091318/
ー韓国・SK建設のダム決壊は天災、それとも人災「水力発電立国」目指すラオスで死者・不明140人ー 
木村正人 | 在英国際ジャーナリスト

ダム建設では韓国一
[ロンドン発]ラオス南部アッタプー県で建設中だった水力発電用のセピアン・セナムノイダムが23日に決壊し、地元からの報道によると、9人が死亡、131人が行方不明になっています。

決壊で5億立法メートルの水が流出し、7つの村が浸水し、6600人以上が家を失いました。ラオスのほかタイや中国の救助隊計180人が救出活動を続けています。

建設を手掛ける合弁会社には、ラオスの国営企業・出資比率24%、韓国の2社(SK建設・同26%、韓国西部発電・同25%)、タイ電力大手ラチャブリ・エレクトリシティー・ジェネレーティング・ホールディング・同25%が参画。筆頭株主はSK建設です。

韓国国土交通部の「施工能力評価」によると、SK建設はダム建設分野では2014年から4年連続で韓国一になっています。

発電所の建設は13年2月に始まり、9割完成、来年2月には完工し、稼働を開始する予定でした。

決壊したセピアン・セナムノイダムは2つの主ダムと5つの補助ダムからなり、貯水池の高さは73メートル、長さは1600メートル、10億4300万立法メートルの水を貯めることが可能です。

事業費用は10億2000万ドルで、70%が借入金、30%がエクイティによって資金調達されました。電力生産量は410メガワット級で年間生産量は約1860ギガワット時。電力の9割はタイに輸出する予定でした。

ダム決壊のメカニズム
韓国紙ハンギョレや米紙ニューヨーク・タイムズによると、決壊までの経過は次の通りです。

7月20日、発電用補助ダム(台形状に盛り土を行って建設されるアースフィルダム型)の1つの中央部分が約11センチ沈下。様子を見ることに

22日夕、沈下は10カ所に。補助ダムを修復するためSK建設が作業員と装備を投入。しかし土砂降りの雨で補助ダムにつながる道路が水没し、修復作業は進まず

22日午後9時、補助ダムの最上部が損壊していることを確認。地方当局に通報、近くの村の住人が避難開始

23日午前3時、補助ダムの水位を下げるため主ダムの非常水門を開放するも、局地的な集中豪雨は続き、水位は下がらず

23日午前11時、補助ダムの沈下は1メートルに

23日正午ごろ、ラオス政府は補助ダムがさらに損壊するとの知らせを受け、下流の住民に正式な避難命令を出す

23日午後6時、補助ダムの上部が決壊

24日午前1時半、下流にある村が浸水との一報

補助ダムが貯水の浸透で沈下を始めたか、それとも浸食により決壊したのでしょうか。補助ダムの「沈下」が確認された時点で主ダムを放流し、貯水量を減らす必要がありました。

しかし下流にある村への影響を怖れたのか、放流が遅れたのが文字通り命取りになってしまいました。

降水量は75ミリメートル以上
実際、どれほど激しい雨が降っていたのかと言うと――。

国連訓練調査研究所(ユニタール)のUNOSATによると、決壊したダム周辺の7月22~24日の降水量は75ミリメートル超。非常に激しい雨がゴーゴーと滝のように降り続ける状態で、車を運転するのは危険です。

中国、ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムに囲まれた共産主義国のラオスは外貨を稼ぐため、メコン川水系の豊かな水源を活用した「水力発電立国」「アジアのバッテリー」を目指しています。

昨年、プロジェクト数は47件に達し、2020年までに100件に増やす計画です。電力輸出は10年には輸出全体の12%でしたが、昨年は23%まで増えました。

しかし、乱開発とも言えるラオスの水力発電用ダム建設計画は、環境保護団体から「巨大ナマズや巨大バサなどメコン川水系の生態系を破壊する」「コメの生産地メコンデルタへ肥沃な堆積物の供給を堰(せ)き止め、堆積物の量は3分の2に減る」と批判されてきました。

昨年9月にも犠牲者こそ出ませんでしたが、今回のセピアン・セナムノイダム決壊と同じような事故がすでに起きていました。

「低水準の建設が事故原因」
ラオス国営通信によると、同国のカンマニー・インティラート・エネルギー・鉱業相は26日の記者会見で「SK建設は惨事の責任から逃れることはできない」「基準に満たない低水準の建設が事故の原因」との見方を示しました。

当初は「事故の原因は集中豪雨が続いたから」と責任を回避していたSK建設は「今は救助に全力を挙げている。事故の原因は調査されることになっており、現段階では事故原因を断定するのは時期尚早」と言葉を濁しています。

メコン川は東南アジア最大の河川であり、流域に6000万人が暮らしています。毎年雨季(5~10月)に洪水が発生し、下流域では大規模な氾濫が起きます。だから「集中豪雨が続いたから」という言い訳は通じません。

安全や環境より優先された開発と外資導入
集中豪雨を想定した安全基準作りが不可欠なのに、ダムの強度が不足していたか、ダムの貯水量が少なく設計されていたようです。事業費用を抑えるためか、工期を短縮するためかは分かりません。しかし、安全や環境より開発と外資導入が優先され、今回の集中豪雨でラオスの「水力発電立国」計画はついに決壊してしまいました。

ラオス人民革命党の1党支配のため、受注のプロセスは厚いベールに覆われています。ラオスには中国やベトナム、タイの影響力を低下させるため、韓国資本を導入するメリットがありました。

メコン川流域の開発は内戦で遅れていました。1992年にアジア開発銀行(ADB)が大メコン圏地域経済協力の閣僚会議を主催してから、ダム、道路、鉄道といった大規模インフラ開発の中心的役割を担ってきました。

現在は中国の習近平国家主席の経済圏構想「一帯一路」が加わり、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の資金援助が受けられるようになりました。ラオスの政府債務残高も対国内総生産(GDP)比で15年の65.8%から18年には70.3%に膨らむ見通しです。

問題はラオス政府とSK建設にとどまらず、成長期待から開発資金が流れ込み、インフラの乱開発が進むアジアの安全と環境をどのように守っていくかがこれから厳しく問われることになりそうです。