「水害激甚化の根源はダムに頼る治水」 長崎で今本京大名誉教授講演

 さる9月22~23日、7月の西日本豪雨をテーマとした「治水問題学習会」が長崎県で行われました。

 講師は今本博健氏(京都大学名誉教授、元京都大学防災研究所長)。長崎県が推進する石木ダムが洪水対策として不要であることを明らかにしてきた、河川工学の専門家です。今本先生が石木ダム問題に関わるようになってから、10年が経過しているそうです。一日目の会場は県庁お膝元の長崎市、二日目はダム予定地を抱える川棚町でした。

 当日の記録動画を紹介させていただきます。
 7月の西日本水害(岡山県真備町と愛媛県肱川)について、水害の原因を一般の人々にわかりやすく丁寧に説明して下さっています。ダム事業を優先させてきたわが国の戦後の河川行政が水害の根本的な原因であることがよくわかります。最後に、石木ダム問題についても解説しておられます。是非、ご視聴ください。

〇「西日本水害に見る治水対策の欠陥 今本博健京都大学名誉教授の講演」 
 ・岡山県真備町(~30分)、愛媛県・肱川のダムの緊急放流(31分30秒~54分過ぎ)、石木ダム(54分過ぎ~1時間6分)https://youtu.be/rOzY9i4XN-0
        

スライド・講演より一部転載・引用
岡山県真備町地区の浸水被害(まとめ)
 破堤による水位の急上昇が住民の命を奪った。
 破堤の直接的な原因は越水であるが、その背景に高さおよび幅の不足する欠陥堤防を放置し、堤防補強を怠ってきたことがある。河道内の樹木についても同様である。
 特に問題なのは、水害危険地の宅地化に何ら手を打とうとしなかったことである。
 ハザードマップが活用されるように、想定浸水位を電柱などに表示し、住民の防災意識を高める必要がある。

 水島工業地帯の発展に伴い、昭和49年ごろからベッドタウンとして急速に宅地開発された地域。
 地盤が緩い地域なので、岡山県が管理する堤防は所により大きく沈下しているにも関わらず、これを管理し、対策をとった形跡がない。
 学校や病院、役場などの公共施設が地盤の低い所に建てられている。水害に対する意識が低かった。
 洪水対策として最も有効な河道整備が50年間も棚ざらしにされてきた。治水の基本は河道整備。河道整備をやって、その上でどうしても必要であればダムを検討するという順番でなければならない。

◆肱川流域の浸水被害(まとめ)
 (ダムが満水により)緊急放流するということは、ダムによる洪水調節計画が破綻したことを意味する。
 対象洪水を設定し、河道とダムに配分する(現行の)定量治水は、河道の流下能力の確保とダムの建設で完結するが、現実にはダムの建設を優先し、流下能力の確保を先送りにしている。
 このため、計画規模の洪水に対してすら被害を防止できず、計画を超える規模の洪水には壊滅的な被害になる。
 抜本的な解決には、定量治水から非定量治水への転換が必要である。

 今年7月4日から8日にかけて、肱川上流の野村ダムと鹿野川ダムの集水域に集中して雨が降った。
 大洲市における肱川の水位と雨量のグラフを見ると、大雨が降って確かに肱川の水位は上がったが、最も水位が高かった時でも「計画高水位」(想定洪水の際、ダム等で調節された川の水が流れる時の水位)より低かった。想定外の洪水ではなかったにもかかわらず、犠牲者が出た。
 現在、「異常洪水時防災操作」と呼ばれるものは、昔は「ただし書き操作」といった。ダムの操作規則があるが、「ただし、異常気象の場合はその規則に従う必要がない」という説明があったので、そう呼ばれるようになった。現在、「異常洪水時防災操作」というが、「防災」は下流域住民のための防災ではない。ダムを守るためにゲートを一気に上げる操作。
 野村ダムが7月7日6時20分にゲートを上げて緊急放流を開始すると、ダム直下の野村町では6時37分に河川からの越水が始まった。・・・(以下略)
 

◆石木ダムと川棚川の治水
 長崎県は石木ダムを50年間着工できずにきたので、しかたなしに川棚川の河道整備を行ってきた。岡山県・高梁川水系と愛媛県・肱川の河道は実力不足で大水害となったが、川棚川は治水において実力がある。石木ダムを建設しなくとも、もう少し河川改修を行えばダムなしで流域住民の安全が確保できる。ダム建設と比較すれば、河川改修の費用ははるかに安価。川棚町の方々は、自信をもってダムよりも河川改修をやってくれと、長崎県にいうべきだ。
(写真右=川棚川と石木川の合流点。川棚川の下流部で合流する石木川にダムを建設しても、川棚川への治水効果は僅か。)
 石木ダムの目的は「川棚川の洪水調節」と「佐世保市の水道用水への供給」。治水は技術的な問題が絡むので、分かりにくい面があるが、利水(水道)はすぐにわかる。佐世保市のトータルの水の使用量は確実に減ってきているのに、なぜ石木ダムが要るのか? 人口減少と節水技術の発達を考えた時、今後、佐世保市が新たに大量の水を必要とすることはありえない。
 全国のダム事業で問題があるが、現にダム予定地に13世帯もの住民が住んでいるのは石木ダム事業だけだ。長崎県はダムを造りたくとも、そう簡単に造れるわけがない。長崎県は半世紀かけても解決できなかった問題を、本当に解決する気があるのだろうか。一刻も早く、こうばる(ダム予定地)の人々をダム計画から解放してほしい。
(写真右=ダム予定地の公民館で、今本先生と住民の方々。)
 私は政治家が決断しなければならないぎりぎりの所に来ていると思う。
 もし機会があったら、私は(長崎県の)中村知事に言いたい。石木ダムに賛成する学者と反対する学者と目の前で議論させてほしい。
 大阪府で橋下徹知事(当時)が、府営の槇尾川ダムをどうするかという問題があった。槇尾川ダムは石木ダムよりはるかに事業が進捗しており、山を削り、コンクリート打設直前だった。この時、国交省OBの宮本博司くんと私がダム反対の立場で、ダム賛成側は建設省河川局長だった竹村公太郎さんと大阪府の副知事をやった私の同級生、両者が橋本知事の前で議論を戦わせた結果、橋下知事は槇尾川ダムを中止すると決断してくれた。
 私も八十歳になりましたが、命ある限り頑張りますので、皆さんも頑張ってください。
 

 関連記事を転載します。

◆2018年9月23日 長崎新聞
https://this.kiji.is/416399177149367393?c=39546741839462401
ー「ダム頼る治水は豪雨被害を拡大」 長崎で京大名誉教授講演ー

 河川工学に詳しい今本博健京都大名誉教授が22日、長崎市内で講演し、西日本豪雨の被害を拡大した根源はダムに頼った治水にあると指摘。県と佐世保市が東彼川棚町に計画している石木ダム建設に警鐘を鳴らした。
 講演会は、石木ダム建設に反対している「いしきを学ぶ会実行委員会」がダム問題に関心を持ってもらおうと開催。約70人が参加した。
 今本氏は7月の西日本豪雨について、「8つのダムが緊急放流を行った」と報告。愛媛県の野村ダムと鹿野川ダムは大量放流で住宅の浸水被害が発生し、住民が犠牲になった。「計画を超える規模の洪水にダムは役に立たない」と警告した。
 石木ダムに関しては、「川棚川は既に河川整備が進んでいる。現状でも100年に1回の洪水に対応できる」として、建設に疑問を呈した。

◆2018年9月24日 毎日新聞長崎版
https://mainichi.jp/articles/20180924/ddl/k42/040/146000c
ー西日本豪雨 治水問題学習会 防災意識の向上を 石木ダム反対、川棚町民の会 /長崎ー

 7月の西日本豪雨から治水を考える「治水問題学習会」が23日、川棚町中央公民館であった。石木ダム建設に反対する川棚町民の会(炭谷猛代表)の主催。京都大学名誉教授、今本博健氏(河川工学)の解説を町民ら約60人が聞いた。

 今本氏は「西日本水害にみる治水対策の欠陥」と題して講演。大規模な浸水で51人が亡くなった岡山県倉敷市真備地区について、堤防の高さや幅が足りかったことを要因に挙げ「日本の治水はダムに依存して河川改修を放置してきた」と指摘。ハザードマップを配布するだけでなく、想定される浸水の高さを電柱に示すなどして住民の防災意識を向上させる必要も説いた。

 県と佐世保市が同町に計画する石木ダムは「人口減少に加え、水を大量に使用する企業は水の再利用に取り組んでおり需要が増えるとは考えられない」と指摘。水需要の増加をダムが必要な理由に挙げる同市を批判した。

 参加者からは「ダムの賛否で学者が討論する機会を作れないか」「ダム不要を主張するリーダーが出てきてほしい」などの意見が出た。【綿貫洋】