八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場発電所の完成、ダム事業の工期に間に合わず

 八ッ場ダムの建設目的の一つに「水力発電」があります。
 「水力発電」が目的に加わったのは、2008年に行われたダム基本計画第三回変更の時です。水力発電といっても、ダムから放流する際に、ダム直下の発電所で水力発電を行う「従属発電」です。(右写真=ダム堤直下の八ッ場発電所建設地)

 開会中の県議会で一昨日、この八ッ場発電所に関する質疑が行われました。県の答弁によれば、八ッ場発電所の完成は、八ッ場ダムの完成に間に合わなくなったとのことです。
 八ッ場発電所は群馬県営とされ、群馬県の公式サイトに解説ページがあります。
 ➡「八ッ場発電所建設事業について」

 このページでは、3/6現在、八ッ場発電所建設事業は総事業費71億円、工期2019年度となっていますが、県議会での県の答弁によれば、総事業費80億円、工期2020年度となります。
 八ッ場ダムの完成予定は、2013年のダム基本計画第四回変更により、現在は2019年度となっていますが、これも延長される可能性があります。

 関連記事を紙面より転載します。

◆2019年3月5日 上毛新聞
ー八ッ場発電所の完成は20年度中 県議会常任委で県ー

 新年度完成予定の八ッ場ダム(長野原町)直下に建設中の八ッ場発電所について、県は4日、県議会産経土木常任委員会で、発電所の構造変更や遊水対策工事を実施したことから、新年度末までとしていた工期を2020年度中へと延期したことを明らかにした。総事業費も9億円増の80億円に増額。発電開始は八ッ場ダムの完成に間に合わなくなった。

 県発電課によると、設計変更は発電所の耐久性を高めるため実施。さらに国指定名勝「吾妻峡」の景観に配慮して、地上部の建屋は吸排水口と出入り口の2棟と最小限にとどめた。湧水対策工事は、のり面崩壊を防ぐのが目的。

 同発電所は最大出力が1万1700キロワットで、年間発電電力量は約4200万キロワット時(一般家庭の1万2000世帯分)。最大使用水量は毎秒13.6立方メートル。事業は15年度に着手した。

◆2019年3月5日 読売新聞群馬版
ー八ッ場発電所1年延期 安全対策工事など20年度目標ー

 県は4日、八ッ場ダムのえん堤下に建設している「八ッ場発電所」(長野原町)の完成目標年度を当初から1年延ばし、2020年度とすることを明らかにした。内部構造の変更や、建設中の安全確保に追加工事が必要になったことが理由という。これに伴って、総事業費は9億円膨らみ、80億円となる。

 同日の県議会産経土木常任委員会で県が説明した。

 八ッ場発電所は、19年度に完成予定の八ッ場ダムの放流水を利用し、一般家庭1万2000世帯分の消費電力を発電する。県は、15年度に着工し、ダムと同時期に完工させる計画だった。

 しかし、当初より耐震性を高めたり、近くの国指定名勝「吾妻峡」の景観保護のために発電所の構造や設備の配置を変更したことから、必要なコンクリートの量が増えた。建設現場の周辺を崩落から守るために工事が追加されたことも影響した。

—転載終わり—

 上記の読売新聞の記事には、国指定名勝「吾妻峡」は八ッ場発電所の近くにあるという意味の説明がありますが、八ッ場発電所と八ッ場ダムは名勝「吾妻峡」の中に建設されます。このため、事業を遂行するために景観への配慮が必要とされています。
(参照➡「名勝吾妻峡に配慮した八ッ場ダム本体デザイン検討について」

写真下=ダム堤直下の八ッ場発電所建設地。2018年11月撮影。

 なお、八ッ場ダム予定地を流れる吾妻川では、昭和初期に取得した水利権を利用して、東京電力が水力発電を行ってきました。ダム湖予定地の上流側で取水し、吾妻川と並行して山中を走る東電の導水管は、ダム建設地の下流側の東吾妻町・松谷で標高差を利用して中水力発電を行っています。
 東電の松谷発電所によって生み出される水力発電量は、八ッ場発電所の生み出す発電量よりはるかに大きいのですが、八ッ場ダムに貯水するため、国は東京電力に減電補償金を支払って水利権を買い戻す交渉を行っています。(参照➡「八ッ場ダムと発電」