八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

雨畑ダムの土砂堆積、上流では浸水の恐れ 、下流の富士川ではアユ減少

 駿河湾でのサクラエビの記録的不漁が続いています。その原因として、駿河湾に注ぐ富士川上流の雨畑ダムに問題があることがわかってきました。
 静岡県の要請を受けた山梨県の調査で、富士川の支流にある雨畑ダムの堆砂が進行し、ヘドロ化した浚渫物が河川敷に放置されているために、大雨の際、川の濁りが深刻になることも明らかになってきました。
 この間、地元の静岡新聞がこの問題を精力的に取り上げています。

 雨畑ダムは1967年に完成した日本軽金属㈱ の発電用ダムで、総貯水容量1365万㎥に対して2016年度末の堆砂量が1274万㎥になっており、堆砂でほぼ満杯状態です。

 富士川では川の濁りによって、アユの資源量も減少しているとのことですが、この問題をまとめた民間の報告書の内容を静岡県と山梨県が把握していながら、何の対策もとってこなかったことを静岡新聞が取り上げました。静岡新聞は富士川漁協が日軽金から多額の補償金を受け取っていたことも報道しました。

 毎日新聞の昨日の報道によれば、雨畑ダムの堆砂の進行は、ダム上流域で洪水氾濫の危険性をつくり出すほどになっているということです。ダム反対運動が盛んな熊本県の球磨川流域では、ダムは上流側に土砂が堆積し、洪水の危険性を高めることがよく知られていますが、一般にはまだあまり知られていないダムの負の側面の一つです。

■2019年6月24日 静岡新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190624-00000036-at_s-l22
ー富士川濁り、アユ減「警鐘」 民間調査報告、行政把握も対策せずー

 富士川の濁りを主因として天然アユの資源量が危機的水準にまで減少しているとの報告書を2015年度、静岡市清水区の企業などがまとめ、濁りの影響に警鐘を鳴らしていたことが23日までの関係者への取材で分かった。報告書は静岡、山梨両県での共同調査の必要性を強調。両県は複数の部署で内容を把握していたとみられるが、対策は取られなかった。富士川の濁りは駿河湾産サクラエビの記録的不漁との関係が指摘されている。

 リポートは「平成27年度 天然アユを指標とした富士川の環境保全調査報告書」。小型産業用ロボットメーカー「アイエイアイ」(石田徹社長)がCSR(企業の社会的責任)として、高知県の四万十川など全国の河川でアユの生態調査や漁場診断などを行う専門のコンサルタント、たかはし河川生物調査事務所=高橋勇夫代表、同県香南市=に依頼した。

 河口から約20キロ上流までの区間で、目視観察や潜水などを行い、濁りや産卵状況、魚道の機能を調査。国土交通省のデータに基づき、濁り具合の指標となる浮遊物質量(SS)の10年間(05~14年)の平均値(1リットル当たり30ミリグラム程度)を「通常濁りが少ない時期に調査が行われることを考慮すると、異常な高さ」としている。

 潜水観察を通じ、富士川本流の対象域のほぼ全体で川底に砂泥の堆積が見られ、泥分沈着により光合成が妨げられて餌の藻類(コケ)の生産が低いことや、河床の石が砂礫(されき)に埋まりアユの産卵の阻害要因と考えられること-などを詳述。対象域の生息期待量80万匹に対し実生息数は約2割の18万匹にとどまっていると算定した。

 約30年、富士川でアユ釣りをしている山梨県南アルプス市の40代男性は「仲間うちでは富士川は“死の川”というのが共通認識。興津川や狩野川は天然アユが遡上(そじょう)するのに富士川は上らない。多くが富士川を避けている」と話す。

 富士川本流の一部や支流の漁業権を持つ芝川漁協(富士宮市)が16年、内容に関する報告会を開催。同漁協は静岡、山梨両県の関係部署や国土交通省の事務所などに計100部配布した。

■富士川のアユ減少に関する報告書の主なポイント
 ▽自力での回復は相当に厳しい資源水準
 ▽アユを含めて魚類の個体数が著しく少ない
 ▽原因として可能性が高いのは川の濁り
 ▽濁りは、支流の早川(山梨県早川町)が主要な発生源の一つ
 ▽山梨県と行政の垣根を越えた協力が必要

<解説>“見張り番”機能 弱く

 富士川の環境保全に関する問題の背景の一つに、静岡県内本流に長く漁業権が設定されてこなかったことが挙げられる。河川の“見張り番”として強い権限を持つ漁協がない中で環境を守ろうとボランティアが汗を流してきた川でもあり、心ある市民の声が国や県の動きに反映される仕組み作りが今後の鍵を握る。

 静岡県内の本流は山梨県境から河口まで約18キロ。県史民俗調査報告書などによると、戦前は漁業が盛んだったが、河川環境の悪化とともに低迷。2014年に芝川漁協が富士宮市内の約5キロを漁場とするまで漁業権が設定されず、富士市境から河口まで約13キロは今も漁協がない。たかはし河川生物調査事務所(高知県)の高橋勇夫代表=河川生態学=は「全国的にも異例。問題に対し声を上げる意味で漁業権がないのは致命的」と説明する。

 旧富士川町を中心に漁協設立の機運が一時高まったが利水者との話がまとまらず断念。富士市民らが漁協に代わり環境保全などに取り組み、濁りに関しても行政サイドとの連絡会で問題提起してきたが、対応には至らなかったという。

 一方、同じく天然アユの資源水準が落ち込んでいる天竜川では、天竜川漁協と流域のダムを管理する電源開発が中心となり、有識者とともに環境の保全と再生を目指している。

ー富士川漁協、濁り「究明せず」 日軽金からは多額補償金ー
 駿河湾ではサクラエビ不漁との関係も指摘される富士川水系の強い濁り。一方、実態調査が進む早川(山梨県早川町)の本流・富士川中流域では、濁り問題への受け止めは異なる。えん堤がアユの遡上(そじょう)を阻んでいるとして日本軽金属(東京都)から多額の補償金を受け取る富士川漁協(山梨県身延町)は、強い濁りの存在は認めながらも原因究明に動こうとしていない。こうした現状には首をひねる専門家もいる。
 静岡新聞社が23日までに独自に入手した同漁協の内部資料によると、同漁協は早川水系でほとんどが土砂で埋まる雨畑ダムを運用する日軽金から、年間約1500万円の補償金を受け取っている。
 静岡、山梨両県が5月に計3回実施した合同水質調査では、雨畑ダムで濁り具合の指標となる浮遊物質量(SS)が1リットル当たり1600ミリグラム(28日)と極めて高い値を示した。静岡県水産資源課の担当者は「1週間前の大雨を踏まえても説明しにくい」と述べるなど県内では「原因の一つは雨畑ダム」との認識が広がりつつある。
 一方、富士川漁協の望月啓自組合長は「早川が濁っているのは事実」とし、アユなどへの影響も否定しない。ただ、濁りが出ている原因については「特定できない」としつつも「雨畑ダムの他にもリニア工事や砂利採取、自然の濁りもある」とし「今後も調査の予定はない」との立場を貫く。
 一方、富士川中流域の20程度の事業所などが数万~数十万円程度の補償金を支払う中、日軽金の補償金は飛び抜けて高い。2012年度から現在の金額になったが、それまでは400万円程度。同社との補償金増額交渉に当たった前組合長の男性(84)=山梨県身延町=は「下流の2カ所のえん堤で魚が遡上(そじょう)しにくくなっていることへの補償。濁りとは一切関係ない」と説明する。
 日軽金蒲原製造所(静岡市清水区蒲原)の大沢一之総務課長は23日までの取材に「相手方(富士川漁協)もいるので回答は控える」と補償や4倍近い増額の理由を明らかにしていない。
 大沢課長は雨畑ダムから早川を経て富士川本流に濁った水が流れていることにも「発電目的で取水利用している。水質については分かりかねる」と述べ、濁り自体への認識がないとの立場。「富士川漁協からダムの水質検査の要望はない」とも語った。

 ■日本軽金属および富士川漁協と静岡新聞記者のやりとり
 記者「雨畑ダムから早川を経て富士川に濁った水が出ている認識はあるか」
 日軽金・大沢一之課長「発電目的で取水利用している。水質については分かりかねる」
 記者「雨畑ダムの水質検査はしているか」
 日軽金・大沢課長「していない。富士川漁協からも要望はない」
 記者「富士川漁協への補償と増額の理由は」
 日軽金・大沢課長「相手方もいるので回答は差し控える」
 記者「早川、富士川中流の濁りをどう考えるか」
 富士川漁協・望月啓自組合長「原因は雨畑ダムだけではない。原因は特定できないし、究明のための調査の予定はない」
 記者「補償はどういう意味か」
 富士川漁協・前組合長「えん堤で魚が遡上(そじょう)しにくくなっていることへの補償。濁りは関係ない」

 ■漁協の姿勢、不自然
 全国でダムの漁業補償問題などに長年携わってきた明治学院大の熊本一規名誉教授(漁業法)の話
 濁りによる漁獲減少は漁業権の侵害行為であり、漁民の理解が必要だ。また、漁業権の免許を受けた漁協には漁場管理を行う義務がある。富士川の濁りの真相を突き止めようとしない漁業者の姿勢には首をひねらざるを得ない。周囲から「アユの不漁は濁りが主因である」と指摘されているのにもかかわらず、地元漁協も企業もあえてそれに触れない状態とも言え、不自然にも映る。

■2019年6月26日 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20190626/ddl/k19/040/070000c
ー雨畑ダム 上流、浸水の恐れ 土砂堆積、撤去も限界 早川 /山梨ー

 山梨県早川町の雨畑ダムの約9割に土砂が堆積(たいせき)している影響で上流の雨畑川の河床が上昇し、大雨の際に周辺集落が浸水する危険が高まっている。ダムを所有する日本軽金属(東京)が土砂の撤去を行っているが、作業は追いついておらず、河川管理者の県も抜本的解決策を見つけられないでいる。梅雨に入り、昨年の台風でも被害を受けた住民は不安を募らせている。【高田奈実】

 「この高さまで土砂が来た」。雨畑川沿いに37世帯71人が暮らす本村地区。町議で陶芸家の米山久志さん(69)は自宅外壁に付着した土砂の痕跡を指さし、そう言った。

 昨年10月の台風24号で雨畑川は氾濫し、川沿いの米山さん宅は床上約1メートルの浸水被害を受けた。「水というよりほとんどが土砂やヘドロだった」と振り返る。台風の後、米山さんは地区の別の場所に転居した。「対策を講じなければ土砂はたまり続け、同じ被害が起きる」と懸念を示す。

 雨畑ダムは日軽金が水力発電用に計画し、1967年3月に完成した。発電された電気は静岡県内のアルミニウム製造工場で使われている。日軽金によると、2018年11月時点のダムの土砂堆積量は1200万立方メートルに上り、総貯水量(1365万立方メートル)の約9割を占めている。

 土砂が堆積する背景には、ダムに土砂を排出する設備がないことや、雨畑川周辺の山がもろく崩れやすい地層で構成されていることがあるとみられる。ダムに土砂が堆積していることで山から雨畑川に流れ込む土砂が下流に流れず、河床が上昇。町によると、約10年前まで河床と町道の高低差は約10メートルあったが、今は数メートルに迫っているという。

 町の要望を受け、日軽金は数年前から関係会社の砂利採取業者に依頼し、従来のダム内に加え雨畑川でも土砂の撤去作業をしているが、日軽金によると、1年間で撤去できる土砂は年間50万立方メートルの流入量を下回っているという。日軽金は毎日新聞の取材に対し、「(日軽金だけでは)限界を感じている。今後は国や県などの協力を得て対応策を検討したい」とのコメントを出した。

 昨年12月にあった町や県、国、日軽金の担当者らが集まる連絡会議で町は国と県に対し、町道のかさ上げ工事と土砂を一時保管する土地の確保を要望した。県には土砂撤去への協力も求めている。

 一方、県治水課の担当者は取材に「毎年大量の土砂が流れ込んでいる状況で撤去は抜本的な解決にならない」と否定的な見方を示した。町の担当者は「日軽金に任せてきたが、対応しきれなくなっている。県や国に動いてほしい」と話している。

◆2019年6月27日 テレビ朝日
https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000158162.html
 28日にかけて大雨への警戒が続くなか、不安を募らせている町がある。山梨県早川町では町内にあるダムに土砂がたまり、雨が降ると川が氾濫する危険があるというのだ。

 早川町で地元住民から不安の声が上がっているのは、町内にある雨畑ダムだ。実はダムの約9割に土砂が堆積し、問題になっているというのだ。その理由はダムの上流に。
 ダムにたまった土砂の影響などで山から川に流れ込む土砂がダムに向かって流れず、川底が上昇したためだという。
 米山久志さん:「昔は15メートルぐらい、これよりも低いところにきれいな流れの川だった…」
 そう話すのは去年、台風で川が氾濫し、浸水被害を受けたという米山久志さんだ。自宅は床上約1メートルまで浸水。さらに土砂でドアが壊れるなどしたという。
 現在、町の要望を受けてダムを所有する会社は土砂を撤去するなどの対応をしているが、作業が追い付かないのが現状だという。心配される川の氾濫。早川町では27日夜から28日明け方にかけ、激しい雨の恐れがあるため注意が必要だ。