会報39号発行

 会報39号を発行しました。
 今回は林業に携わり、アウトドアガイドとしても活躍しておられる巣山太一さんに巻頭言をお寄せいただきました。
 巣山さんの詳しいプロフィールは、こちらをご覧ください。

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 巻頭言 「川は身近な存在で、ワクワクする場所」 巣山太一(林業、アウトドアガイド)

 20代の約10年間、仕事として四国の吉野川の住民運動にかかわってきた。そして、川でたくさん遊んできた。
 まず気になるのは川の水の色。川底の石までまるで一枚のガラスを通しているようにくっきりと見通せ、鮎が苔を食んでいる姿まではっきりと見える。
 川にはいつもそんな透明色を求めてしまう。
 瀬を見つければ、カヤックでどのようにくだろうか、この辺で竿を出したらヤマメが出るだろうな、と想像する。日本中の川が、こんなワクワクする川の姿を取り戻してほしい。

 この20年間でアメリカでは、1200基近くのダムが撤去された。川の流れをかつての姿に戻すためだ。
 日本では、ようやく2018年に国内初のダム撤去が完了、九州の球磨川の荒瀬ダムである。
 しかし一方で、今、八ッ場ダムが完成しようとしている。吾妻川を河口から源流へと車を走らせてわかることは、川が人間の生活のために、堰堤、取水、排水、護岸、堤防などですでに激しく利用されているということ。
 そこにダムができるということは、川の環境をさらに悪化させてしまうことになる。

 台風19号の後に、一気に満水になった試験湛水中の八ッ場ダムを見に行った。まだダム湖が見えないあたりで、すでに水の滞っている独特の匂いが鼻をついた。
 そして吾妻渓谷を流れる水の、濁り。それまで知っていた吾妻川は、一夜にして別の川になってしまった。わかっていたことだが、やりきれない気持ちになった。
 これまでいくつも数えきれないほど各地のダムを見てきた。しかし、吾妻川の清流がそこにあり、ダム堤体が徐々に積み重なって高くなっていく過程を見学して、周辺の関連事業が完成し、ダム堤が堰き止められ、水位が増えダム湖となり、ダム湖の底にはかつて何百年も続いた人間の生活があって川の流れを中心にして土地が切り開かれてきたことが想像できなくなる、という一連のことを目の当たりにしたのは人生で初めてのことだった。大変ショックな出来事だが、これは昭和でも平成でもなく、令和という新しい元号元年の出来事である。

 台風19号は、河川整備計画では対応できない想定外の洪水となり水害ともなった。ダムを緊急放流されたら、逃げ切れない。豪雨の中、家の前の道路に水が流れて膝丈まで来ているのに、どうやって避難所まで移動できるのか。
 住む場所や暮らし方を考え直さなければいけない時に来ている。
 その中で、最も重要なことは「自然と向き合う心構えと体力」にあるのではないだろうか。

 僕が林業の仕事を始めてまずわかったことは、人間はいともあっさりと傷つくということ。細かい枝が上から落ちてきて皮膚をかすめただけで、ぱっくりと傷口は開く。怪我をした仲間も大勢見てきた。自分も小さな怪我は数えきれない。「自分は大丈夫!」という自信は、あっという間に消え去った。自然を相手にすると、自分がどれだけ弱い存在であるかに気付く。それでも毎日、木と山に向かっていくためには、納得するまで万全の準備をする。必要な道具にかかる費用は惜しまない。心にひっかかる小さな心配事が残っていれば、やらない、途中でも止める。そんなことを林業を通して学んだ。

 体が強くなった。そして自然の小さな変化に気付くことができるようになった。自然と接するセンスや感覚を日々磨きたいと思っている。

 10分でいいから、近くの川を見に行こう。いつもの川の姿を見ておいてほしい。

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写真=八ッ場大橋(湖面橋)より上流側を望む。上の写真は試験湛水が始まった2019年10月1日、下の写真は12月11日に撮影。