ダムなし治水対策、整備進まず

 7月4日の熊本豪雨により大水害に見舞われた球磨川は、利根川水系の八ッ場ダムと共に川辺川ダム事業の是非が問題とされてきた川です。
 県民の世論を背景に、蒲島郁夫熊本県知事は2008年、川辺川ダム事業の白紙撤回を求め、その後、国土交通省と熊本県、流域自治体はかつて何度も水害に苦しめられてきた球磨川におけるダム以外の治水対策について協議してきました。しかし、国土交通省は本体工事直前まで進んでいた川辺川ダム事業をあきらめておらず、協議で提示されたダム以外の治水対策は具体化しないまま、今回の豪雨にみまわれました。

 八ッ場ダムがそうであったように、全国ではダムによる治水対策が流域住民に支持されているケースが多い中、球磨川流域では上流にある市房ダムや発電目的の荒瀬ダム、瀬戸石ダムが水害被害を拡大させているといわれ、流域住民の多くはダムによる治水に懐疑的で、むしろ恵みの川でもある清流がダメージを受けることに強い拒否反応を示してきました。

 報道では、国と県などによる「ダムなし治水」の協議は予算がネックとなって進まなかったとされていますが、協議が進まなかった本当の理由はなんなのでしょうか。

★参考ページ 国土交通省九州地方整備局八代河川国道事務所
http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/damuyora/damuyora.html
ーダムによらない治水を検討する場ー

 「地域の宝」である球磨川において、ローカルな価値観を反映した川づくりを行うために、川辺川ダム以外の治水対策の現実的な手法について、極限まで検討し、地域の安全に責任を負う者の間で認識を共有すること。

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 関連記事を転載します。

◆2020年7月7日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61269100X00C20A7EA2000/
ー治水、抜本対策急務 熊本「ダムなし」整備進まず 気候変動へ水害多発 国の予算は低水準ー

 九州の記録的な大雨による被害は自然災害への備えが不十分な現実を改めて突きつけた。死者が最も多い熊本県が標榜していた「ダムなし治水」は整備が間に合わず成果を出せなかった。気候変動で災害リスクがかつてなく高まる中、実効性の高い治水対策への練り直しが急務だ。

 豪雨で氾濫した熊本県の球磨川は「日本三大急流」の一つで、国が1966年に川辺川ダムの計画を発表した。地元の反対などで工事が進まず、2008年に熊本県の蒲島郁夫知事が白紙撤回を要求。民主党政権時の09年に当時の前原誠司国土交通相が建設中止を表明した。

 それから約11年後に起きた今回の豪雨災害。蒲島知事は「ダムによらない治水を目指してきたが費用が多額でできなかった。非常に悔やまれる」と述べた。「ダムによらない治水を極限まで検討する」としたが、具体策は明らかにしなかった。

 壁になったのはコストだ。ダム計画が中止になった09年以後、国と熊本県、流域市町村は協議を重ねてきた。環境問題に配慮するため堤防の強化や遊水地の設置、宅地のかさ上げといった複数の対策を検討した。それらを組み合わせた10の案を19年6月に示した。

 10案の概算事業費は最少でも堤防かさ上げを中心とした案の約2800億円で、遊水地を中心とする案なら約1兆2千億円まで膨らんだ。工期も最低で45年、最長なら200年もかかる。「ダムを避けたがために、かえって治水対策の柔軟性が欠ける」(国土交通省幹部)現実に直面した。
 理念には賛同も多かったが、一向に実現可能性を見いだせない。逡巡(しゅんじゅん)して時間を浪費するうちに豪雨に襲われた。

 今回、大きな被害が出た球磨川流域は、事前に浸水が予想されていた地域だ。国土交通省八代河川国道事務所は17年3月、球磨川水系で想定できる最大規模の降雨があった場合の「洪水浸水想定区域」を公表していた。

 このハザードマップと今回の被害を受けて国土地理院が公表した浸水の推定図を比べると、想定区域と実際の浸水地域はほぼ重なった。つまり被害を予想できたはずなのに、有効な対策を打てなかったことを意味する。

 近年は気候変動の影響で水害が多発している。1976~85年と2010~19年を比べると、1時間に50ミリ以上を記録する激しい雨の発生回数が1.4倍に増えた。土砂災害の件数も1990~2009年までの年間平均が1000件程度なのに対し、10年以降は1500件だ。

 国土交通省の技監や水管理・国土保全局長を歴任した足立敏之参院議員は「毎年のように激甚災害級の豪雨被害が起き、治水対策がついていけていない」と話す。

 河川改修や堤防のかさ上げなどに使う国の治水予算はかつてより低水準だ。00年度ごろまでは年1.3兆円程度に達することもあったのに対し、現在は1兆円を少し超える水準にとどまる。少ない予算を効果的な対策に結びつけられていない。

 被害は今回の熊本県に限らない。約100人の死者を出した昨年の台風19号では、都心部で人的被害が抑えられた一方、宮城や福島、長野では堤防の決壊によって甚大な被害が出た。特に地方ほど被害が大きくなる傾向が目立つ。

 公共事業予算の大幅な積み増しが見込みづらい中、重要性を増すのはハード整備とソフト対策を組み合わせることだ。

 ハード面ではダムや堤防といった巨額の費用と期間が必要な施設だけではなく、貯水池や避難施設も整備する。ソフト面は土地の利用規制やハザードマップに沿った街づくりも含め、複眼的に非常時に備える。

 国もようやくハード偏重を改め、避難体制の強化も含めた「流域治水」を重視する姿勢を探り始めた。九州大学の島谷幸宏教授は「これまで治水の専門家で議論をしてきた。これからは都市計画などの専門家とも議論するなど総合的に考えていく必要がある」と話す。

◆2020年7月8日 産経新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/2aa46ef9eaa8f135d0904f97348f082446ba7534
ー「ダムによらない治水」進まなかった球磨川ー

 熊本県南部などを襲った豪雨。氾濫した球磨(くま)川は、「日本三大急流」として知られ、過去にも水害に見舞われたことから「暴れ川」の異名も持つ。流域の治水対策をめぐっては、昭和40年まで3年連続で起きた水害を機に治水ダム計画が進んだが、地元の反対を受けて中止された。その後、国や流域自治体、地元住民で治水対策を協議し続けてきたが、抜本策が打ち出せないまま今回、想定を上回る甚大な豪雨被害が起きた。

 球磨川は熊本県水上村の源流から人吉盆地、八代平野を経て八代海に注ぐ全長115キロの1級河川。流域の年間平均雨量は全国平均の約1・6倍の2800ミリで、本流と支流の合流点にあたる人吉市中心部や球磨村渡地区は、洪水の危険性が以前から指摘されていた。

 熊本大の大本照憲教授(河川工学)は、今回は本流と支流双方が同時に増水し、異常出水につながったと分析。「人吉市街地では急速に水が流れ込み、避難できないほどの流速だった可能性がある」とする。

 だが、流域での治水対策は進んではこなかった。国土交通省によると、球磨川流域では40年7月に大規模な水害が発生。翌41年、国は球磨川支流の川辺川に治水を目的としたダムの計画を発表した。

 しかし、地元の反対などで事業は進まず平成20年、蒲島郁夫知事が計画反対を表明。翌年、民主党政権が計画を中止した。その後、国や県、流域自治体が堤防かさ上げや川底の掘削などの治水策を協議してきたが、議論はまとまらず、ダム計画も廃止されていない。

 「ダムによらない治水を目指してきたが、費用が多額でできなかった。非常に悔やまれる」。蒲島知事は5日、報道陣の質問にこう述べた。国交省九州地方整備局は球磨川の国管理流域だけでも11カ所で氾濫、人吉市中神町で堤防1カ所が決壊しているのを確認している。

 大本教授は「ダム以外にも田畑など『安全弁』となる氾濫地帯をつくるなど、人的被害を最小化するため流域全体での治水対策を早急にとる必要があった」と指摘している。