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球磨川水害受けて、川辺川ダム計画めぐる議論再燃も

 7月4日の熊本豪雨によって発生した球磨川水害を受けて、国の川辺川ダム計画をめぐる議論が再燃することになりそうです。
 球磨川の支流である川辺川に計画された川辺川ダムは、1966年に発表された国のダム事業です。
 
 この問題について、全国のダム問題に取り組む市民運動の嶋津暉之さん(水源開発問題全国連絡会共同代表、元東京都環境科学研究所研究員)のコメントと、地元紙(熊本日日新聞)の記事を紹介します。

右写真=球磨川の治水基準地点のある人吉市、人吉城址付近の球磨川。2018年7月撮影。

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★現時点でのコメント(嶋津暉之)

 今回の球磨川の氾濫は、国の方針としては中止になったものの、特定多目的ダム法に基づく廃止手続きがとられていない川辺川ダム計画の存在が根底にあります。川辺川ダム計画があるため、球磨川では現実的な治水対策である全面的な河床掘削という手段が選択されず、氾濫しやすい状態が放置されてきました。

 川辺川ダム計画は民主党政権下の2009年に中止になったものの、川辺川ダムなしの球磨川水系河川整備計画(*1)は、ダムの代替案がないということで、いまだに策定されていません。
(*1 河川整備計画・・・水系ごとに今後20~30年後の河川整備の目標や具体的な実施内容を定めるもので、ダム計画がある場合はその上位計画になる。)

 河川整備計画は、河川管理者が水系ごとに長期的な方針を定める河川整備基本方針に沿って策定されることになっています。
 球磨川の河川整備基本方針は、2007年に国土交通省によって策定されました。この基本方針では、人吉地点の基本高水流量(*2)を7000㎥/秒、計画高水流量(*3)を4000㎥/秒と定めました。
(*2 基本高水流量・・・長期的な洪水対策の目標として想定する最大規模の雨が降って、洪水調節施設がない場合に発生する最大流量で、球磨川の場合は1/80の降雨規模が想定されている。)
(*3 計画高水流量・・・堤防整備や河床掘削などの河川改修によって確保する流下能力の目標値。基本高水流量と計画高水流量との差はダムや調節池などでカットすることが必要となる。)

★「球磨川水系河川整備基本方針」 10ページ
 https://www.mlit.go.jp/river/basic_info/jigyo_keikaku/gaiyou/seibi/pdf/kumagawa101-1.pdf

 球磨川の重要な治水対策は、河床を掘削して河道の流下能力を大幅に増やすことなのですが、河床を掘削すると軟岩が露出するという理由(*4)で、人吉地点の計画高水流量は4000㎥/秒に据え置かれました。
 軟岩の露出については対応策があるのですが、川辺川ダム建設を必要とする理由をつくりだすために計画高水流量の恣意的な設定が行われました。
(*4「軟岩の露出」と計画高水流量の問題について、詳しい説明はこちらをご参照ください。)

 河川整備計画は通常は河川整備基本方針の長期的な目標よりは小さい規模の洪水を想定して、基本方針の数字の範囲内で策定されます。河川整備基本方針で定められた人吉地点の基本高水流量は7000㎥/秒、計画高水流量は4000㎥/秒ですから、河川整備計画で想定する洪水流量(目標流量)は7000㎥/秒以下、そのうち、河道で対応する流量(河道目標流量)は4000㎥/秒以下の数字になります。
 今後20~30年の整備を定める河川整備計画の目標流量は、長期的な目標流量である基本高水流量7000㎥/秒より小さい数字になりますので、5500~6000㎥/秒になるとしても、河道目標流量は4000㎥/秒より大きくできませんので、その差1500~2000㎥/秒を埋める洪水調節の手段がなければなりません。そのような手段は川辺川ダム以外にありません。

 このため、国土交通省九州地方整備局は、「ダムによらない治水」を協議する場を設けたものの、川辺ダムなしでは成り立たない枠組みで協議が行われたため、ダムの代替案は法外に高額であったり、年月がかかる非現実的な治水対策しか提示されず、川辺川ダムなしの球磨川水系河川整備計画が策定されぬまま10数年が経過しました。

【参考ページ】
 国土交通省九州地方整備局八代河川国道事務所HP
「球磨川治水対策協議会・ダムによらない治水を検討する場」

       
 川辺川ダムなしの河川整備計画をつくるためには、2007年に策定された球磨川水系河川整備基本方針を見直して、計画高水流量4000㎥/秒を大幅に引き上げる必要があります。
 河川整備基本方針は一度策定されると、改定されることはほとんどありませんが、その改定を求めないと、川辺川ダム計画が再登場してくることは必至ですので、改定を求める取り組みが必要です。

 なお、今回の球磨川氾濫について、国土交通省の観測データを現在、私の方で検討しています。ある程度まとまりましたら、あとでお送りしますが、未曽有の豪雨により、球磨川のピーク流量は人吉地点で5000㎥/秒以上、下流の横石地点で10000㎥/秒以上の流量になったと推測されます。
 また、川辺川ダム予定地上流でもかなりの雨が降り、もしダムがあったら、緊急放流を行う事態もあったのではないかと思われます。
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◆2020年7月8日 熊本日日新聞
https://this.kiji.is/653475971650962529?c=39546741839462401
ー川辺川ダム議論再燃も 熊本県、球磨川治水で検証対象ー

 熊本県南豪雨災害を受け、県が今後進める球磨川の治水対策の検証対象に、当時の民主党政権が建設を中止した川辺川ダムによる治水効果を含めることが7日、関係者への取材で分かった。特定多目的ダム法に基づく計画の廃止手続きは取られておらず、検証結果次第では、ダム建設計画の議論が再燃する可能性がある。

 検証では、今回の豪雨に対する市房ダムなど既存ダムの治水能力に加え、川辺川ダムの有無による影響を調査するとみられる。国や流域市町村との検証を目指しているが、救援活動を優先するため、開始時期は未定。

 蒲島知事は豪雨災害を受けた5、6日の会見で「ダムによらない治水を極限まで検討したい」とする一方、「今回の災害対応を国や流域市町村と検証し、どういう治水対策をやっていくべきか、新しいダムのあり方についても考える」とも述べていた。

  川辺川ダム建設計画を巡っては、蒲島郁夫知事が2008年9月に流域首長の意向などを踏まえ、「計画を白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追求すべきだ」として建設反対を打ち出した。

 その後、国と県、流域市町村が治水代替策を検討。19年に代替策の整備10案がまとまったものの、事業費は2800億~1兆2千億円と巨額で、工期も45~200年と長く、最終的な整備方針は決まっていなかった。(野方信助)

 川辺川ダム建設計画 1966年、建設省(現国土交通省)が球磨川流域の洪水防止を目的に、支流の川辺川(相良村)に建設を決定。その後、用途を農業利水と発電にも広げ、総貯水量1億3300万トンの多目的ダム計画になった。住民の賛否が割れる中、2007年に利水事業の休止が確定。蒲島郁夫知事の白紙撤回に続き、前原誠司国交相が09年に建設中止を表明したが、特定多目的ダム法に基づく計画は存続している。

◆2020年7月12日 時事通信
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020071100391&g=soc
ーダム計画、11年前に中止 熊本・球磨川水系、県など反対―議論再燃可能性もー

 熊本県を襲った豪雨で氾濫した球磨川水系では、かつて治水などを目的とした「川辺川ダム」の建設計画が存在した。しかし、一部の流域市町村や県の反対を受け、国は2009年に中止を決定。ダムに代わる治水策を検討していたが、抜本的な対策を取ることができなかった。

 蒲島郁夫知事は豪雨被害の後、川辺川ダムについては従来の方針を維持すると表明する一方、ダムの在り方を含め対応を検証するとした。計画廃止の法的手続きは取られていないため、建設をめぐる議論が再燃する可能性もある。

 球磨川流域では1963年から3年連続で大水害が発生し、建設省(現国土交通省)が66年、最大支流の川辺川(相良村)に洪水対策でダムを建設する計画を発表。総貯水量1億3300万トンで、完成すれば九州最大規模になる予定だった。

 治水や利水、発電などの多目的ダムとする計画だったが、長期化で治水以外の事業者が撤退。総事業費も当初の約10倍に膨らみ、推進派と反対派の対立で、用地取得や家屋移転はほぼ完了したものの、本体工事には着手できなかった。

 環境保護など建設反対の世論が盛り上がる中、流域の市町村長が相次いで計画の白紙撤回を要求。蒲島知事も就任半年後の2008年9月に反対の意向を表明し、当時の民主党政権が中止を決めた。その後、国や県などはダム建設以外の治水策を検討し、昨年11月に堤防のかさ上げなど10種類の案を提示していた。

 蒲島知事は5日、治水策が間に合わなかったことを「非常に悔やまれる」と発言。一方で、「(建設反対の)決断は県民の意向だった。ダムによらない治水を極限まで考えたい」と述べた。

 地元の市民グループ「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」の中島康代表(79)は、「今回の豪雨は想像を超える水量で、ダムが造られていても意味はなかったと思う。最近は異常気象もあり、50年前と同じ治水計画は進められない」とけん制した。