八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「流域治水」への転換求める社説(毎日新聞、熊本日日新聞、高知新聞)

 7月9日、国土交通省の審議会が、今後の水害対策について、「流域治水」への転換を謳った答申書を赤羽国交大臣に提出したことを受けて、新聞各紙も社説で「流域治水」を取り上げています。
(参考ページ➡「国交省・水災害対策検討小委員会の答申、「流域治水」への転換促す」

 嘉田由紀子参院議員が滋賀県知事時代に制定した流域治水推進条例は、現場感覚のある嘉田氏が主導しただけに、具体性があります。

滋賀県流域治水の推進に関する条例
 https://www.pref.shiga.lg.jp/site/jourei/reiki_int/reiki_honbun/k001RG00000883.html

 想定外の大雨が頻発する現在、治水限界のあるダムに偏重した治水対策を改め、想定外の雨が降っても命を守ることができる流域治水を早急に全国に広めることあ必要ですが、国交省の答申書は方向性を示すにとどまっています。「流域治水」を謳うだけでは現状とさほど変わりません。大事なことは「流域治水」をどのように具体的な施策にしていくかです。

 滋賀県の場合も現時点で立地規制、建築規制を行う浸水警戒区域に指定されているのは米原市村居田地区と甲賀市信楽町黄瀬地区の2地区にとどまっています。流域治水政策室の職員は頑張っているのでしょうが、2015年に知事が嘉田由紀子氏から三日月大造氏になって、県の取り組みの体制が不十分になっているのではないかと危惧します。

 国土交通省のホームページには、今年度中に全国109の国管理の水系に於ける「流域治水プロジェクト」の素案等が掲載されています。
 https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/index.html

 利根川・江戸川の「流域治水プロジェクト」(素案、7月6日時点)は以下の通りです。(上から利根川上流、利根川下流、江戸川)
 https://www.mlit.go.jp/river/kasen/ryuiki_pro/pdf/83/83-2.pdf



 

◆2020年7月11日 毎日新聞社説
https://mainichi.jp/articles/20200711/ddm/005/070/106000c
ー相次ぐ豪雨被害 防災の総合力を高めたいー

 豪雨によって九州、四国、東海の広い範囲で河川が氾濫した。住宅街が浸水して多数の犠牲者が出ており、治水対策のあり方が問い直されている。

 熊本県の球磨川など四つの1級河川で氾濫や決壊が起きた。氾濫危険水位を超えたのは130河川以上に上っている。
 国土交通省によると、梅雨時の大雨や台風で氾濫危険水位を超えた河川はこの5年間で5倍に増えた。地球温暖化を背景に、従来の治水対策では通用しなくなってきているのが実情だ。

 国や都道府県など河川管理者だけでなく、流域の市町村、企業、住民が一体になって取り組む「流域治水」という考え方がある。
 ダムや堤防に頼る治水にはもはや限界があるという認識に立った新たな防災・減災の手法だ。
 たとえば、雨水を一時的にためたり、排水したりする施設を流域に整備する。住民一人一人が自分に合った避難行動を時系列で決めておく「マイ・タイムライン」の普及を進める。

 国は全国の1級河川とその水系を対象に、今年度内に対策をまとめる方針を示している。

 今回、熊本の特別養護老人ホームの入所者らをはじめとして、高齢者が逃げ遅れて犠牲になるケースが目立った。
 国は、災害リスクのある場所に立地する福祉施設や病院については移転を促す財政支援にも取り組む。高齢者ら災害弱者を守る対策は優先的に進めてほしい。

 戦後、治水対策で重視されてきたのはダム建設だった。だが、ダムの能力は限られている。経験したことのない豪雨によって緊急放流を余儀なくされ、下流域に危険が及ぶ事態も起きている。
 ダム優先の政策で堤防の強化が遅れたという指摘もある。

 ハード対策にはコストと時間がかかるうえ、どれだけ備えをしたつもりでも想定を超える規模の洪水が発生する恐れが強まっている。これまで以上に、ソフト対策を含めた官民一体の取り組みが求められる。

 全国のどの地域を集中豪雨が襲っても不思議ではなくなっている。ハードとソフト両面で対策の質を高め、地域防災の総合力を底上げしていきたい。

◆2020年7月9日 熊本日日新聞
https://kumanichi.com/column/syasetsu/1518004/
ー流域治水 球磨川でも新たな計画をー

 県南部を中心とした3日からの豪雨では、球磨川の12カ所が氾濫・決壊した。土砂崩れも相次ぎ、犠牲者は日を追って増えている。活発化した梅雨前線はさらに福岡や大分県など九州北部、中部地方にも被害を及ぼした。人命のみならず、家屋の浸水、橋の流失、道路や堤防の崩壊など、各地に大きな爪痕を残している。

 今年に限ったことではない。日本列島は、死者が数十人を超えるような風水害に毎年のように見舞われている。そうした現状を踏まえ、国土交通省が防災・減災の新たな在り方として打ち出したのが「流域治水」である。ダムや堤防だけに頼るのではなく、流域のあらゆる力を集めて豪雨災害を防ぐ、という考え方だ。

 地球規模の気候変動の影響で、水害を含めた自然災害は大規模化・頻発化している。もはや従来のやり方では対処できず、国交省の方向性は間違っていないだろう。球磨川をはじめ、河川ごとの計画を急いで策定するべきだ。

 これまで治水は、主に国管理の多目的ダム(治水・利水)や河川の堤防を中心に考えられてきた。だが、ハード整備には時間がかかり、それだけに頼るのは限界がある。このため新たな考え方では、国、自治体、企業、住民など流域のあらゆる関係者に協力を求め、ソフトを含め対策を総動員する。

 具体的には(1)土砂災害の危険性がある地域の開発規制や住宅移転(2)雨水をためる遊水地、ビルの地下貯水施設整備(3)ため池や田んぼの貯水機能の活用(4)高架道路の避難所活用(5)鉄道橋の流失防止のための補強-などを進める。

 農業や発電用の利水ダムについても、大雨を予想して事前放流し、雨水のせき止めに役立てる。多くは自治体や電力会社の運営だが、国は全国955カ所のダムと既に協定を結んでおり、事前放流が可能になっている。

 国交省は全国109の1級水系について、地域の実情に応じた「流域治水プロジェクト」を策定するとしている。一刻も早く実行してもらいたい。

 1級河川の球磨川水系では、1963年から3年続けて大きな洪水が発生。国は66年、治水目的の「川辺川ダム」建設計画を発表した。しかし流域に賛否もあって事業は進まず、2008年に蒲島郁夫知事が建設反対を決めた。

 その後、国、県、流域自治体で「ダムによらない治水」の在り方を協議。川底掘削、堤防かさ上げ、遊水地の整備などを組み合わせた10案が候補に挙がった。だが現在までに決定には至らず、その中で今回の豪雨災害が起きた。

 また、球磨川流域では県営市房ダムなど6ダムで事前放流が可能となっていた。だが、豪雨の予測が難しいこともあって現実には実行されず、今後に課題を残した。

 国、県、自治体は今後、「流域治水」の考え方も踏まえて球磨川水系の新たな治水プロジェクトを策定すべきだ。その根底には当然、今回の被害の検証がなければならない。

◆2020年7月12日 高知新聞
https://www.kochinews.co.jp/article/381186/
ー【流域治水】水害に強い地域づくりをー

 「数十年に一度」の記録的な大雨が頻発している。堤防やダムの整備に頼るだけでは、河川の氾濫から地域を守れなくなっている。
  そうした中、国土交通省が防災・減災総合対策を公表し、「流域治水」への転換を打ち出した。

 河川を管理している行政中心だった治水の在り方を見直す。企業や住民も参画する形で、地域の特性に応じた治水対策を進める。
 住民も行政任せの意識から脱却し、水害に強い地域づくりに参加していく必要がある。
 
 転換は「気候変動による水災害リスクの増大に備えるため」だ。河川の氾濫は急増している。
 全国で氾濫危険水位を超過した河川数を見ると、2014年は83だったのが、17年以降は3年連続で400を超えている。
 国交省の防災・減災総合対策では、治水に向けてハード、ソフト両面の施策がさまざま示された。
 例えば河川の氾濫をできるだけ防ぐため、雨水貯留浸透施設を整備し、田んぼやため池などの貯水機能も活用する。
 農業や発電のための利水ダムも活用する。大雨の前に「事前放流」を行い、水位を下げて雨をせき止める容量を増やしておく。
 人々の住み方や土地利用についても踏み込んでいる。土砂災害などの危険がある地域では開発を規制し、住宅移転も促進させる。

 実際にリスクの高い土地が宅地開発され、大規模な土砂災害が起きた例もある。ただ、住宅の移転は容易ではない。補償の必要性も考えられる。減災のためにどこまで踏み込めるのか。国交省には十分な説明が求められる。

 また全国109の1級水系では「流域治水プロジェクト」を本年度中に策定する。県内では物部川、仁淀川、四万十川が対象になる。
 各水系で戦後に起きた最大級の洪水規模を想定し、堤防強化などのハード対策を急ぐ。災害時に行政や住民が取るべき行動を時系列でまとめた「タイムライン」の作成などのソフト対策も進める。

 九州豪雨によって、既に課題も浮上している。氾濫した熊本県の球磨川水系では、国交省が「流域治水」を先駆的に進めてきた。
 流域の多くの自治体はタイムラインを作成していた。しかし住民への周知が不足し、発生が未明だったことも重なって、避難はうまく進まなかった。
 ダムの事前放流も実施できるはずだったが、「想定外の雨量が短時間で降ったため、猶予がなかった」(国交省担当者)として実行されていない。

 国交省はこれらの原因を詳しく検証し、全国の「流域治水」の取り組みに反映させる必要がある。
 九州豪雨の被害に心が痛む。高知県でも起きかねない災害である。
 いかに命を守るか。日頃から防災・減災の行動を意識し、地域の被害を最小限に食い止めたい。