豪雨災害に田んぼダムで備え、栃木で広がる(日本経済新聞)

 栃木県では、台風や豪雨時に水田に一時的に水をためる「田んぼダム」の活用が広がっているということです。
 豪雨による水害が頻発する中、自治体が身近でできる治水対策に取り組み始めています。

◆2020年7月29日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62053160Z20C20A7L60000/
ー豪雨災害に田んぼダムで備え、栃木で広がるー

 台風や豪雨時に水田に一時的に水をためる「田んぼダム」の活用が栃木県内の自治体で広がっている。小山市に続き、2020年は宇都宮市も実証実験を行う。田んぼダムはダム建設や河川改修に比べ即効性があり低コストなのが特徴だ。より効果を高めようと、先行自治体は流域の市町にも普及促進を呼びかける。

 水田は稲の生育のためにもともと水をためる機能を持っている。田んぼダムは排水口から出る水量を専用の調整マスなどで絞ることで、川への排水を人為的に抑える。河川に一気に水が流れ込むのを防ぐことで、下流域の浸水被害を軽減する仕組みだ。

 県内では小山市がいち早く田んぼダムを導入した。15年の関東・東北豪雨では市西部を流れる思川と豊穂川の合流地点を中心に浸水被害が発生した。農村整備課は「従来の排水対策では賄いきれない」と危機感を覚え、田んぼダムに着目したという。

 17年から排水口の流量を絞るキャップなどの取り付けを始めたところ、18年末までに計123ヘクタール、36万9000立方メートル(一般的な25メートルプール760杯に相当)の貯水量を確保した。思川は19年の台風19号でも越水している。協力する農家の数を増やし、田んぼダムを早期に計1100ヘクタール、貯水量にして330万立方メートルに拡大する。

 台風19号の影響で市中心部を流れる田川が氾濫した宇都宮市も田んぼダムに着目した。20年2月に策定した「総合治水・雨水対策基本方針」では、護岸のかさ上げや雨水貯留タンクの設置に加え、田んぼダムの普及促進を明記。7月までに目標の8万立方メートルを大きく上回る21万7000立方メートルの貯水量を確保した。

 20年度は新潟大学の吉川夏樹准教授の協力を得て、田川の上流域に田んぼダムを広げた場合の貯水能力も調べる。センサーやカメラで水位の変化を観察し、シミレーション通りの効果が出そうか検証する。市街地周辺には約9000ヘクタールの水田がある。市は実験結果を踏まえ、協力農家をさらに増やしたい考えだ。

 ダムや堤防といった国や県が担ってきた従来の治水対策は時間と費用がかかる。田んぼダムなら調整マスの設置費用は1基4万円で済む。排水口に取り付けるキャップなら3000円だ。農地の多面的活用を促す農林水産省の補助金もあり、自治体は財政負担を抑えながら取り組める。

 田んぼダムは「河川の流域自治体が一丸となって実施すればより効果が高まる」(吉川准教授)。小山市の農村整備課は20年に入って日光市や栃木市などの担当課に出向いて事業概要を説明したという。宇都宮市の佐藤栄一市長も県内の首長会議などで上流自治体に田んぼダムの普及促進を呼びかけている。

◆2020年8月6日 産経新聞
https://www.sankei.com/affairs/news/200806/afr2008060034-n1.html
ー田んぼダムで水害に強い街に 宇都宮市ー

 宇都宮市は、豪雨時などに水田の排水を抑制することで水害の軽減を目指す「田んぼダム」の普及に取り組んでいる。今年2月に策定した「総合治水・雨水対策基本方針」では、田んぼダムによる雨水貯留量の目標を設定し、大幅にクリア。昨年10月の台風19号時の市内の浸水状況などを踏まえ、水害に強い街づくりを進める。

 田んぼダムは、水田の排水口に調整マスを設置することで、豪雨時に一時的に雨水を水田に貯留して周辺河川などへの排水を抑制する仕組み。下流域での浸水被害を軽減する効果が期待される。

 2月の基本方針で市は、7月末までに対応する先行事業として、雨水貯留タンク設置や田んぼダム普及促進などによる雨水貯留量の目標を計約20万立方メートルに設定。うち約8万立方メートルを田んぼダムで達成する方針を示した。これに対し、7月末までに田んぼダムだけで21万立方メートルを確保。田んぼダム単体で目標全体の雨水貯留量を達成した。全体では目標の約1・6倍にあたる計約33万立方メートルになったという。

 目標達成には市内の農業従事者の協力がある。昨年10月の台風19号による豪雨で氾濫した市中心部を流れる田川。この上流の農業従事者で組織する「うつのみや中央土地改良区」と市は7月、田んぼダムの推進に関する協定を結んだ。同土地改良区ではこれまでに約100人の協力が決定していて、すでに58カ所で排水調整マスを設置しているという。

 台風接近時など豪雨が予想される場合には、気象庁などの情報を受けた市が同土地改良区を通じて協力者に連絡。排水調整を行うなどして減災を目指すことにしている。

 同市の佐藤栄一市長は「昨年の台風被害を受け田んぼダムの対策を行うが、予想以上の協力をいただいた」と農業従事者への謝意を示し、同土地改良区の野沢秀昭理事長は「今後も(田んぼダムの)普及を図っていく」としている。(松沢真美)

◆2020年8月7日 日本農業新聞
https://www.agrinews.co.jp/p51569.html
ー「田んぼダム」収量守り機能発揮 豪雨対策へ簡易器具 農研機構が貯水期間で目安ー

 農研機構農村工学研究部門は、豪雨時に水田に水をためて洪水被害を軽減する「田んぼダム」を稲の減収なしにできる目安を明らかにした。収量が減らない貯水期間を割り出し、手軽に水をためられる器具も開発。雨のピークに水田からの排水量を約40%減らすことができる。生産者の協力を得て、水田の貯水機能を活用した豪雨対策の普及が期待される。

 水田は豪雨時に一時的に雨水をため、その後ゆっくり川に排水して、下流域の浸水被害のリスクを低減する機能がある。田んぼダムは水田の排水部に器具を設置。貯留効果を高める取り組みだ。

 ただ、水をため過ぎると稲への悪影響が出る。そこで同部門は安全に実施するために、これまで不明だった冠水と減収との関わりを調べた。

 「コシヒカリ」など3品種で試験した結果、生育期間を通して、特に出穂前後は冠水に弱い傾向があると判明。収量に影響を与えない貯水継続期間の目安は、穂ばらみ期~出穂期なら1日未満、登熟~成熟期なら3日未満とした。

 水田の水管理を手軽で安価にできる水位管理器具も開発。調整板「ダムキーパー」は、排水口の設定を変えなくても、豪雨時は自動的に排水量を抑えて貯水する。貯水量は許容範囲の水位を超えない程度になる。

 既にトーヨー産業が販売し、価格は材質によって異なるが1枚2000~4000円。落水升「フィールドゲート」(同5000円)と組み合わせて使う。

 田んぼダムの取り組みは、多面的機能支払い交付金(資源向上支払)の助成項目となる。北海道の岩見沢市では約400ヘクタールの水田でダムキーパーなどを使い、田んぼダムに取り組む。市や土地改良区と連携し、生産者が手軽に水害対策ができる。

 2019年までの10年間で、1日当たり200ミリ以上の大雨の発生日数は、85年までの10年間に比べ約1・6倍に増加。同部門は「水田の水深を10センチ高くすれば、1ヘクタールで1000立方メートルの貯水ができる。河川の改修などと組み合わせ、取り組んでほしい」と期待する。