最上川の氾濫

 梅雨末期の豪雨で、7月29日には東北地方で水害が発生しました。
 特に被害が大きいのは、山形県を流れる最上川の流域です。最上川では5ヶ所で氾濫が発生したとのことです。
 山形県がこの数年最も力を入れてきた治水事業は、最上川の支流である最上小国川における治水専用ダム(流水型ダム)の建設でした。清流を守るために漁協が反対し、治水対策には他に有効な方法があると指摘されながら、50年に一度の洪水に対応するためとして強行された最上小国川ダムは、今春完成し、4月24日から運用が開始されています。
 5つの氾濫箇所のうち、最上小国川が最上川に合流する地点より上流が4ヶ所、合流地点のすぐ下流が1ヶ所(大蔵村)でした。最上小国川ダムの治水効果が期待できるとすれば、合流点直下の大蔵村ですが、報道ではどこも最上小国川ダムのことを取り上げていません。

★山形県ホームページ 最上小国川ダム概要
 http://www.pref.yamagata.jp/ou/kendoseibi/180006/damkanri/dammap/mogamioguni.html

◆2020年7月29日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200729/k10012538311000.html?utm_int=detail_contents_news-related_001
ー【最上川流域 被害まとめ】29日午後6時時点ー

 前線や低気圧の影響で、山形県内では記録的な大雨となり、最上川が5か所で氾濫しました。避難指示や被害、氾濫情報などのまとめです。

最上川 氾濫は5か所
 国土交通省によりますと、山形県を流れる最上川は、中流の大石田町で3か所、大蔵村で1か所、それに大江町で1か所の合わせて5か所で氾濫したということです。
 現在、水位は下がってきていますが、国土交通省などは、危険な状況は続いているとして引き続き警戒をするよう呼びかけています。

最上川氾濫で浸水は最大約4メートルか
 氾濫が発生した山形県の最上川沿いについて、国土地理院がSNSに投稿された画像などから浸水の範囲や深さを推定したところ、最も深い場所で4メートルほどに達していることがわかりました。

 国土地理院は、29日午前までにSNSに投稿された画像や動画と標高のデータを使い、最上川沿いの浸水の範囲や深さを推定した図を公開しました。
 推定では、浸水は大蔵村や大石田町など少なくとも6つの自治体で発生しています。
 分析によりますと、最も浸水が深かったのは大蔵村の白須賀地区や比良地区の水田が広がる場所で、4メートルほどに達していました。
 このほか、東根市や村山市の周辺では広い範囲で1メートルから2メートル程度の浸水が発生し、川沿いの住宅地にも浸水が広がっています。
 国土地理院は、「SNSの投稿をもとに推定しているため、実際にはさらに浸水が広がっている可能性があるが、復旧活動などの参考にしてほしい」としています。

観測史上最大の水位 8か所で記録 中流部では雨弱まってから増水
 氾濫が相次いで確認された山形県の最上川では、28日夜から29日朝にかけて、国土交通省の8つの水位観測所で観測史上最大の水位を記録していたことが分かりました。
 国土交通省東北地方整備局などによりますと、観測史上最大の水位を記録したのは、最上川の上流部の4つと中流部の4つのあわせて8つの水位観測所です。

上流部はいずれも28日夜記録し、
▽午後6時半には中山町の長崎で16メートル22センチ、
▽午後7時半には天童市の蔵増で15メートル54センチ、
▽午後9時すぎには河北町の下野で17メートル55センチ、
▽午後11時すぎには村山市の稲下で21メートル63センチでした。

一方、中流部では、いずれも29日になって記録し、
▽午前2時には大石田町の大石田で18メートル59センチ、
▽午前5時には舟形町の堀内で8メートル80センチ、
▽午前6時には新庄市の本合海で9メートル26センチ、
▽午前7時には大蔵村の清水で6メートル70センチでした。

 上流部での増水のピークは28日夜でしたが、中流部では雨が弱まった29日になってからで、上流で増えた水が時間をかけて下流に注ぎ込んでいたことがわかります。

避難指示(29日午後6時)
 山形県内の各市町村によりますと、午後6時現在、新庄市、村山市、河北町のあわせて3つの市と町に避難指示が出されています。

<村山市>
 村山市は、市内全域の8817世帯、2万3372人に避難指示を出しています。

<大石田町 解除>
 一方、大石田町は、大石田地区など1028世帯3074人に出していた避難指示を、午後3時半までに全域で解除しました。町は、大石田中学校の体育館に避難所を設けていて、午後5時の時点で、33人が避難しているということです。

<大蔵村 解除>
 また、大蔵村も、村内の452世帯1414人に出していた避難指示を、午後6時前に全域で解除しました。村では大蔵小学校などあわせて6か所に避難所を設けていて、午後6時時点で406人が避難しています。

 いずれの避難所でも今のところ、けが人や体調を崩した人などの情報は入っていないということです。

避難所
 避難所は29日午前8時半時点で31の市町村に180開設され、このうち11の市町村で合わせて2438人が避難しているということです。

 吉村知事は避難所を開設した31の市町村に28日、災害救助法を適用したことを明らかにしたうえで、被害状況の全容の把握やライフラインの復旧、孤立状態になっている地区の早期の復旧に全力を挙げるよう指示しました。

人的被害 けが1人(29日午前11時)
 山形県が開いた災害対策本部によりますと、酒田市で90代の女性が28日、避難をする途中に転倒し、足を骨折したことが報告されました。

浸水被害 約500棟(29日午後5時)
 NHKが県内35のすべての自治体に取材したところ、大雨による住宅の浸水被害は、午後5時現在で26の市町村で少なくともあわせておよそ500棟に上っていることがわかりました。

 このうち、
▽大石田町では少なくとも116棟、
▽村山市でおよそ100棟、
▽中山町ではおよそ50棟などとなっていて、

 住宅の浸水被害は県内26の市町村で少なくともおよそ500棟に上っています。
 各自治体では引き続き被害状況の確認を進めています。

農業被害 「尾花沢すいか」水につかる
 最上川の中流で氾濫が発生した大石田町では堤防近くの畑に川の水があふれ、収穫前の特産のスイカが水につかるなど大きな被害が出ています。
 県特産の「尾花沢すいか」を栽培する大石田町の堤防近くの畑では、先週から雨が降り続き多くが収穫を控えていました。このため、収穫を控えたスイカが残っていて、あふれた川の水につかる被害が出ています。このうち、町が運営する深堀ふれあい農園でも、およそ10ヘクタールの畑が冠水し、収穫を間近に控えたすいか、およそ4000個が水につかったということです。
 この農園でスイカを栽培する農家の男性は、「7月の末頃に収穫する予定だった。まさかここまでの被害になると思っていなかった」と話していました。
 スイカが水につかった影響で、「みちのく村山農協」の西部すいか選果場は、29日のスイカの出荷量は通常時の3分の1程度になるとしていて、シーズン全体では、例年より2割ほど出荷量が減るのではないかと予想しています。

断水 大石田町ほぼ全域 尾花沢市でも約半数(29日午後3時半)
 NHKが山形県内35のすべての自治体に取材したところ、大雨の影響で断水している世帯は、午後3時半現在、3つの市町村で合わせて4800世帯余りに上ることがわかりました。

▽大石田町では、町内の水道施設が冠水し、ほぼ全域にあたる2310世帯で断水しています。
▽同じ施設が水道水を供給している隣の尾花沢市でも、全体の半数にあたるおよそ2500世帯で断水しています。
▽大蔵村では、大雨で道路が被害を受け、一部の地区で地下の配水管が破損したため、36世帯が断水しています。

 いずれの地域も、今のところ復旧のめどは立っていないということです。

携帯電話は復旧(29日午後6時)
 NTTドコモによりますと、大雨の影響で、29日午前から大蔵村の一部の地域で携帯電話がつながりにくい状況が続いていましたが、午後4時半過ぎに復旧したということです。

河川氾濫情報(29日午前11時)
 山形県が29日開いた災害対策本部によりますと、
▽最上川の4か所で氾濫が発生したことに加え、
▽県が管理する河川でも合わせて44か所で堤防から水があふれ農地が水につかるなどの被害が確認されているということです。

「時間差での氾濫 雨やんだ後も警戒を」専門家
 最上川で雨が弱まったあとに氾濫が相次いだことについて、河川工学の専門家は、今回、上流で降った雨が下流に向かって流れてくるまで時間がかかったため「時間差での氾濫」が発生したとしたうえで、「大きな河川沿いで大雨となった際は、雨がやんだ後も警戒が必要だ」と指摘しています。

 河川工学が専門の東京大学大学院の池内幸司教授は、NHKが上空から撮影した最上川沿いの映像などを分析しました。
 この中で池内教授は、今回、氾濫が発生した大石田町の付近の地形に注目しました。
 比較的川の流れが緩やかな盆地部分の下流に川幅が狭くなる「狭さく部」があるとしたうえで、このような地形では、「狭さく部」の付近で増水した川の流れがせき止められるようなかたちになって氾濫が発生しやすいのが特徴だと言います。
 また、今回の大雨では、28日夜に最上川沿いで雨が弱まった後、29日になって氾濫が相次ぎましたが、この原因について池内教授は、最上川は流域が広く支川も多いため、時間をかけて川の本流に雨が流れ込むうえ、上流に注ぎ込んだ水が下流まで流れてくるのにも時間がかかったためだとしています。
 そのうえで、「最上川のような大きな河川は、ほぼ同じような特徴を持っていて、雨がやんで晴れた後に氾濫することが起こりうる。大きな河川では、雨が弱まった後、半日から1日程度の時間差で氾濫することもあると思って警戒することが必要だ」と話していました。

 それでは、大きな河川の付近では、具体的にどのような備えが必要なのか。
 池内教授は、「自分が住む地域で浸水が想定されているかをハザードマップで確認したうえで、大雨となったときは、雨がやんだ後も川の水位の変化に注意することが大切だ。特に今回のように、夜間に氾濫の可能性があるような場合には、暗い中で避難するのは危険で、早めに安全な場所に移動しておいてほしい」と指摘しています。
 そのうえで、「最上川のような大きな河川は全国に広がっているので、今回のようなケースも教訓に意識を高めてもらいたい」と話していました。

◆2020年7月29日 朝日新聞
https://digital.asahi.com/articles/ASN7Y3VXVN7YUTIL003.html
ー1m浸水の自宅にぼうぜん「何も言えない」 最上川氾濫ー

  山形県大石田町では町内を流れる最上川が3カ所で氾濫(はんらん)した。川沿いに住む女性(78)は29日朝、1メートル近く浸水した自宅を見つめてぼうぜんとしていた。

 前日28日午後9時ごろ、町が出した避難指示を受け、車で高台に避難。日付が変わる頃に自宅を見に行ったところ、浸水していなかったので戻ろうとしたら、消防団の男性に「水が迫っているから避難して」と言われて再び離れた。ちょうど水が自宅に押し寄せてくるところだったという。

 ほとんど寝ていないという女性は「こんなこと初めて。畑も浸水し、何も言えません」と疲れた様子で語り、車に戻った。これから町内の避難所に向かうという。

 同じく最上川があふれた大江町左沢では、住民たちが避難先から川沿いの自宅に戻って泥水をかき出す作業を始めていた。

 会社員の男性(56)は、自宅1階の駐車スペースに深さ30センチほど積もった泥を黙々と押し出した。28日午後6時ごろ、母親(80)と車で避難所に避難し、一夜を過ごしたという。

 男性宅は1階部分の駐車スペースは天井すれすれまで水につかったものの、2階から上の住居部分は浸水を逃れた。町内では約30戸が浸水被害を受けたが、人的被害は確認されていない。男性は「建物は水につかってしまったけれど、地域にけが人などがいなくて本当によかった」と話した。

 住民らによると、県内で8人が亡くなった1967(昭和42)年の羽越水害で、この地域は2メートルほどの浸水被害を受けたという。このため、水害後に住宅を新築や改築する際、1階部分は駐車場にし、住居部分は2階から上にする家が多かったという。(鷲田智憲、江川慎太郎)

◆2020年7月29日 NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200729/k10012539701000.html
ー早めの避難 けが人なし 最上川氾濫の大石田町ー

 今回の記録的な大雨で山形県内では住宅の浸水など大きな被害が発生しましたが、住民たちは早めの避難を心がけ、実行に移しました。

「空振りでもかまわない」早めに避難指示
 最上川が3か所で氾濫した大石田町では、1028世帯、3000人あまりに避難指示が出され、4人に1人が避難所に避難しました。
 町のほぼ全域が断水し、浸水被害を受けた住宅も100棟以上に上りましたが、けが人は1人もいませんでした。

 町は最初の氾濫が起きた時間帯の5時間以上前、28日午後6時すぎに流域の地区の住民に「避難勧告」を出し、午後7時半に、「避難指示」へと切り替えました。
 災害への対応に当たった大石田町総務課の高橋慎一課長は、「最上川と同じように急流として知られていた熊本県の球磨川が、短時間で氾濫した最近の災害も参考に、早めに避難勧告を出した。水位の上がり方が尋常ではないと感じ、空振りになってもかまわないと、早めに避難指示に切り替えた」と話しています。

「命第一主義で」住民も早めの避難
 こうした町の対応とともに、住民たちが早めの避難を心がけていたこともわかりました。

 大石田中学校に設置された避難所に避難していた80代の男性は「堤防ぎりぎりまで上がった水位を見て、町から避難指示が出れば、すぐに避難しようと考えていました。家のことよりも、命第一主義で素早く動きました」と避難するまでの経緯を振り返りました。

“地域のつながり”で呼びかけも
 さらに地域のつながりが迅速な避難につながったケースもありました。

 浸水被害が発生した豊田地区の区長を務める芳賀清一さん(72)は、自治体から避難勧告や避難指示は出ていませんでしたが、川が「氾濫危険水位」に達するのを確認し、消防団員などと一緒に、地区の住民たちに早めの避難を始めるよう呼びかけたということです。

 地区のおよそ90世帯が速やかに公民館や小学校に避難したり、自宅の2階に避難したりした結果、逃げ遅れた人はいなかったということです。

 芳賀さんは、「この地区では毎年のように梅雨や台風の時期に浸水被害があるうえ、最近では各地で豪雨被害があったので、みんなも危機感を持っていたと思う。これまでの教訓を生かして、今後もとにかく早めの避難を呼びかけたい」と話していました。

専門家「早めの避難心がければ命を守れる」
 今回の記録的な大雨で、山形県内では今のところ、死者が出ていないことについて、災害時の避難に詳しい東北大学災害科学国際研究所の佐藤翔輔准教授は「九州など全国で大雨に関する報道がされる中で行政が危機感を持って早めに避難指示などを出したことに加え、地域の区長など身近な人が住民に避難を呼びかけたことも早めの避難行動につながったのではないか」と指摘しました。

 そのうえで、「近年は雨の降り方が激しくなる中で川から水があふれ、被害を避けることは難しくなってきている。しかし、早めの避難を心がければ、命は守ることができるので気象情報をこまめに確認して避難行動につなげてもらいたい」と話していました。